彼が嫌われる理由を誰も知らない
「バズ・オークは私の紋章を刻んでいるだけの魔族よ。アルセに忠誠誓ってるみたいだから縛る必要が無いの」
「じゃあ、従魔といっても殆ど自由なんですか!? 人間社会に適応できてるなんて、凄いですね」
エンリカは話が通じるネッテからバズ・オークの情報を引き出そうと必死である。
危険な森を歩いていることを忘れたかのようにガールズ・トークを行っている。
ユイアが苦笑いしながらバルスが遅れてないか時々見ている。
バルスはアンブロシアツリーを持ち運ぶので一苦労だ。討伐部位が分からないので小さく解体して特徴的なモノを全部持っているので歩みが遅い。
そんなバルスから時折アンブロシアツリーの蔦を奪い取り踊りながら付いて行くアルセ。
なぜかバルスから蔦を奪う時、決まってバルスを蹴ってから蔦を手にしている。
で、しばらく振りまわすとぽいっと森の中へと捨ててしまう。
で、また新しい蔦を奪って行く。
少しずつだけどバルスの持つ荷物が減って行っている。
あ、あの実は食べられる奴だっけ。回収回収。
謎のアイテムボックスみたいな現象を見付けてから僕は食べられそうなモノを懐にしまっていた。
これで他人の目を盗みながらちょいパクしてお腹を満たす必要が無くなる。
いつでも食事ができるぞ。
とりあえずはこのアイテムボックスみたいな現象で消えた荷物が時間経過でカビるかどうかを調べないとね。
ちょっと熟し気味の果実を一つ回収してしまってみる。これで数日後に結果が出るはずだ。
うん、とりあえずこのアイテムボックスみたいな現象のことはポシェットとでも名付けよう。
とりあえずそれっぽい果実の特徴を思い浮かべながら取り出しを念じると出てくるみたいだし。
そのうちリエラと二人きりの時に荷物整理もしておこう。
「にしても、あの子、アルセに嫌われてるわね……」
遅れ気味のバルスがまたアルセに蹴られて蔦を奪われる。
重量物を持ったままなので抵抗すら出来ないバルスは「あっ」と叫ぶしかできなかった。
そして捨てられるアンブロシアツリーの蔦。
折角の討伐部位がどんどん減って行く。バルス涙目である。
「ぶひっ!」
「あ、皆さん、バズ・オークさんが何か見つけたみたいです!」
エンリカがバズ・オークの言葉を代弁する。
この人もう完全に意志疎通出来てる気がする。
愛の力は偉大って奴か? 幼馴染さん、ピンチですよ!
バズ・オーク的には綺麗な嫁候補が出来て嬉しいと思うけど、僕ならエルフ嫁最高なんだけどなぁ。バズ・オークはどうなんだろう?
「ぶひっ!」
「むぅ? 敵かと思えばお前か。待ちくたびれたぞ豚人族よ」
「あ、クーフッ!? よかった無事だったのね」
おお、ようやく皆の場所に戻れたらしい。一安心だ。
茂みを掻きわけ近づくと、リエラとアメリスが隣合って座っていた。
いや、寝てる。まるで姉妹のように仲良さそうに肩寄せ合って寝てやがる。
クーフ先生お疲れ様であります!
「なんと、アルセもいるのカ。ということは、こいつはお前達を探してくれていたのか」
「ぶひっ?」
「アルセはバズ・オークとずっと行動してたんじゃなかったの!?」
「初めは我々と一緒だった。少し前に独りで走り去って行ってな。リエラが放っておいて大丈夫だというのでこちらの警護を優先した」
「そう。アルセが……本当、不思議な娘ねこの子は」
ネッテが驚いた顔でアルセにしゃがみ込んで頭を撫でる。
アルセは笑顔で撫でられるに任せる。当初のように首を捻ることがなくなったので撫でられる行為については理解したらしい。笑顔が一層輝いてみえます。
「そういえば、アルセちゃんの登場はタイミング計ったみたいだったよね。あのままだと私達かバズ・オークさんのどっちかが死んでたかもだし。アルセちゃんの出現でバズ・オークさんの身分がわかったし」
「そっか。そう思えばアルセちゃんがバズ・オークさんと私を引き合わせてくれたって思えるね。ありがとうアルセちゃん」
とエンリカが同じように頭を撫でる。ってこら、アルセ指咥えちゃだめだって。
「くっはぁ。重かった。アンブロシアツリーって言いましたっけこの蔦結構な重量だよ」
遅れていたバルス到着。
皆がこの辺りに留まっているので一度解体した部位を置いて一息つく。
そのままその場に座り込んだ瞬間、アルセが渾身の蹴りを叩きこんだ。
尻を蹴られたバルスが悲鳴を上げる。
「あらら、嫌われたわねバルス?」
「なんで俺だけっ!?」
「なにか気にくわないことしたんじゃないの? ね、バズ・オークさん?」
「ぶひ?」
事あるごとに話題を振ってバズ・オークの気を引こうとするエンリカ、そして気付いていないバズ・オーク。先は長そうだ。
でも、本当にバルスはなぜこうもアルセに蹴られるのだろう?
たぶんアルセにとって蹴りやすい尻してるんだろうな。




