その影の政務者を彼らは知らない
マイネフランの王城で、国王は次期国王となる予定の人物へ自分の仕事を教えていた。
ジェームス王子、ではなくカインである。
第三王女であるネッテの夫となった勇者は、今、なぜか次期国王として王族の勉強をさせられていた。
一緒にネッテとルルリカが同席して作業に付いて一緒に勉強をしているが、結果は芳しくない。
元来冒険者のカインに国政を執らせるのは難しいのである。
しかも、カインもあまり乗り気ではないらしく、授業の殆どをぶっちしてアルセ教本部に逃げ込んだり聖樹の森でネッテと冒険を始めたりと居なくなる事が多い。
そもそも第一王子であるジェームスがいるのだ、カインが王としての執務を取り行う必要は無いのである。
結果、なぜか業務のやり方をルルリカに教え込む王という謎の光景がよく展開されるようになっていた。
ルルリカとしてはネッテにお願いされてしまったので情報を余すことなく覚え、後でカインに落とし込むつもりであるため、王の授業をルルリカが受け、ソレを後でルルリカからカインたちに説明されるというよくわからない状況。
結果を言えば、ルルリカはそれなりに優秀なようで政務を徐々にこなし始め、むしろカインじゃなくてルルリカが王になっていいんじゃないか? と思えるほどに有能な働きをしてくれていた。
王もジェームス王子ももはやルルリカが政務に携わることに違和感を覚えなくなるほどに順応してしまっているのである。
つまり、形だけの王カインが居て、貴族のお茶会などに出席するのはネッテ。政務全般を行うのは側室のルルリカという配役が出来上がっているのである。
ジェームス王子はカイン要らないんじゃないかな? と思わなくもなかったが、カインに王としての資質が無いのでそこは仕方無いと言える。
ならば自分が王になっては? と思う者もいるのだろうが、ジェームス王子は王として国を運営する苦労を間近で見てきたため、自分が同じ事を行おうなどという気は毛頭なかった。
そんな面倒事は新しく出来た弟に投げ渡し、自分は宰相にでも収まった方が気楽なのである。
幸いなことに義弟君との仲は良好なので暗殺される心配も無い。
むしろ自分から王位を譲ろうと言う奇特な第一王子なのだから快く迎え入れられる方なのである。
カイン本人からいえば有難迷惑なのだろうが、ジェームスは王位を譲る気満々だった。
「陛下、この書類なのですが……」
王族がサインを記す企画書などに眼を通していたルルリカが一枚の書類を取り出す。
王とジェームス王子が一緒になって覗いてみるが、別段気になる書類ではない。
内容は国で新規に商会を建てたいという人物が王国が管理している土地を買い取りたいという旨の書類だ。金額的には適当なのでサインしても問題は無い。
というか、王ならばサインしていただろう。
「この商会、コイントスでオトした男の親のモノと思われるのですが、かなり黒い噂がございます。了承するのはいいですが、動向を注意しておくべきと思います」
「そ、そうか」
ルルリカ、恋多き少女の進言に、王は考える。
彼女がこう言うのだ、相手の商会はかなり黒いのだろう。となれば、今回これを了承する事で何らかの旨味が手に入り、この土地で黒い商売が始まる可能性がある。
「ジェームス。騎士団に連絡を。早急にこの人物の素性を洗え」
「あ、ソレについてはついさっきこちらの魔道具で連絡を入れておきました。騎士団長が間もなく到着するはずです」
ルルリカが通信用魔道具を取り出し告げる。
かなりの高額であるため王族とその周辺くらいしか出回っていない道具だが、ルルリカは私物として持っており、騎士団長や魔術師団長、宰相、などの重役に連絡を取れるように配って回っているのである。
昔に大量に男の一人から貰い受けたので大盤振る舞いしても問題無いらしい。
マイネフラン王国としても情報網がしっかりと繋がるので重宝しており、ルルリカが齎したモノを全て挙げると今までの防備からは比べ物にならない程に厳重な防備になっていた。
「それと、アルセ教本部から、最高司祭がセインという女性になるという報告書が上がってます。こちらですね」
「ほぅ、あの最高司祭は名誉顧問になるのか」
「ジェーン・ドゥさんでしたか? ん? アカネさんでしたっけ?」
「ジェーン・ドゥは偽名だそうですよ。アカネが本名らしいです。あの人らしいやり方ですね。面倒事をセインちゃんに全部丸投げしたみたい」
よくよく考えれば年端もいかない少女に教団の全権指揮を任せるというのは大問題の気がしないでもないのだが、セインはセインで教団の仕事は全力で覚えようとしているので適任であるとも言える。
しばらくはまだアカネが口出しをするので暴走し過ぎることはないだろう。
ルルリカも一応セインとは話が出来るように通信具を渡しているので直通で意見交換位は出来るようにしている。セインの大暴走は様々な場所から諌められるようにされているのである。
「なぁ息子よ」
「何かな父さん?」
「ルルリカが居ればもう国王お前でもよくね?」
「はっは、御冗談を」
国王とジェームス王子はルルリカの作業する様子をみながらどうでもいい会話で時間を潰すのだった。




