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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
  第一話 その世界の名を彼は知らない
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その剣の強度を彼女は知らな……かった

「私はリエラといいます。一応戦士志望です」


 キャンプを張ってようやく落ち着いた冒険者たちは、各々自己紹介を始めていた。


「私は、ネッテ。魔術師よ」


「俺はカインだ。先日勇者にクラスチェンジしたんだ」


 勇者って……職業なのか? ってか本当に勇者かよ。許せん。


「勇者っていうと、かなり高かったですよね費用」


 勇者……金さえあればクラスチェンジできるのか。有難味ないな。


「まぁ、金を作るのは苦労したけど、それだけでメリットが大きいからさ」


 カイン、後で一発殴っておこう。いや、理由は無いけどなんとなく。


「あの、お二人とも、ありがとうございました」


 まずは、とリエラが礼を言う。

 ネッテもカインも気にするなと気恥かしそうに言いながら、礼を言うなら俺らを案内した奴にだろ? と緑の少女に視線を向ける。

 串に付いた焼き魚を食べていた少女は、視線を向けられ、思わず首を捻った。

 心なし、人間が怖いのか、僕の裾をギュッと握る。


「この子、なんていう名前かな?」


「魔物だから名前なんてないでしょ」


「アルセイデスだからアルセでいいんじゃねぇか」


 カインのどうでもいいといった言葉で彼女の名前がアルセになった。


「お前、アルセだってさ」


 僕はアルセに言ってみる。しかし、やっぱり聞こえなかったようだ。


「僕の名前は……言っても誰にも聞こえないか」


 溜息を吐きながら話に耳を傾ける。

 どうやら自己紹介が済んだ彼らは自分たちが何をしていたかを話に挙げているようだ。


「そうなんですよ。私、アローシザーズの牙を狩ってくる依頼を受けてて。初めての依頼だから張り切っちゃいまして……あんなことに」


「確かにこの森にいたな、そんな生物」


 アローシザーズ?

 名前からしてヤバそうな感じが分かる。

 アローって矢って意味だろ。シザーズはハサミだっけか。

 矢とハサミ? 全然想像つかないぞアローシザーズ。


「でも、一人であれと戦うのは危険でしょ。雄叫び上げられたら別の魔物を呼ぶし」


「そ、そうなんですか!?」


 どうやらリエラは知らなかったらしい。

 ネッテに言われて顔を青くしていた。

 というか、吼えるってことは動物系か?


「まぁ、俺らはただの経験値稼ぎだし、手伝ってやるぜ」


「お金が尽きそうでね、ここで金目のモノ手に入れようってなったのよ」


「アルセイデスの蔦は10万ゴスだからな」


 ゴスというのが金の単位らしい。それがどれほどの価値か分からないけれど。


「そ、そんなに貰えるんですか!?」


 思わず喉を鳴らすリエラ。アルセを横目でちらりと見る。

 しかし、すぐに首を振った。


「いえいえ、ダメです。命の恩人を売るなんて、私できません」


 一度、考えたな……


「ま、アローシザーズの牙で我慢しようぜ。2000ゴスくらいにはなるだろうし」


「そうそう、皮をなめしたらいろいろと使えるし、食事にもなるしね」


 食べるんだ、魔物……というか、この世界では動物の部類に入るんだろうか?

 まぁいいか。どうせ僕の話なんて誰も聞かないんだ。

 とりあえず魔物と呼んどこう。

 そして、僕は、初めての野宿をするのだった。




 不意に、揺すられる感覚に目が覚めた。

 はて、母さんが起こしに来たのか珍しい。と、思って目を開くと、視界に飛び込むのは青空だった。

 なんで外に?


 寝ぼけた頭で必死に考えながら上体を起こす。

 緑色の少女が心配そうに揺すっているのが目に入る。

 ああ、そうか。

 意識がはっきりしていくごとに身体の節々から痛みが現れる。


「やっぱ野宿は辛いな……」


 心配そうなアルセの頭を撫でてやる。

 すると、すぐさま笑顔になるアルセ。

 やっぱり懐かれているんじゃないだろうか?

 アルセが離れるのを見守って起き上がる。

 軽く伸びをして周囲を見回すと、すでにカインとネッテは起きていた。


「ん? 見ろよネッテ、アルセの奴、謎の行動止めたぞ」


「なにやってたのかしらね?」


 僕を起こしてたんだけど……誰に言っても伝わらないか。


「しっかし、リエラはいつまで寝る気? 本当に冒険者?」


「見張りにも起きてこなかったしな。まぁ初心者らしいから仕方ねぇだろ」


「逆にアルセはえらいねー。ちゃんと起きてたものね」


「つか魔物は寝ないんじゃねぇのか? 俺が見張りの時もずっと起きてたぞ」


 僕は思わず目を見開く。見張りをしたりしてたのか彼らは。

 全然気付かなかった。

 でも、当然と言えば当然だ。野宿中に魔物とやらに襲われれば全滅しかねない。

 これは僕の居た現代世界でも野営で行われていたことだ。

 こういうところは一緒なんだな。と少し安堵した。


「そういえばカイン、あんた余分な剣とかあったっけ?」


「あ? んなもんないぞ? 必要か?」


「ほら、リエラの剣、ボロボロじゃない。この子の扱い方のせいかもだけどさ、こんな剣でアローシザーズなんて戦える?」


 ネッテはリエラの剣を鞘から引き抜き持ちあげる。

 かなり刃零れが酷い。後、一度でも振りおろせばポキリと折れそうだ。


「中心にまでひび割れが起こってるでしょ」


「あー、こりゃダメだな」


「でしょ?」


 涎垂らして夢の中にいるリエラの前で、ネッテもカインも困った顔を浮かべていた。

 随分とお人良しな奴ららしい。

 まぁ、アルセを見逃すばかりか一緒に行動してるんだ、お人良しなのは確実だろう。


 困る二人に、アルセが近づく。

 気付いたネッテが目線に合わせしゃがみ込むと、僕が持たせていた木の枝を差し出すアルセだった。


「あはは、木の枝で戦えって? ムリだと思うわよ」


「いいんじゃないか? すぐ壊れる剣よりは強いだろ」


 無茶も良いところだ。

 木の枝の方が折れた剣より強いとも思えない。

 カインが木の枝を受け取ると、アルセはさらに両手を差し出し、掌をボロボロの剣に向けて上下に振る。

 カインの背が高いせいで、斜め上に向けられる手は、まさに手の届かない場所にある物を取ろうとする子供のようだった。


「ん? こいつを代わりにほしいのか?」


「別にいいんじゃない? どうせ攻撃力なんて皆無だし」


「リエラの奴に聞いてみた方がいいんじゃないか」


 というか、起こさないといつまでも寝てるんじゃないかな、この人……

 僕はリエラに歩み寄ると、肩を揺すってみる。

 日が落ちるまでここで待ちぼうけなど冗談じゃないからってこともあるけれど、なんだかアルセが可哀想だったからだ。


 結論付けるならさっさと付けて欲しい。

 玩具を取り上げられて必死に返してと泣き叫ぶ子供を見てるみたいで耐えられない。

 しばらく揺すっていると、ようやく目を開くリエラ。

 んぁ? と意味不明の言葉を吐いて起き上がる。


「あ、起きた」


「……あ、おはようございます」


 眠気眼を擦りつつ、リエラは立ち上がって伸びをする。

 欠伸と共に周囲を見渡し、現状把握。


「ああ、そっか。一緒にキャンプしたんでしたっけ」


「寝ぼけてるとこ悪いけどよ、お前の剣。木の枝と交換してやってもいいか? もう折れそうだしさ」


「いいですよ~」


 欠伸をしながら答えるリエラ。おそらく話の半分も理解してないはずだ。

 それでも、カインは色よい返事を聞いた瞬間、アルセに剣を渡していた。

 受け取ったアルセは興味深そうに剣を見て、掲げて、目を輝かす。


「おお――――っ」


 余程嬉しいのか、感嘆を漏らしていた。

 踊るように剣を振りながら彼らの周囲を回りだす。


「なんかすごい嬉しそうね」


「あれは踊ってんのか? それとも嬉しがってんのか?」


 両方だと思う。

 が、勢い余って木に剣がぶつかった瞬間だった。

 パキィンと切ない音を響かせ剣は真ん中から折れた。

 アルセの動きが止まる。


 折れた剣を眼前に持ってきて。刃先が消えていることに気付く。

 首を捻って周囲を探し、折れた刃先を見つけて駆け寄った。

 拾い上げて再び傾げる。

 そして皆に見せつけるように、それらを掲げて振り向いた。


「もう折りやがった……」


「って、私の剣が――――っ!?」


 ようやく頭の働きだしたリエラだったが、すでに後の祭りだった。

登場人物紹介


 主人公

 ・この世界では透明人間のような存在。


 アルセ

 ・アルセイデスと呼ばれる魔物。

  緑の肌と深緑の髪を持つ少女。

  頭に双葉が揺れている。胸と下半身だけ蔦で隠してる。

  彼女の落とす蔦は10万ゴスの価値がある。


 カイン

  クラス:勇者

 ・銀の胸当て、レッグアーマー、ロングソードを装備した二枚目の男。


 ネッテ

  クラス:魔術師

 ・白いローブと樫の杖を持つピンク髪のポニテ女性。


 リエラ

  クラス:村人

 ・レザーメイルを着た少女。木の枝装備決定。

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