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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第十部 第一話 その騎士団を抜けた者たちのその後を僕は知らない
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そのハメられた存在を僕らは知らない

 月も雲に隠れた黒き夜道に、一人の男が所在無げに立っていた。

 虫の鳴き声が聞こえる。瞬く星々を見上げながら、男はただただ本日も無為に時間を潰していた。

 彼はその場から動くことは無い。否、動く事が出来ない。


 アルセ神の怒りに触れた男は移動不可というスキルを付けられ、その場から動く事が出来なくなっているのである。

 外道勇者ヘンリーである。

 ぼぉっと夜空を眺めていたヘンリーは、不意に周囲から虫の声が聞こえなくなった事に気付いた。


 何か、危険が迫っている。

 しかもただの危険じゃない。逃れることのできない程に恐ろしい危険だ。

 逃げたくとも、逃げられない。

 毎日のようにやってくる悪夢の時間。


 直感的に理解したヘンリーは震えながら周囲に視線を走らせる。

 誰もいない。何もいない。でも、気配が四つ。

 何かが来る。ソレが理解出来る。


 フラッシュバックする記憶。

 同じような状況が前に何度もあった気がする。

 そして恐怖がヘンリーを支配する。


「お、おい誰か! セイン、セイ――――ンッ! テメェいっつも必要ねェ時だけ現れてる癖になんでこういう時現れねェンだよッ! クソッ、動け、動けよ俺の身体ァっ」


 恐怖が迫る。

 逃れる術は無い。

 肩を誰かに掴まれる。

 ああ、今日もまた――――……


「ぐぁっ!?」


 突如、聞き慣れない男の声が響いた。

 ヘンリーの肩にかかっていた野太い腕が消え、赤い血だまりが地面に作られる。

 姿の見えない誰かが、姿の見えない誰かに切りつけられたのだ。


「カミュ、貴様!?」


「ハードモットさん。証拠、掴ませていただきました!」


 少女のような声が聞こえ、口笛が盛大に鳴り響く、その刹那。教会の扉が開き、城の城門が開き、何処からともなく無数の兵士たちがヘンリーを取り囲む。

 何が起こったか理解できずに眼を白黒させるヘンリーを放置して、魔法使いの一人が何かの呪文を唱えた、その刹那。

 ヘンリーの真後ろに四人の男が姿を現す。


「バカな!? これは……」


「よぉハードモット。あんまし接点は無いが、王子になったカインだ」


 兵士達を掻きわけるようにして現れたカインが四人の男に視線を向ける。


「カインだと!? アルセ姫護衛騎士団の元団長がなぜ!? はっ、まさか……謀ったかカミュッ!」


「済みませんモンドさん、マイケルさん。僕は王国の影なんです。ヘンリーを夜な夜な襲う危険人物の調査、ここに完了しました! ケンジさん!!」


「よくやったカミュ!」


 カミュがマイケルに、そして上空から降り下りて来たケンジがモンドに切りかかる。

 マイケルの拳がカミュに当るその刹那、横合いからシャロンが入り込み拳を受け流す。


「ケンジ、シャロン!? なぜだ! なぜ邪魔をする!」


「男同士結婚したのはまぁ、許す。そういうのもアリなんだろうさ。だがなモンド、テメェらはヤリ過ぎた。国王命令により国賊ハードモット、モンド、マイケル。お前達三人を拘束する」


「ケンジぃぃぃッ!!」


 激昂したモンドが切りかかる。が、ケンジの実力に及ばず背後から腕を取られて地面に倒された。

 マイケルもまた、二体一ではカミュとシャロンの猛攻を交わし切れず地面に倒され、兵士達により拘束された。

 絶体絶命の状況を悟ったハードモットは逸早く包囲を抜け、迫り来た兵士に自分の唇を押し付けようとして引かせると、そのまま包囲突破。闇に紛れようとした瞬間だった。


「コ・ル!」


 聞き覚えのある声が聞こえ、ハードモットの足が凍りつく。


「バカな!? ナポ……だと?」


 そこに居たのは『天元の頂』パーティーメンバーとして共に闘っていた魔法使い、ナポ・リティアン。

 さらにベロニカ、オルタ、エンリッヒが彼女を守るように現れる。

 咄嗟に足元の氷を斧で叩き割り逃げようとするハードモットだが、その視線の先には、リーダーバズラックが待っていた。


「ば、バズラック……」


「残念だハードモット。少々遊び過ぎたな」


「何故だ!? 俺は別に国賊になるようなことはしてないっ! そうだろうバズラック!?」


「ヘンリーを襲うのは、まぁ公序良俗には良くないのだがな。それよりも問題なのは王城とアルセ教前で夜な夜な、姿を隠してヘンリーを穢したことだ」


 ばかなっ!? とハードモットは叫ぶ。

 ただ己の欲望を満たしただけだ。いつものように男に新たな道を指し示しただけ。なんの罪があると言うのか!

 だが、バズラックは哀れみを浮かべた視線をハードモットに向けた。


「王族の住まう門前で姿なき襲撃者による度重なる襲撃。王族侮辱罪になるらしい」


「バカな!?」


「王族などいつでもこのようにできると主張するサイレントキラーとして騎士団が警戒し、そのせいで王国の警備の低下も招いている。またアルセ教の前に居るヘンリーが汚れることでアルセ教に入りずらいという信者が多い。彼を洗浄するのもアルセ教の最高司祭、ああ、位が変更されて教皇になるんだったか。セインの時間を束縛していたからな。宗教関係者の業務侵害は重罪だ」


「し、知らなかった。知らなかったんだ!」


 叫ぶハードモットが騎士団に捕縛される。

 最後まで泣き叫ぶハードモットを見ながら、バズラックは静かに首を振った。

 もはや、どれ程言い逃れをしようともヘンリーを襲っていた現行犯だ。逃れる術はすでにない。

 空しい、事件の結末だった……

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