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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第四話 その少女が神々の御許に旅立ったことを彼らは知りたくなかった
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その少女が見ていることを僕らは知らない

「透明人間さん、ちょっと、いいですか?」


 魔物軍団のお戯れを見ていた僕に声が掛かったのは、深夜が過ぎた頃だった。

 そろそろ寝るか。と思っていたところに、ドアが開き、リエラが顔を出したのである。

 彼女の方から僕を訪ねてくるとは珍しい。


 アルセを確認。鼻提灯ぶら下げて寝入っていたので放置してリエラの元へ、肩を叩くと了承の意味に捉えたようで、先に部屋から出て行った。

 僕が外に出ると、当然のように後からルクルさんがスト―キングを開始する。

 正直恐いです。


 どこ行くのかとリエラに着いて行ったのだけど、なぜか村から少し外れた森の中の広場に向かう。

 そこに倒木があったので、それにリエラが腰掛けた。

 僕は周囲を見回し危険が無い事を確認してからリエラの横に座る。

 少し離れた後にルクルさんが到着。茂みの奥から僕らを監視し始めました。


「ふぅ、すいませんわざわざ呼び出して」


 気にしてないよ。と言えればいいんだけど、僕の言葉は届かないのでリエラの首を使わせて貰って頷いておく。


「えーっとですね。その、ブラックリエラ、でしたっけ。ソレと闘った時にわかったんです。今の私、凄く強くなってるって」


 確かに強くなってるのは認めるけどねリエラさん、もっと前に気付こう。普通単身で飛行鬼倒せないからね。パルティとルクルが死に掛けてたの見てなかったの? あの化け物単身で撃破してたよね?

 しかもその前の地下100階層から95階に戻るまでは普通に廊下ですれ違うみたいなエンカウント率を全て撃破してたでしょ。


「今までも、それなりに強くなれたかなって思ったりはしてたんです。でもカインさんとか、ネッテさんとか、私が強くなる頃にはもっと手の届かない場所に行ってて、ずっと、私は新人のままでした」


 ふっと、儚げな笑みを浮かべるリエラ。自嘲するように軽く笑いながら空を見上げる。

 僕も釣られるように空を見る。夜の帳が降ろされた空は星の瞬きで埋まり、現代世界のように街灯やらなにやらが無いせいだろう、天の川のような星空がそこに広がっていた。

 異世界だからだろうか? 少し形状がちがったりしているが、月明かりも遠い星空は銀河の果てまで見通せそうな空だった。


「突然聖女にされて、皆から期待されて、リーダー任されて、頼りにしていた人がどんどん居無くなっていって……凄く不安でした。重圧に押しつぶされそうになって、気が付いたら倒れてて、私……このまま死ぬのかなって、不安で、苦しくて、悲しくて……でも、なぜか、本当に死ぬんだって、思えなかったんです。だって……あなたが居てくれたから」


 きっと、僕の姿が見えていたら、僕は赤面している顔をリエラに見られていただろう。

 告白めいた言葉に思わずリエラを抱きしめたくなった。

 でも、寸前で留まる。


「ずっと、一緒に居てくれて、私を助けてくれて。本当に、嬉しかったです。本当はアルセの保護者か何かなんですよね。私まで面倒を見てくれてその、なんていうか……いえ、やっぱりなんでもないです」


 何かを言い掛け、リエラは口ごもる。

 なんとなく察っせた僕だったけど、寸前でソレ以上の行動を起こす勇気が無かった。

 だって、僕だよ? 下手に抱きしめたりしたら殴り飛ばされそうじゃんか。僕の勘違いってこともあるんだし。


「胃癌? でしたっけ。アレになってた時、ずっと昔の事思い出してました。父さんと母さんに無理行って、冒険者になって、依頼を受けて、死に掛けて。アルセが助けに来て、カインさんとネッテさんに知り合えて、バズさんの討伐依頼受けたり、エンリカさんたちと出会ったり。アンブロシアツリーの闘いは、私の中では今でも一番の冒険譚です」


 ただ逃げまどってただけですけど。っと照れ笑い浮かべるリエラ。

 僕の顔を一度見て、直ぐに夜空に視線を向けた。


「ここの洞窟で私の偽モノに負けた時、ずっと悔しかった。絶対にリベンジしてやるんだって、追い越せるように頑張りました。頑張って頑張って……気が付いたら、ここまで来てました。透明人間さん、私、あなたから見てどうですか? アルセ姫護衛騎士団のリーダー、やれてますか?」


 再び僕に視線を向けるリエラに、彼女の頭を頷かせることで返答する。


「え、へへ。ありがとです。でも、やっぱり不安なんです。いろんな人と出会えたし、いろんな冒険ができたけど、パーティーを去っていく人も多くて、このまま、いつかこのパーティーは無くなってしまうんじゃないかって、そした私、どうしたらいいんだろうって」


 言葉を切って、リエラは僕の手を掴み取った。


「お願いしますっ。もしも、もしもパーティーが無くなったとしても、私と一緒に……っ」


 泣きそうな懇願で僕に何かを言おうとしたリエラ。その背後に無言で仁王立ちしてカレーライスを構えるルクルさん。

 まさに泥棒猫滅すべしとでもいうような怒りを感じます。

 気付いたリエラが振り向いて思わず身を引く。


「いや、あの、ルクルさん、これは……」


 まるで浮気現場を見られた女のように慌てて言い訳しようとするリエラの顔に、無言のカレーライスが放たれたのだった。

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