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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二話 その復讐者を彼は知りたくなかった
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バレンタイン特別企画・その恐怖のイベントを、誰も知りたくなかった

 その日、コルッカにある冒険者学校は、慌ただしい雰囲気に包まれていた。

 僕とアルセ、リエラは学食に来て席に座ると、ギスギスとした周囲を見回しながら首を捻っていた。


「どうしたんですかね皆さん。なんだか殺気だっているというか……」


「何だリエラさん、知らないのか?」


 不意に、声とともに男が二人、僕らのテーブルにやって来て椅子に座る。

 見知った二人だ。ランドリックとフィックサスである。


「あ、ランドリックくんにフィックサスくん」


「本日は偽人ヴァレンティン出現注意日なんだ」


 偽人ヴァレンティン?


「魔物ですか?」


「ああ。とある日限定で出現する魔物の一種なんだ。ほら、ハロウ・ウィーンとかクッキー男爵とか全裸体操マンとかいるだろ」


 なんか聞きたくない魔物の名前がつらつらと。なにそれ、そんな魔物もいるのかよ!?

 多分だけど、ハロウィンの時期がハロウ・ウィーン、クッキー男爵はホワイトデーかな? 体操云々だから多分体育の日限定なのだろう。


 となると、ヴァレンティンだから、バレンタインかな?

 チョコレート関係の魔物だろうか? だったらチョコレート系の食べ物が普及しててもおかしくないんだけど、殆ど見ないんだよなぁチョコレート。


「ヴァレンティンってどんな魔物なんですか?」


「あ、ああ、アレはどういうというか。恐ろしい魔物だよ。ああ、恐ろしい魔物だ」


「一つだけ僕らからの忠告があるのなら、奴等に出会ったら絶対に受け取らない事だ」


 受け取らない?

 意味不明の言葉をピックアップした瞬間だった。魔法により拡大された声が校内に響き渡った。


【緊急放送、ヴァレンティンの撃破に失敗、数体のヴァレンティンが国内に侵入しました。住民の方々は室内に籠り、決して家屋から出ないようにしてください。繰り返します――――】


「マズいぞ、ヴァレンティンが街に入り込んだって!」


 次の瞬間、悲鳴が上がった。

 なんだ? と思えば生徒達が逃げるようにして走り込んで来る。

 団体さんは決死の表情で逃げまどい、学食の奥へと去っていく。


「リエラさん、逃げよう、ここに一体来てるみたいだ!」


「え? え?」


 戸惑うリエラが立ち上がるより先に、そいつはついにやってきた。

 食堂の入口からゆっくりと、筋肉質の体。毛の生えた足はルーズソックスに隠され、歩くたびにスカートが翻る。女学生服というか、あれはブレザーでいいのだろうか? はちきれんばかりの肉体を包み込んだ白髪の老人が、照れた顔で現れた。


「ひぃっ!?」


 食堂内を見回しながら、長い髭のバケモノは獲物を物色する。

 呆然とするリエラ達に気付き、乙女走りで近づいて来た。気色悪いっ!?

 慌てて逃げようとするリエラが椅子に引っ掛かり盛大に倒れる。

 その横を走り抜けるヴァレンティン。


 毛深い胸元に手を入れ、取り出したのは……本命チョコレート? と思しき物体。

 それを、恋する乙女のように逃げるそいつの首根っこ掴んで無理矢理手渡す。

 強制的に受け取らされたそいつは、嫌だっ、嫌だぁぁぁっ! と叫ぶが、遅かった。

 本命チョコを受け取った男に、ヴァレンティンはお礼のチッス。


「ランドリッ――――クっ!!!?」


 その日の光景は、皆が封印する事に決めた。

 たった一人の犠牲者ランドリックがどさりと床に倒れる。

 白目向いて泡を噴きながら痙攣する彼を放置して、ヴァレンティンは去っていく。

 本日の目的を果たした彼は来年、また新たな犠牲を作りだすまで、長い眠りに付くのである。

偽人さんのせいで嫌悪感が植え付けられたため、チョコレートはそこまで普及しませんでしたw

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