そのBABAーBAの噂を僕らは知らなかった
「え? 新しい洞窟?」
学園の休暇中。する事無かったので冒険者学校に登校してアルセと学食で暇していると、そんな声が聞こえた。
話をしているメンツはアルセの横に座っているランドリックとフィックサスだ。
リエラとパルティもいるけど、変わったメンツが集まってるなぁ。クライアさんとか今日はいないんだよね。何してんだろ?
「ああ、ギースさんたちから教わったんだ。なんでも洞窟の奥に仲直りが出来るお宝があるんだって」
「仲直りって、またなんともいえないお宝だな」
「けどさ。ランドリックにとっては丁度良いんじゃないか?」
「え? あ。そうか! ライカとの仲直りができるかもしれないっ!?」
「そうだよ! 今回の騒動でライカさんとの仲が悪くなったろ。ここ最近なんだかんだでツイてないみたいだし。なんとかしてやりたくてさ」
「フィック……おお、心の友よぉっ!!」
感極まったランドリックががたりと椅子を揺らしてフィックサスに飛び付いた。
男同士の抱擁に呆れた顔のパルティとリエラ。
食堂で買って来ていたレモネードをずちゅっと飲み干しながら、パルティは溜息を吐いた。
この世界にもストローってあるんだなぁ。いや、どうでもいいんだけど。
「ソレについては私も思うところあるし、手伝ってあげるわ」
「私も、元はといえば私が胃癌になったのが始まりですし」
「いや、リエラさんのはストレスの結果だろ。それは始まりって言うか、なぁ?」
「ああ。リエラさんは悪くない。悪いのはデートを優先しなかったランドリックだよ。まぁ、不器用だけど真っ直ぐな奴なんだ。自分の事より仲間を優先するから自分がいっつもツイてないだけで」
ランドリックくんは確かに悪い子じゃないんだ。ただちょっと巻き込まれ体質であるうえに巻き込まれに行くタイプだから。よく言えば主人公タイプ。向かうところ向うところ事件が起きるどっかの子供探偵並みのトラブル遭遇率だ。
悪く言えばただのトラブルメーカーだけど。
「で? 新しい洞窟だっけ?」
「ああ。知ってる冒険者が少ないってだけで昔からあるらしいんだ。この近くにひっそりある洞窟で、名前はBABAーBA洞窟。それなりに強い魔物が出るから気を付けろって言ってたな。あと女性は別に危険は無いらしいんだけど、男性にはちょっと恐怖だとか。できれば強い人連れて行った方がいいって言ってた」
「今、空いてる人って誰が居たっけリエラさん?」
「んー。デヌさん辺りかなぁ。最近アメリスさんの家の庭でずっと鍛錬してるの見てるよ。誘ったらくるんじゃないかな? ミルクティさんたちはいろいろ精力的に動いてるから捕まらないと思う」
「じゃあデヌさん誘って行こうぜ。ライカとの仲を取り戻せるなら急いでいかないと!」
「逸るなランドリック。準備は入念に。カンテラ買わないと」
カンテラかぁ。だったら丁度良い発光物があるよな。なぁアルセ?
「お?」
僕が視線を向けると、丁度アルゴラジュースを飲んでいたアルセが僕を見上げる。
両手でおっきなコップを傾けているアルセ、カワユスなぁ。
あ、ちなみにアルゴラっていう果実を丸ごと擂り潰したジュースなんだ。味はなぜかバナナミルクだった。
アルセ、口元白髭できてるよ。
「あ。カンテラ要らなくない? アルセがいれば発光してくれるわよ」
「ついでにアニアも呼んであげよう。最近冒険に連れてけって煩いから」
と、いうわけで、僕たちアルセ探検隊はBABAーBA洞窟へと向かう事になった。
団員はアルセ、僕、リエラ、パルティ、ランドリック、フィックサス、デヌ、アニア。
僕たちはまだ知らない。
この選択が、後の悲劇を生む事を……
コルッカ郊外で集合した皆を見回す。
まぁキワモノが集まったなぁ。火力面で言えばリエラとデヌがいるから問題は無いか。
本日はパルティの装備が斧になってるのは最近使ってないから斧レベルを上げたいんだと。
デヌは強い存在がいるらしいという噂で即行了承してくれたし、アニアは暇だったそうで喜んでやってきた。
んで、カンテラの代わりだと聞かされてただいま憤慨しております。
私を光るだけの安い女と思わないでよねぷんぷんって感じでランドリックに蹴りを叩き込んでいる。
頬を蹴られたランドリックがなんで俺だけ? とか嘆いてたけど、彼本当にツイてないな。何か不幸な星の元にでも生まれたんだろうか?
「さて、皆集まったし、BABAーBA洞窟に行こう。こっちだって」
「その洞窟はどんな場所なのだ?」
「俺が聞いた話じゃ絶えず洞窟の奥から歌が聞こえてくる洞窟で、暗がりから光り輝く敵が襲いかかってくる場所だって聞いてます。奥に行くほど強力な魔物が出現する、くらいですかね?」
「なるほど。では最初に入り口付近で一体と闘ってみて奥まで行けるかどうかを調べるか」
このメンツだと問題無いと思うよデヌさん。まぁ、何事も確認は大事だよね。お任せしよう。




