その強過ぎた彼女を止める術を僕は知らない
最後のオオトリ、リエラさん登場です。
試練の間中央に向い、アルセソードを構える。
目の前に煙が噴き出しリエラドッペルが登場……リエラ……ドッペル？
そいつはリエラの偽モノと丸わかりの姿だった。何しろ全身黒いのだから。
まさに影が実態を持ったような……
隣を見れば、したり顔のグレイが。
「ふふ。復活したリエラの実力とやらを見せて貰おうじゃないか。このブラックリエラでなぁ」
「ぶ、ブラックリエラだってぇ！？」
なんだそのちょっと強そうな。ワンランク上のリエラさんは！
ブラックリエラは黒い剣を引き抜き構える。
開始の合図はなかった。
おそらくリエラのスキルは全て魔力消費なく使えるとかのチート性能なのだろう。
いきなりぶれたブラックリエラが驚くリエラの懐に入る。
って、リエラ、それハメパターン！
慌てて防御を取ろうとしたリエラだったが、ライジング・アッパーがまともに入った。
ああっ！ リエラが撥ね上げられた！
天井へと近づくリエラが落下するのを待って不沈撃のハメ連撃。
もう既に勝負が着いてしまった。
空中を飛ぶリエラにはもはや勝利は無くなったとみていいだろう。
リエラ同士の闘いはどちらが先に相手を上空に撥ね上げるかになっているらしい。
タイミングがずれたリエラの敗北。
これはもう、どれ程強かろうと実力が同じ二人では何度やっても同じ結果になりそうだ。
ブラックリエラをハメ技で倒しても問題無ければいいんだけど、なんか成長しそうにないんだよなぁ。
最後に、ストライクバスターによりリエラがボロ雑巾のように地面に転がった。
勝利のダンスを踊るようにくるりと回り、ブラックリエラがこちらに身体を向けて鞘に剣を収める。
グレイさんがドヤ顔して来ます。ついでにその横でミーザルがドヤ顔してます。
バグ剣使っていいですか？ いいよね？ よね？
勝利したブラックリエラが勝利宣言を終えた次の瞬間だった。
ゆらり、彼女の背後でリエラが立ち上がる。
気配を感じたブラックリエラは無言で剣の柄に手を当て、ゆっくりと振り返った。
「勝たなきゃ勝たなきゃ勝たなきゃ勝たなきゃ勝たなきゃ勝たなきゃ勝たなきゃ勝たなきゃ勝たなきゃ勝たなきゃ勝たなきゃ勝たなきゃ勝たなきゃ勝たなきゃ勝たなきゃ勝たなきゃ勝たなきゃ勝たなきゃ勝たなきゃ勝たなきゃ勝たなきゃ勝たなきゃ勝たなきゃ勝たなきゃ……」
リエラさんが壊れたように同じ言葉を呟き続けてます。
瞳からはハイライトが消えたような……
ああ、これ、多分自分で自分を無理矢理追い込んで強制的に発動させる気だ。明鏡止水を。
ブラックリエラがリエラを認識して走る、次の瞬間。
「……涅槃寂静」
リエラが小さく呟いた。
僕は、いや、他の皆もだ。次の瞬間に起こった事を理解しきれなかった。
いうなれば、リエラが涅槃寂静と呟いた次の瞬間には、ブラックリエラが細切れになるように霧散して、リエラがブラックリエラを通り越した位置に移動していた。そんな感じです。
「ふぅ……やっぱり見よう見まねじゃカインさんにはなれないなぁ」
小さく呟くリエラさん。いや、今のどう見ても……カインの速度越えてたよね？
というか、ブラックリエラが雑魚敵みたいに瞬殺されたぞ今。
リエラさん、自分の偽モノ相手に随分格上な動きしてなかった？
グレイも流石に想定外だったらしい。開いた口が塞がらなくて間抜け面を晒していた。
おい、神様。アンタ全知全能じゃなかったのか？
本人の口からは聞いてないけど神って大抵そんな感じの奴だろ？
「皆ただいまー。って、あれ？」
イイ汗掻いたって感じで戻ってきたリエラ。
唖然としたまま動いてない皆を見付けて首を傾げる。
レーニャだけはふにゃぁっと欠伸をして再び寝入っていた。
「な、なんだ今の？ 私は知らない。ブラックリエラは彼女の二倍くらい強く設定していたはず。ゴミクズのように倒してまだまだ弱いと思わせる作戦が……」
こら神様。なんつーズルしてんだよ。実力差二倍って。いや、待てよ。
その二倍って言うのは、いつのリエラから二倍なんだ？
もしかして今のリエラじゃなくて……万金丹、というかアルセウイルスで強化される前のリエラなんじゃ……
ということは、今回のリエラの強化はどう見ても。
僕はぴよぴよと歩くアルセを流し見る。
僕の視線に気付いたのか、こちらを振り向き微笑み浮かべるアルセ。うん、癒されます。
じゃなくてっ。どうやら彼女の良性ウイルスが体内に入るとバグった感じになるらしい。
そうか、リエラは強化された訳じゃなかったんだ。
すでに、バグっていたんだね？
ごめんリエラ。僕は君を一般人の村人に戻す術を知らないみたいだ。
まさか、アルセからの感染でバグ患者が既に出ているなんて……ま、リエラなら大丈夫か。
