そのクラン会議を僕らは知らない
四角い長テーブルが四つ。一つの机に役10名の人間が座っている。つまりは合計40人程が椅子に座っていた。何人かはテーブル前にある椅子に座れず予備の椅子に座って隅の方で話を聞いている。そちらは殆どが新人冒険者だ。
会議に参加させても意味が分からないだろうからただ聞いて貰おうと思ってそこに座って貰っている。そろそろ二時間が経過するためか何人か眠っているが、こればっかりは責められない。
できるならば自分も寝てしまいたいと、テーブルに頬杖付きながらアレン・ボルダートはぼぉっと紛糾しているクラン会議を見守っていた。
クラン『赤き太陽の絆』は本日、年一回の全員集合クラン会議の真っ最中である。
本日集まったのは八つのクラン。計48名である。新人が9名居るためそいつらは隅の方の椅子に。残りの39名がテーブルを挟んで向い合って座っている。
本日は今年の活動報告なのだが、どうやらパーティーの一つが殆ど活動していなかった事が問題として提議されているようだ。
話を聞くと、手痛い失敗でパーティーが全滅近い打撃を受けたらしく、リーダーともう一人以外が新人というパーティー編成になっていて、新人育成に精を出していたらしい。前リーダーが先へ先へと進む男だったのだが、そいつの無謀行軍により死者多数となったうえ、リーダー自体も死んだようだ。
副リーダーだった女性が命からがら回復役の少女と共に逃げ出したため、彼女がリーダーとなり、ゆったりと新人育成を始めた。
未だに薬草摘みと近くの魔物を軽く討伐しているだけらしい。
新人たちの実力ならもう少し難易度のある場所でも充分通用するため、他のパーティーからさっさと次の場所へ向えとお小言を貰っているところである。
アレンとしてはどちらの心情も理解出来る。
おそらく目の前で仲間の死を見せられたせいで過保護になっているんだろう。あの二人はしばらく使い物にならないかもしれないな。
「しゃーねぇ」
不意に声を発したアレンに視線が集まる。
頬杖を外してアレンは姿勢を正す。
「リファインたちのパーティーはしばらく俺のパーティーと合流させる。問題はあるかバラツィオ」
「それはつまり、彼女たちの育成をクラン長たちのパーティーで面倒見ると? 良いでしょう。貴方がそう言うのであれば私からはありません」
渋い顔をさらに渋面にしたバラツィオがようやく身を引く。
彼とて別にリファインたちを攻撃したいわけでもイジメたいわけでもない。ただ仲間の死を恐れるあまりに若い才能の芽を摘んでしまうことを恐れているのだ。
「ふふ。これでまたクラン長の女好きに拍車がかかりますね」
「うるせぇよアディッシュ」
「そろそろアレンも結婚前提に良い人探した方がいいんじゃない?」
「戦乙女のクラン長も結婚したんだっけ」
「まだよ。モーネットさんは彼氏が出来たってだけ。ねーアレン」
「うるせぇ。だぁってろルティシャ。余計な御世話だよテメーら。俺はその気になりゃ選り取り見取りなの。しっかり見定めてんだよ。やはり付き合うならデカパイちゃんだからな」
その瞬間、クランに所属していた女性の殆どがアレンを敵と認定した。
「ふふ。アレンは私にゾッコンだものね?」
「やめろイーニス。お前とはただの遊びだ」
「やだもう。おませさんなんだからっ」
筋肉質のイーニスがやぁだ。とばかりに手をひらひらとさせるのを視界から消し去り、アレンは全員を見回す。
「んじゃぁこの議題については俺が責任持つってことでいいか」
異議はでなかった。アレンは満足げに頷き次の議題へと取りかかる。
「あーっと、次は何だっけか? いや、その前にトイレ休憩入れるか? 新人さんはそろそろヤバそうだ」
「おお、確かに、では10分程休憩と参りましょう」
休憩になった瞬間新人たちが慌てたように会議室を出て行く。
ソレを見ながら俺も昔はああだったな。と遠い目をするベテラン勢。
「ところでアレンさん。あんな安請け合いしちゃいましたけど、新人たちと一緒に冒険するんですか?」
僧侶のヒックスがこの機会にとアレンに話しかける。体勢を崩して伸びをしていたアレンは伸びを終えてから眠そうな顔で応えた。
「ああ。せっかくだからトップパーティーの実力見せつけて向上心植え付けてやろうかなってな。正直新人共は草むしりばっかりで止めたそうにしてたみたいだから、心機一転になってくれるんじゃねーかな。あとリファインたちのリハビリになるだろ。最悪あのパーティーに預けりゃどうにでもなる」
「あのパーティー?」
「アルセ姫護衛騎士団だよ。あそこのパーティー会う度に人が変わっててな。どいつもこいつも一癖二癖あるんだ。しかも最初は普通の人物だったのにってのが結構いる。今のリーダーであるリエラちゃんも元々あいつらみたいな新人だったんだぜ? なのにまだアルセに出会って一年くらいだろ、時代劇の逆塔踏破したらしい」
「あそこを!?」
「まぁ、ほんとかどうかは知らんがな。ギルドで聞いた情報だし。だがそれだけ噂がでるほどの強さを身に付けたっつーことだ。凄いだろ。普通の冒険者が考えられねぇ成長だ。ちょいと、興味深いだろ。何人か向こうに研修させてみたいんだよな」
どんな変化が起こるか楽しみだ。
そんなアレンが視線を向けるのは、トイレを終えて戻ってくる新人冒険者たち。
ヒックスは哀れな贄たちに心の中で同情するのだった。




