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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第十部 第一話 その騎士団を抜けた者たちのその後を僕は知らない
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その異世界での出来事を僕らは知らない

 ふっ、ふっ、とパルティエディア・フリューグリス、通称パルティは素振りをしていた。

 その周囲には何も無い。完全に暗闇しかない場所で、彼女は一心不乱に剣を振るっていた。

 今は丁度前任者である神の一人が飽きたとか言いだして、次の神が来るまでの交代待ち時間であった。

 次に教わる神の名は、マロンというらしい。


 なのだが、一向に来る気配がない。

 女神マロンの容姿はなぜか人型であり、見る人が見ればちょっとオタク系入ったメガネのお下げ娘といった容姿であるのだが、パルティからすればただの女神としか見ていなかった。

 そんな女神は少し前にやらかしたそうで、今は女神としての力を全て封印されているのだと言う。

 ではそんな神から何を教わるのか? パルティは全く予想すらできない。


 解説スキルを覚えさせるとか言ってはいたが、それ以外に何を教えてくれるのだろうか? 他の神々からは様々なスキルを色々と教えて貰っている。

 中にはスキルだけを強制的に覚えさせてあとは勝手に使えという神までいるのだ。

 御蔭でパルティ自身把握しきれていないスキルが彼女の中に大量に眠っている。


「遅い……」


 1000回の素振りを終えたところでパルティは自分から女神を探す事にした。

 スキル探査を使用して神々の位置を探す。詳細鑑定で女神の名前を探して位置を特定すると、そちらに向かい瞬間移動スキルで移動する。

 やって来た場所には一台のパソコンと呼ばれる神具。女神マロンがよく使っている道具だ。

 どういうものかはパルティにはわかないが、これはなんですか? と聞いた時にマロンがパソコンだにゃぁ。と教えてくれたのである。


 画面上では様々な光景が流れていて、一心不乱にキーボードというモノを叩きながらマロンは何かの作業を行っている最中だった。

 声をかけるのも憚れるのだが、ずっと待っている訳にも行かない。

 どうしたものかと戸惑っていると、不意に、マロンの両手が止まった。


「い、い、い……」


「い?」


「居たああああああああああああああああああああああああああっ!!」


「ひゃ!?」


「うおわっ!? 何あんた、いつの間に後ろに!? まさか、秘密を知ったあちしを殺しに来たか!?」


 思わず叫んだマロンに驚いたパルティに驚いたマロンが突然振り向き訳のわからない事を叫ぶ。

 意味が分からず眼を白黒しているパルティを見て、ようやく事態を把握したマロンは、恥ずかしそうに頭を掻いた。


「あー、いや。その、今ちょーっと不始末というか、あちしのクラスメイトっていうのか、まぁ、ちょっと行方不明のが一人居てね、ようやく見つけたんだよねー。はっはぁ。あの野郎こんな場所に居やがったのかってね。あ、で、何の用?」


「いえ、次に教わるのがマロン様でしたので」


「あー、いや、でもあちきは今能力封印されてるからにゃぁ。パルティっちが下界に降りた際に使用したスキルを周囲に解説するくらいしかできないですな……ん、いや、待てよ。おお、これは名案ではないですか。ちょっとグーレイさーん。名案浮かんだよーっ」


 あの珍妙な姿の神はグーレイというのか。などとどうでもいいことを考えるパルティ。

 そんな彼女を放置して、席を離れるマロン。

 後にはパソコンとパルティだけが残される。


 気になったので覗いてみると、画面の先には赤いスーツ姿の男の動画が映っていた。

 ずいぶんと苦戦しているようにも見える。

 彼が指揮するのは異形の生物たち。まるで魔王軍とでも呼べそうな存在だ。

 対応しているのはパルティと同じ人族の軍団。

 まるでこれから大戦争でも起きそうな状況であった。


「ほらほら、早く来る!」


「なぜ私が拉致されるのか不思議なのですが。というか、私はグーレイなんて名前じゃありません。あれは教国の一つが勝手に神の名を決めてるだけで……」


「監察官とかしか呼び名がないんだからいいじゃない。グーレイで統一しとけ。容姿もグレイじゃん。それよりほら、見てよ! これから連絡は入れるけどもう、ヤバい感じでしょ」


「おや、確かにこれは最終戦争といった様相ですね」


「しかもここの世界、管理者があの女神なのよ」


「あの女神……ですか。また面倒な」


「真名システムがあるけど、その辺りはあんたが何とかすればいいから、ほら、ちょちょっと助けちゃくれない? 助っ人送るまでの間でいいから、おねがぁい」


 と、マロンが猫なで声でグレイ型の神へと迫る。


「貴女がやるとイラッとしか来ませんが。まぁ、あの知り合いにはアルセたちが世話になりましたしね。ああ、そうだ。丁度良いですパルティさん」


「はい?」


 話しに付いて行けずに疑問符を浮かべるパルティに、グーレイとマロンが意地の悪そうな笑みを浮かべた。


「ちょっと実力確認してみませんか? 【実戦】で」


「はぁ?」


 神々に愛されし少女の冒険譚が今、始まろうとしていた。

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