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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二話 そのパーティーメンバーの日々を僕は知らない
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その頑張り過ぎな魔物を僕らは知らない

 ズズン、地面を揺らしながら大木が一つ、ゆっくりと倒れて行く。

 カレーニャーの森の木がまた一つ破壊された。

 ズズン、さらに一つ、今度はバキバキと周囲の枝を折ながら倒れて行く木が途中で粉砕される。


「ニャーっ!?」


 逃げ出すカレーニャーの群れ。

 森に生息する生物たちもまた、危機を察して逃げまどう。

 倒れる木の近くに残っているのは、たった二体の魔物であった。


 一体はカレーで出来た身体をどろどろにしながらも必死に体勢を整える魔物。

 カレーニャーの進化系、カラクチカレーニャーのさらに先、ゲキカラカレーニャーである。

 この森の守護者として存在してかれこれ30年は経過しただろうか、歴戦の軍隊教官とも思える鋭い眼光を持つゲキカラカレーニャーは今、かつてない危機を迎えていた。


 対峙しているのはあまりにも弱いはずの魔物だ。

 名をガルーという。

 ガルーはこの付近の原っぱに生息するカンガルー型の魔物であり、そのジャンプ力を生かした体当たりか蹴りで攻撃する雑魚系魔物である。


 彼らが倒せるのはにっちゃうくらいであり、他の魔物を相手すれば確実に殺される存在だ。

 しかし、目の前のガルーは違う。そもそもこれがガルーであるなどと信じたくも無い。

 そいつはガルーの容姿をしながらも、筋肉に塗れていた。


 鍛えに鍛えた肉体は、はち切れんばかりに膨れ上がり、スプリンターも真っ青の筋肉質な足から繰り出された蹴りは今、大木を粉砕したばかりである。

 まさにバケモノだ。だが、それだけならばゲキカラカレーニャーの敵ではない。

 何しろゲキカラカレーニャーに物理攻撃は通用しないのだから。


 否、通用しない、筈だった。

 あり得ない事が起こっていた。

 ゲキカラカレーニャーは先程くらった一撃を考える。

 ただの蹴りだったはずだ。だが、自分の身体にはダメージが残っている。

 物理攻撃だったはずなのに、ダメージが通っているのだ。


 あり得ない。そう思いつつも相手の規格外さからそれもあり得ると思う自分がいた。

 ゲキカラカレーニャーは口元のカレーを拭ってガルーを睨む。

 久々に、本気を出さねばならんらしい。


「ぎにゃぁぁぁぁぁっ」


「ガルゥー」


 ガルーも何かしらの危機感を持ったらしい。サウスポーに構える。


「シャァッ」


 全体重を乗せた全力猫パンチ。

 一気に距離を詰めた一撃がガルーに襲いかかる。

 その刹那、あり得ないモノがゲキカラカレーニャーの視界を埋め尽くす。

 咄嗟に顔を引いた次の瞬間、ガルーの拳がゲキカラカレーニャーに突き刺さった。


 クロスカウンター。

 互いに拳を顔面にくらい、しばし硬直する。

 跳びかかった状態のゲキカラカレーニャーが重力に引かれて落下。後頭部からべチャリと地面に激突した。


 直ぐに液状カレーから元の身体に戻る。しかし、自身の負ったダメージはあまりに深い。

 なんとか必死に何でもないような顔をして見せるが、折角戻した身体が崩れ、足元が液状化してしまう。原型を保てない程に疲労しているのだ。


 対するガルーはよろめくものの、被りを振るって息を吐く。

 気合いを入れ直すようにしてサウスポーに構えた。

 どうやらまだまだ相手の方がやる気らしい。


 勝てないかも、しれないな。ゲキカラカレーニャーは唇を噛みながら構える。

 正直、負けないはずの敵が余りにも大きく見える。

 筋肉質のガルーはあまりにも理不尽な存在だった。


 ただの物理攻撃なのに、自分にダメージを与えられることもそうだが、その破壊力がケタ違いである。

 ゲキカラカレーニャーと対戦する前は草原地帯にいたブルーエレファやアグリーカバなどを撃破していたのだ。まるで強い奴を探しまわるようにして、様々な敵を倒していた。

 そんな相手に、選ばれてしまったのだ。

 最初は問題無く倒せると思ったが、ここまで強いガルーに出会ったのは初めてだった。


 強いなガルー。

 思わず、話しかけていた。

 相手から話が返ってくるとは思わなかったが、どうやら向こうも話くらいはしてくれるようだ。


 僕は強くなりたいんだ。まだ、自分は弱い。マスターのためにもっと強くなりたい。だから、僕の強化に付き合ってほしい。

 そんなことを言われた。一瞬意味が分からなかったが、マスターとはおそらく契約を結んだ人間か何かだろう。つまり、そいつがガルーという雑魚魔物と契約してくれたから、それに報える存在になりたい。そう言う事なのだろう。


 ゲキカラカレーニャーと互角以上に戦える時点で強くなり過ぎだと思うゲキカラカレーニャーだが、彼がまだまだ満足していない様子なので、殺されない程度なら付き合ってやると告げてみる。

 するとガルーは嬉しそうに眼を細めた。

 恩に着る。


 敵対しているとは思えない程に、そこから先は互いの全てを費やし闘いあいながらも、どこか相手を認めていた。相手と共に自分の新たな可能性を探すようにして、ダメージを与えて行く。

 結果、二人は同時に動けなくなっていた。

 だが、それで満足だった。


 強いな、ガルー。

 あなたもだ、ゲキカラカレーニャー。

 そして、この日、新たな友情が……生まれた。

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