その少女が行っている稼ぎを彼らは知らない
「よぉあんた。また来たのか。毎日毎日よくもまぁこんなブツを用意できるな」
その日、いつものようにやって来た全身をフードで隠した女に、いつものように声を掛ける男。
全身くたびれた姿の男だが闇ギルドでは名の知れたブローカーである。
あらゆるモノを売りさばくことに長けた闇ギルドでは絶対的地位を持つ男だ。
そいつに売ればどんなものでも必ず金に変わる。
例えソレが盗品であれ人であれ、道端に落ちていた骨であれ。
だから男は名と容姿を広く知られながらも闇の存在たちから暗殺されることは無い。
何しろ自分たちの後始末を請け負う事もしてくれるのだから。
そんな闇にどっぷりとつかった男が、相手に素性を聞くなど本来はする事は無かった。
だが、小奇麗な衣装をボロ布で隠した女が毎日毎日あり得ない量の金塊を売りに来るとなれば話は別だ。
あまりにも奇妙過ぎてついつい聞いてしまうと言うモノだ。
といっても相手が教えてくれるはずもない。そもそもが自分の名が広く知られ過ぎていることから品物を差し出して来るだけで商売が成立してしまうのでこの女とは会話すらした事が無い。
いつも一方的に話しかけるだけである。
差し出された革袋を貰い、代わりに昨日の革袋を返してやる。
こいつの持って来る金塊は純金だ。あまりにも純度が高いので最初に貰った時は驚いたモノだ。
しかもソレを毎日持って来る。
おそらく今までの金塊の売れた量だけで城が一つ買えるだろう。
なのにこの女はそんな金塊を毎日一定量持って来るのだ。
「あんまこういうの言うのはダメなんだろうけどよ。お前さん、裏業界でも噂になってる。そろそろ道中に気を付けねぇと殺されて金か金塊奪われても文句言えねぇぞ?」
「あら、心配してくれるの?」
珍しく、女から返答があった。
おや? と思ったら女は既に踵を返して帰ろうとしている。
「大丈夫よ。むしろ、仕掛けて来て貰った方がここいらを一掃する大義名分が出来て良いわ」
「は? あ、おい、あんたまさか……」
少女の言葉で男は辿りついてはいけない結論に至ってしまった。
マズい。いや、自分は別にマズい訳ではないが、あの女を襲った相手は確実に闇からも放り出される。
アレは手を出してはいけない存在だ。特に、このアルセ教が支配し始めたマイネフランで、あの関係者に手を出すことは、国を敵に回す事を意味する。
早めにこの情報を闇ギルド経由で回しておかないとアホがヤバいことに……
男が動きかけた瞬間だった。
店を出た瞬間に、女に襲いかかる男達が見えた。
「ああ。馬鹿どもが……」
思わず額に手を当て男は店の前に出る。
案の定だった。
突っかかった男達は影たちにより即座に鎮圧されていた。
「あら? どうかした?」
「いいや。予想通りで呆れてるだけだ。この金塊の出所と金の行き先も予想付いたし、闇ギルドの方に情報回しとくが、いいよな? 側室の姫様よ」
「あらいやだ。私は謎の女でしかないわよ」
クスクスと笑いながら去って行くボロ布に包まれた女。
そいつから眼を放すと、既に襲撃した男達は影により処分されたようで、その場から消え失せていた。
「はぁ、こりゃ早めに闇ギルドに伝えて襲撃止めないと、この辺りの住人が一掃されかねんな。時期国王の側室襲うなど大問題だぞ」
しかし。と男は店に戻って女から売られた革袋を開く。
黄金に輝く純金の塊。ソレがどういうモノかを知った彼は、何とも言えない顔になる。
「かぁ……知りたくなかったぜ。しっかし、成る程、コイツなら確かに毎日売れるわな。何しろゴールデンベアの姫様が生きてる限り永遠に生まれ出るんだからな。ヤクに女に入れ歯に契約書。今までいろんなもん売って来たが……金色の糞売ったのは始めてだ」
「ふぅ」
ローブの女は周囲を見回しながら王族のみが許された隠し通路の扉を開けて入り込む。
内部に入ると同時にローブを脱ぎその場に投げ捨てた。
現れたのは現マイネフラン王子カインの側室であるルルリカだった。
「とうとうバレちゃったわね。まぁあの人ならそこまで問題にはしないでしょぅ。何しろ闇を知り過ぎてる存在。情報の機密という面ではこれ程口の堅い存在は居ないわね。私としてはバレてもそこまで困るものでもないけど」
ルルリカは先日報告書の束を見ていた事で気付いたのだ。
マイネフランの財政が、結構逼迫していることに。
その理由はアルセ教だ。
この教団を立ち上げることに金を融資し、グーレイ教から横槍が入らないよう総本山と呼ばれるグーレイ教国に多額の献金を行ったからである。
このまま行くとカインが王位を継いだ時には軍資金が無さ過ぎて何も出来なくなりかねない。
別にそれでカインが困るのは気にならないのだが、その妻となったネッテまでが困ることになるのはどうにも辛いものがあった。
居ても立っても居られなかったルルリカはゴールデンベアにお願いし、彼女の糞を毎日闇商人に売り、予備資金を稼ぐことにしたのである。
「これでなんとか、財政立て直しはできたけど、見ていてくださいネッテお姉さま。ルルリカがより良い暮らしをお姉さまに提供致します!」
ネッテのため、ルルリカはまだまだ金を稼ぐことを心に誓う。
目標はネッテが働く必要もなく一生遊べる金を捧げることである。
夢は、遠大であった。




