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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二話 その復讐者を彼は知りたくなかった
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AE(アナザー・エピソード)その意地の闘いを僕は知らない

 どれ程の時間が経っただろうか?

 不意に、意識が戻った。

 霞む目を開きながら、自分が生きていることにようやく気付く。


 刹那、全身に痛みが走る。

 パニックになりそうになるが、悲鳴を上げる寸前に見えた巨体に思わず口を噤む。

 声を出したら死ぬ。アレに気付かれたら死ぬ。


 必死に口から漏れ出そうになる絶叫を噛み殺し、全身の痛みに耐えながら、わずかに動く腕で必死に魔銃を探る。手にした魔銃に回復魔弾が入っているのを確認して自分に打ち込む。

 震える腕では自分すらも狙いが定まらず、力の入らない腕では引き金すらも引けない。

 それでも、最後の力を振り絞り、引き金が引かれた。


 弾の発射音にブリザーマンモが気付く。

 セキトリはようやく動くようになった身体を起こし、突撃して来たブリザーマンモを飛び込むように横に回避。

 壁がブリザーマンモの一撃に耐えきれず爆散し、折角避けたセキトリの背中を破片が穿つ。


「ぐぅっ」


 床をごろごろと転がりながら回復魔弾を自分に打ち込む。

 バケモノだ。なぜ自分はこんな化け物と闘っているのだろう?

 体格差だってどう見たって勝てないのは分かり切ってるじゃないか。

 見上げる程の高さ、四足なんて自分の身体を押しつぶせる大きさなんだぞ?


「くそっ」


 レックスにいい格好なんて見せようとするんじゃなかった。

 でも、皆が向うにはここで彼が残るのが一番だと思えたのだ。

 方法だって、一応思いついている。

 上手く行くかどうかが勝率2割以下というだけだ。


 一応、最初の賭けには勝った。

 気絶してしまってはいたが、体当たりをまともに喰らって死んでないのだ。

 一体どれだけ身体が損壊していたかは考えたくもないが、それでも回復できるのだから魔弾の凄さに感謝したくなる。


 回復魔弾。冒険者の中では一部しか、それも1発持っているだけでも驚きな程に高額寄付がひつようなのだが、アルセ護衛騎士団はなぜか大量に仕入れている。

 もっと普及させた方がいいと思う。致命傷で戦場で死ぬ冒険者の数が一気に減るぞ。

 セキトリは魔銃に感謝しながら必死にブリザーマンモの突撃を避けていた。


 彼には素早い足がある訳じゃ無く、突撃を避けられるスキルがあるわけじゃない。

 二つの足を必死に動かし、普段動いていないからこそ悲鳴を上げる身体に鞭打ち、泥臭く逃げ回る。

 当然、避け損ねる事もあるし、飛び散る壁の流れ弾に当たることもある。


 ブリザードが吹き荒れる部屋は居るだけで体温を奪われるし、降り積もった雪が速度と体力を奪って行く。

 ふざけんなっ。セキトリは内心毒づく。

 何で俺がこんな死地にいなきゃならないんだっ。

 泣きそうになりながらもようやく、セキトリは目的地に辿りついた。


「ハァ……ハァ……やっと、来れた」


 何度もふっ飛ばされたせいで数メートルの距離が何時間かかった事か。

 セキトリはようやく下層への入り口に辿りつくことに成功した。

 だが、ここで終わりには出来ない、そもそもこの部屋に存在するのはセキトリ一人。つまり、この扉は彼だけの場合開くことはない。


 扉のすぐ前に辿りついたセキトリ。

 その背後にはブリザーマンモが走り込んで来ている。

 まだ距離はあるが避けられるスペースは無い。


「はは、これで俺の勝ちだ。あばよ、クソ野郎」


 セキトリのすぐ前に床から魔法陣が浮き出る。召喚され迫り出されていく一匹のスライム。

 そいつが完全に召喚されるより先に、二人になったことで開かれたドアをくぐるセキトリ。

 チュウセイシスライムだけを置き去りにして、セキトリはボス部屋から脱出した。

 直ぐ横の壁に背もたれそのままずりずりと座り込む。


 もう、限界だった。

 身体は回復魔弾の御蔭で無事ではあるが、精神が持たない。何より、数時間の激闘を逃げ伸びたのだ。眠くて眠くて仕方が無い。

 ドアの向こう側で物凄い爆発が起こるのを聞きながら、セキトリの意識はゆっくりと白くなっていった。




 数時間後、ロリコーン侯爵、ハロイア、チグサ、ケトルの四人は、部屋にいたチュウセイシスライムを引き連れボス部屋から下層へとやって来た。

 そこに、そいつは崩れるようにへたり込んでいた。真っ白に燃え尽きて。


「フォっ!?」


「あら、セキトリさん。こんなところで寝てますのね?」


「というか、真っ白に燃え尽きてるわよ。これ、大丈夫なの? 死んでない?」


「グッジョブ」


 ケトルのよくわからない言葉に気まずそうにするチグサは、溜息を吐きながらセキトリの耳元に口を寄せる。

 起つんだ、起つんだセキトリー。とお約束とも言える言葉を囁いているが、それがどういう意味を持つものか、ここにいる誰も分からなかった。


 そして、後続部隊と共に現れたアメリスとブリザーマンモの激闘がこの後繰り広げられたのだが、それを彼らが気付くことは合流するまで無かった。

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