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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第十部 第一話 その騎士団を抜けた者たちのその後を僕は知らない
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その記者たちの明暗を僕らは知らない

 ロックスメイア記者団の一人、ナーナは傷付いた身体に鞭を打って歩いていた。

 正直どこをどう歩いたのかすでに覚えておらず森で迷子になったと言っても良かった。

 オークの集団が数千も現れ襲って来た時には死を覚悟した。


 記者団は散り散りになってしまい、ナーナは一人きりで森に残された。

 いつどこでオークに出会うかも分からず怖々森を歩く。

 少しでも立ち止まればその場から動けなくなってしまう。今はそれこそが悪手なのだ。

 とにかく足を動かす。それだけを考え必死に歩く。


 森を抜けるかセルヴァティア王国、あるいはツッパリ達の泉でもスマッシュクラッシャーの縄張りでもいい。記者団の一人として顔を覚えられているはずなのだから、保護してくれるだろう。

 だから、ナーナは懸命に歩いた。

 ソレが良かったのだろうか? 急に開けた場所に辿りつく。

 木で作られた柵が簡易に作られた広い場所。一件の古めかしい蔦の這った洋館が存在し、その庭で、洗濯物を干しているエルフが一人。

 お腹が膨らんでいるので妊婦なのだろう。


 その日常的風景を見て思わず息を吐くナーナ。

 今までの緊張が一気に解れた気がする。

 その吐いた息の音が聞こえたのだろう。ぴくっとエルフの耳が揺れ動き、綺麗な女性がナーナに振り向いた。


「あら? 珍しい。可愛らしいお客様ね」


 クスリと笑みを浮かべたエルフの女性に、ナーナは警戒感を解いて彼女の元へ歩み寄る。


「あの、すいません。ロックスメイアから来た記者団の一人、ナーナと言います。あ、これ、名刺です。ロックスメイアではかなり流通しだしたんですけど……」


「名刺……ですか? あら。これは確かに便利ね。自分の名前と役職が書かれているのね。会社の場所も書かれているわ」


「ロックスメイアにご降臨なさった勇者様が齎したものです。自己紹介のために配るモノなのだそうで、良かったら貰って下さい」


「ええ。ありがとう。それで、ここには何の御用で? 何かの取材かしら?」


「あー、その、実はこの森にオークキングが居ると言う噂を耳にしまして、その取材に。ただ、途中でオークと遭って襲撃されて皆と散り散りに別れてしまいまして。よければセルヴァティア王国へ戻る道を教えて……いただければ……あの、どうしました?」


 突然、話の途中でエルフの顔に怒りが見えた。

 何か言ってはいけないことを言ってしまったのだろうかと不安になるナーナに、怒りを押し殺すようにしてエルフが笑顔で質問した。


「オークに襲撃、されたのですか? 本当に?」


「え? あー、えっと。その。実は雇った冒険者が鉢合わせしたオークに斬りかかりまして、そのオークは逃げたのですが、直後に数千のオーク集団に襲われて皆が散り散りに……」


 嘘を言ってはいけない。本能的にナーナは悟った。

 真実を告げると、「……そう」と冷たい声をだすエルフ。

 ナーナに向って歩いて来ると、その肩をぽんっと叩いてすれ違う。


「もうしばらく、ここに居ると良いわ。それで、はぐれたメンバーは何人かしら?」


「え? えっと、記者団が私を入れて六人、冒険者が四人……です」


「分かったわ。ギルバートさんたち、バズのお尻見てる暇があるならこの人頼みますよ」


「え? あの、ちょっと……?」


 戸惑うナーナを放置して、妊婦エルフが森へと消えてしまった。

 一人残されたナーナが途方に暮れていると、森の一角からガサガサと草むら揺らして現れる四人の男女。

 厳つい男が頭を掻きながら嬢ちゃんこっちだ。とナーナに促して来たので、戸惑いながらもナーナは彼らの元へと向かう。


 庭の一角にあった白いテーブルを前にして椅子に座らされる。

 その目の前と左右に座ってくる三人の女性。

 男は椅子が足りなかったようで立ったままだった。


「あー、まずは初めまして、『オークのプリケツを愛でる会』リーダーのギルバートだ。こいつ等は右からモンクのハーレット、魔術師のソルティアラ、プリケツマスターアキハだ」


「はぁ……プリケツマスター?」


 唐突な展開に付いていけないナーナだが、彼らからの情報は捨て置けない物だった。

 ナーナたち記者団が追おうとしていたオークキング。その正体はマイネフランの大英雄とされるバズ将軍だったのだ。さらにその妻にして拳帝エンリカが、先程出会った妊婦であるという。

 オークマザーでもあるエンリカに、子供であるオークを襲い、集団で反撃されて逃げたと告げてしまったのである。それはもう怒り狂うのは確実だった。


 なんてことを恐ろしい人に告げてしまったのだろう。ナーナは青い顔をしながら散り散りになった仲間たちの安否を気遣う。

 女帝が動いた以上血の雨が降るかもしれない。恐れ慄くナーナに、ギルバートは苦笑する。


「そこまで恐れるこっちゃねーよ。まぁオークが一匹でも死んでたら終わってたかもしれねぇが、お前らはオークに敵わず逃げたんだろ。だったらエンリカさんが暴走し過ぎることはないって。多分全員回収に向ったんじゃないかな」


 事実、一時間ほど後、身重のエンリカにボコボコにされた冒険者四人と青い顔の記者団三人が回収されていた。

 残る二人のうち一人は、泣きベソかきながら森に居たところを人知れず捜索に出ていたバズにより回収されていたのだが、ソレはまた別の話である。

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