AE(アナザー・エピソード)その暴走する彼女を止める術を僕は知らない
「ふぉっ!」
「オーホホホホ! 今宵のソードランチャーは一味違いますわーっ!」
吸血鬼達の群れに無数の剣が飛んで行く。
連撃を受けた吸血鬼たちが面白いくらいに撃破されている。
そんなハロイアの隙を埋めるのはロリコーン侯爵。
幼女はいないがこの程度の闘いならば彼も充分こなせる。
ソレに幼女は敵にも居ない。それだけで充分勝機はあった。
だが、数の多い吸血鬼たちを駆逐するには時間がかかる。
そうこうしているうちに、それは突然やってきた。
ドバンッ! 勢いよく開かれた扉から、一人の女が現れる。
彼女はハロイアとロリコーン侯爵を見付けると、即座に彼らの背後に回り込んだ。
「助けてっ。追われてるッ」
「ちょ、ケトルさん!? 小父様にくっつかないでくださいますっ!? というかなぜここ……に?」
「GUGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ」
破壊神が降臨召された。
戦闘を繰り広げていたハロイアとロリコーン侯爵、カミラ率いる吸血鬼軍団。誰もがその悪夢に戦いを止めていた。
部屋の入口に、野獣が居た。血塗れの日本刀を手に、四つん這いで涎を垂らす血に飢えた野獣が……
「な、ななな、なんですのアレ!?」
ゆっくりと、終わりはやって来た。
周囲を見回し部屋に存在する獲物をねめつけ、ニタリと嗤う。
すっと身体を落とした。次の瞬間。
爆ぜた。
一瞬で飛びかかったのは吸血鬼。
喉元に刃が喰い込み首が宙を舞う。さらに横にいた吸血鬼の頭を掴み周囲の吸血鬼ごと床に埋め込む。
誰もが反応するより早く返す刀で五人を一辺に切り裂きカミラへと迫る。
驚いたカミラは、しかし、周囲の吸血鬼に紛れてぎりぎり攻撃を回避。代わりに無数の吸血鬼がその命を終えることとなった。
速い、そしてエグい。ハロイアは思わず震えながら侯爵に縋りつく。
二人の女性にひっつかれたロリコーン侯爵は、暴走するチグサを見ながら冷や汗を流している。
おそらく、敵対したら勝てないと本能的に理解したのだろう。
幼女も存在しないここではアレには勝てない。
即座に判断したロリコーン侯爵は自分と出口の位置を確認する。
しかし、ダメだ。届かない。
入口からも遠い。むしろチグサとの接敵が先になってしまう。
どうする? お荷物二人を抱えたままでは逃げ切ることも不可能だ。
ああ、これがアルセやのじゃ姫、ネフティアであれば本気を出して闘うことだって可能だと言うのに。ロリコーン侯爵は思わず嘆く。
しかし、現状ここにいるのは背は低いモノの、ロリコーン侯爵の好みからは外れてしまっているケトルとハロイアである。
この状態で暴走状態のチグサを相手にしても勝ちは見えない。
それでも、自分は紳士であった。
「お嬢さん方、私が血路を開きましょう」
怯える二人に、優しく声を掛ける。
縋りつく二人の視線を浴びながら、紳士はにこやかに笑みを浮かべた。
「お、小父様?」
「お行きなさい」
二人の頭をぽんと叩いて紳士は一人、前に出る。
ロリコーン侯爵、一世一代の晴れ舞台である。
既に軒並み吸血鬼が屠られ、残すは数体とカミラのみになっている。
焦るカミラが指示を飛ばしているがチグサの猛攻を止められる吸血鬼は一人も居ない。
壁が消えていく。吸血鬼という壁が消えて三人が攻撃対象になる確率が上がっていく。
それでも、カミラがトドメを刺される寸前、三人は出口へと辿りつく。
しかし、そこまでだった。
逃げようとする獲物を見付けたチグサが飛ぶ。
咄嗟に反応したのはロリコーン侯爵。
ステッキでぎりぎり刀をいなし、失礼っとばかりに蹴りを繰り出しチグサを弾き飛ばす。
空中でくるりと回転したチグサが地面に着地した時には、ロリコーン侯爵もまた、衣類を脱ぎ棄て全力で戦う準備を整えていた。
「行きますぞ!」
本気の闘いが始まった。
空気に触れた身体が熱を帯びる。解放されたソレはブルンと震えて雄々しくチグサへと向けられた。走り出すロリコーン侯爵。その姿はまさに卑猥以外の何者でもない。
ハロイアがはふぅと倒れた。
驚いたケトルが彼女を後ろから支える。
鼻から血を噴き出し、幸福に塗れた笑みを浮かべ、ケトルの胸の中で息絶える。
揺すってみるが起き上がる気配も無い。少女は一人、男の雄々しい後ろ姿を見ながら幸福に包まれ気絶したようだ。
「ちょ、ちょっとハロイアさん?」
「小父様のおち……あふぅ」
「なんてこと言ってるんですかっ!? ちょっと、ハロイアさん、しっかり!」
野獣と変態が激突する。
ステッキの突きと刀が交錯し、チグサが穿たれ、ロリコーン侯爵が切り傷を作る。
それでも二人は止まらない。
まさに死力を尽くした戦いが今、幕を開けたのだった。




