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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第四話 その少女が神々の御許に旅立ったことを彼らは知りたくなかった
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その少女が神の御許に旅立ったことを彼女は知りたくなかった

「うぅ……ぐす……」

「パルティぃ……」


 式場は今、涙一色に染まっていた。

 祝詞を唱え死者に冥福を祈る村長エルフ。

 壊れた顔でソレを見つめるエンリカの御両親。一応生きてたけど眼から生気というモノが失われています。全員集合での葬式だから無理にでも出席させられたそうだ。


 涙に暮れるお葬式。弔われる死者はパルティです。

 ちなみに彼女は神々の御許に旅立ったので今この場にはいません。

 居たら多分叫んでるだろうなぁ。私生きてますからぁっ! って。

 神の御許に旅立つって隠語は死亡するってことなんだけど、パルティの場合隠語ではなく正式に神々の御許に旅立って神様たちが預かってるらしい。

 ソレを皆に伝えたいんだけど、皆はアルセがパルティ上に行った。というジェスチャーを曲解したので今から訂正するのはちょっと難しい。


 誰か話が出来る人が正確な理解できててくれればよかったんだけどなぁ。

 お葬式はエルフ式で、既に佳境に差し掛かっている。

 僕はなんとかリエラの肩を叩いて意識を向けさせることに成功した。

 何度もやったけど泣いてばかりで反応してくれなかったんだよね。


「なん、ですか透明人間さん。私、私悔しくて。なんでパルティの想いを知れなかったんだろうって……ぐすっ。私がもっとしっかりしてればパルティが無謀な闘いで死ぬ事なんて……」


 葬式の意味が分かっていないアルセを連れて来てリエラの前で首を振る。

 横に振ったんだけど、どうもリエラはお前は悪くない。といっていると曲解してしまったらしい。

 だから、違うんだって。パルティ死んで無いんだって。


 えーっと、どう伝えればいいんだ?

 とりあえず……僕はアルセの身体を使って魔物図鑑をリエラに見せる。

 泣き腫らした目元を拭い。なんですか? と僕らに意識を集中させるリエラ。

 アルセはパルティの名前を指して、その指先を天へ。


「うん。パルティは天に行ったんですよね。それが何か……?」


 僕はさらにアルセの手を操り闘うジェスチャー。

 リエラは意味が分からず怪訝な顔をする。

 その後、アルセは再びパルティの名前を指し、今度は天から真下へ指先を降ろす。


「……??? えーっと、今のは、えっと、パルティは天に向かって、闘う? それで、天から、降りる?」


 自分で言葉にして、ソレを飲み込むように意識が追い付く。

 次第、顔が青くなっていく。


「も、もしかして、パルティは亡くなったのではなくて、天に昇って修行? ソレが終わったら……戻ってくる?」


 僕はアルセの顔を操りこくりと頷く。

 リエラの顔が一気に青ざめた。

 うっと胃を押さえる。


「うぅ、胃が、胃がぁ」


 パルティが生きていると分かって嬉しかった。しかしそれよりも、勘違いから彼女の葬式をこれ程盛大に行ってしまっていると言う事実にストレスが限界値を振り切った。

 直ぐに回復して元気な筈の胃を押さえ、リエラが死にそうな顔をしている。

 気のせい、気のせいだよリエラっ。リエラの胃は健常だからっ!


「うぅ……リエラ。退棺だって。お別れ言いに行きましょ」


 ミルクティがやってくる。

 びくんっと驚いたリエラは私どうしたらいいの? と不安げに僕を見る。

 いや、僕もどうしたらいいのやら。


 簡単に言えば勘違いでした。といえばいいんだ。

 パルティ生きてました。なーんだそうだったんだー。で終われる……わけがない。

 もはやここで真実を暴露など出来る段階ではないのだ。


「ん? どうかしたリエラ?」


「いえ……何も」


 胃を押さえながらさっとミルクティから視線を逸らしたリエラ。呟くような声でなんとか返す。

 うぅ、リエラに教えるんじゃなかった。またストレス抱え込んじゃってるじゃないかリエラさん。

 空の棺桶っぽいものに近づき、お別れの言葉を告げるミルクティ。


「パルティ、よく頑張ったわ。これからはもう……安らかに眠りなさい」


 そしてリエラは、既に泣けなくなってしまい胃を押さえ、青い顔をしながら死んでもいない相手への永遠の別れの挨拶を言うべきかどうか戸惑っている。

 すまないリエラ。真実を打ち明けるタイミング間違えた。


「ぱ、パルティ、あの、えぇと……いつかまた、会いましょうね」


 ミルクティがその言葉を聞いて、来世が抜けてるわよ。とか言ってるけど、違うんですとも言えないリエラは言葉を濁すしか出来なかった。

 他のメンバーも口々に別れを言い、ミーザルが涙ながらになぜ俺を見続けながら死ななかったんだとか不敬なこと言ってアニアに拳骨落とされていた。そんな中、ルクルが戸惑い気味に、棺桶の中にカレーライスを設置する。


 皆はお別れの変わりだと思ったようだけど、多分やる事思いつかなくてとりあえずカレー置いただけのルクルさんは、僕の元に戻ってくると、これ、どうしましょう? といった困った顔をしていた。

 そして、カレーの入った棺桶がエルフ達に抱えられ、近くの共同墓地へと埋葬されるらしい。

 結構人間文化寄りだねエルフ。


 土の中へと埋まって行くカレーライスの入った棺桶。これではパルティの埋葬ではなくカレーライスの埋葬である。

 まぁ、パルティを弔っているよりはマシだろうか?

 って、ああ、リエラが胃を押さえてうずくまって吐きそうになってるっ!?

 落ち付けリエラ。それ気のせい。気の迷い。リエラの身体は健常ですよっ。常に健康だからストレス感じても胃は痛くなってないはずだよっ!


 そしてパルティの葬式が、滞りなく……終わった。

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