そのやりすぎてる男を僕らは知らない
ロックスメイアは今、桜並木が咲き乱れ、花びら舞う風靡な国となっていた。
国の代表である巫女ツバメは屋敷の縁側に座り、お茶を静かに飲む。
花びら舞う光景に、縁側に正座しお茶を嗜む女性。その前方には地面に敷き詰められた砂利。生垣が築かれた場所には獅子威し。
ツバメがお茶を飲むのと同時に獅子威しの音が鳴り響く。
国家代表として会議に出席したり、祈祷などを行うツバメであるが、彼女の日常は基本暇だった。
家の掃除やら何やらは側女が全て行ってしまうので、日の殆どはこうして縁側でお茶を嗜んでいるのだ。
最近は屋敷の塀の外に建てられているアルセ教ロックスメイア支部が見えるという変化があった程度で、それ以外は全く今までと変わりない。
「平和……ですねぇ」
不意に、自分の口から洩れた言葉に驚く。
自然と出てしまった言葉にクスリと笑みを浮かべ、空を見上げた。
本日も、穏やかな風が吹いている。
ロックスメイアは今日も平和だ……
「巫女様ッ、記者団がアルセ姫護衛騎士団についてお話をお聞きしたいと来ておりますが、いかが致しましょう?」
「本日そのような予定は聞いておりませんが……」
「先程マイネフランから戻って来たとか言ってますが。なにぶん興奮した様子で、ぜひともあのパーティーの事を聞きたいと」
記者団の暴走は結構有名だが、余程あのパーティーが気になるらしい。
これは数回に渡る記事になるんだろうな。と思いながらツバメは立ち上がる。
あまり気は乗らないが、この程度のトラブルであれば願ったりだ。毎日の刺激の一つとしてツバメは相手をすることにした。
ロックスメイアは、本日も平和であった。
所変わってダリア連邦。こちらはロックスメイアと違ってとてつもない状況になっていた。
ステファン・ビルグリム指示のもと、荘厳に建てられたアルセ教の支社があまりに黄金過ぎてもはや教会としての神聖さが潰されていたのだ。これに憤慨したのがステファン。
作成を任され、彼の言うとおりに作ったマイネフランの職人達に斬りかかりそうになったので今、慌てて従者たちに止められていた。
職人達は言われたとおりに作ったのだ。彼の実家横に、二つ目のアルセ教会を作りたいというから、彼の言葉通りに作っただけである。
黄金を存分に使った純金製のアルセ教会。
まばゆい教会は入るのも躊躇ってしまう程にケバケバしい。
というかもう、成金趣味過ぎて入る気にならない。
内部も黄金で眼が痛い。
中央に存在する巨大アルセ像も磨かれ過ぎて黄金に輝き眼にする事すら出来ない。
黄金で作られたパイプオルガンは音が変だし、金属製の椅子は冷た過ぎて座りにくい。
美を意識し過ぎたが為に実用性の無い教会になっていた。
でも、職人達に罪はない。これはステファンの発注ミスである。
しかし、自分のミスでアルセ神を盛大に祝えなくなるというミスを認めたくないステファンは全てを製作者に向けることで己の罪を無くそうとしていた。
だが、ここで奇跡は起こった。
教会前に建てたアルセ像が一つ、突然崩れてステファンの頭に落下して来たのだ。
従者が直ぐに気付いて諸共逃げたために難を逃れることには成功したが、ステファンにはこれがアルセ神からの警告にしか思えなかった。
ただの偶然ともいえるし、振り回していたステファンの武器が当って倒れて来たという自業自得ともいえるのだが、彼にはまるで自分の行動を見ていたアルセ神がお怒りだと言っているようにしか思えなかった。
慌ててその場に平伏し、己が非礼を詫びる。
それだけでは飽き足らず、黄金の教会に足を踏み入れ、アルセ像を前に更なる祈りと懺悔を行い始めた。また、五体投地を始め、部下が止めに入ってすらも強引に振り切ってアルセ神へと祈りをささげた。
五体投地で頭を打った時だった。
チカッと何かが走った。
まるで導きでもあったかのように、それまでの奇行が嘘のように穏やかな笑みで立ち上がるステファン。
呆然としていた職人達に頭を下げると、指示を出して教会の変更を頼んでいく。
この状態にプラチナを足し込むことで金銀の色どり鮮やかな教会へと作りかえるのだ。
また、使い勝手の悪かった場所は代替案を募りながら皆で教会を変えて行く。
彼が一体何に気付いて何を見たのか、それは誰にもわからない。
ただステファンだけが、時折そのことを思い出してくふふと思い出し笑いを始めるくらいである。
なんにせよ、彼が覚醒してから作られたアルセ教会ダリア連邦支部第二教会は、壮麗ながらもどこか神聖味漂う聖堂の一つとして、以後、長々と人々に愛される教会となったのである。
数年後、純金で出来た教会を知った犯罪集団がこの教会を狙ったが、ステファンの防衛システムによりその後、彼らを見た者は誰もいないと言われている。




