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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二話 その復讐者を彼は知りたくなかった
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AE(アナザー・エピソード)その大雑把過ぎる魔物の討伐を僕は知らない

「ヒィィィィッ、無理だぜ無理っ、物理じゃ倒せねーよ嬢ちゃんっ」


 アキオは周囲に増えていくラムズフェローを見回しながら恐怖に震えていた。

 デスマスクを被ったネフティアは黙々とラムズフェローを切り刻んでいるが、やはり物理攻撃では無謀なようだ。

 あるいは柩で叩き潰したり、打ち飛ばしたりしているが、効果はどれも見えない。ばかりか増殖に一役買ってすらいる。


「ヒーャハーっ、見ろよ嬢ちゃん、俺のアレがやっべーぐれー震えてっぜぇ! あんたのせいでこーなっちまったんだ、責任とってくれるよなぁ! いや、俺の脚がな、頼むからもう敵増やさないでくれよぉっ!!」


 しかしネフティアは無視してひたすらにラムズフェローを破壊していく。


「ぁぁぁぁぁぁあああああああっ!!」


「んだぁ?」


 部屋の入り口側から誰かの声が聞こえてきた。

 ドップラー効果のように徐々に近づく音源は、ドアを無理矢理開き押し入ってくる。


「ヒャハハ! よぉこそ70階へぇ。こいつがこの階層のボス、ラムズフェローだぁ。お前ら死ぬ覚悟はでき……おい?」


「いやあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」


 声の主、ケトルは悲鳴を上げながら部屋を横断し、ドップラー効果の悲鳴だけを残して次の階層へと走りぬけていった。

 少し遅れ、部屋に更なる闖入者。


「ヒャハハ! よぉこそ70階へぇ。こいつがこの階層のボス、ラムズフェローだぁ。お前ら死ぬ覚悟はでき……ぎゃあぁぁぁぁ!?」


「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ」


 入って来たのは女の皮を被った野獣だった。

 涎塗れで四つん這いで飛び込んできたチグサがラムズフェローの群れを薙ぎ散らして次の階層へとケトルを追って行く。


 とさり、アキオの腰が音も無く抜けた。

 強烈な恐怖を撒き散らして消え去ったチグサに指先を向けたまま、アキオはネフティアに顔を向ける。

 今の、見た? そんな思いは、しかし、淡々と作業を続けるネフティアが気付いた様子も無かった。

 いや、今気付いたようで、腰の抜けているアキオに回復魔弾を打ち込んで再び攻撃に戻る。


 そこでふと、ネフティアは気付いた。

 自分の腰にぶら下がっているのは魔銃。

 アルセ姫護衛騎士団は全員が自分用の魔銃を持つようになっているのだ。

 何しろ咄嗟の回復魔弾による回復が重宝するし、弾がほぼ無制限で手に入るのだから、持っていて損はないのだ。


 物理攻撃しかなかったのでいろいろ試していたが、これはまだ、試していなかった。

 ラ・ギライア弾を装填してラムズフェローの一体の眉間を打ち抜く。

 次の瞬間、地獄が広がった。

 ほぼ部屋中に存在していたラムズフェローが一気に燃え上がったのである。


 コ・ルラリカ弾にしておけばよかった。

 今更ながら気付いたネフティアのこめかみから汗が流れ落ちた。

 燃え盛るラムズフェローは踊りでも踊っているように揺らめき、炎を彩って行く。


「ひゃーっはっはっはっは! 汚物は消毒だァ! ヒーッハッハッハ!!」


 高笑いを上げ始めたアキオを無視してネフティアは周囲を見回す。

 ダメだ、自分とアキオの居る場所以外殆どが炎に塗れている。

 このままだと自分たちもまた、焼死するだろう。


 考えたネフティアは仕方無くアキオの首根っこを掴むと走り出す。

 おお、なんだ? 驚くアキオを次階層の扉を開いて放りだすと、ラムズフェローが今だ蠢く室内に一人残る。


「お、おいこら、何してんだテメェ!?」


 死魂水を柩から取り出し自身で被ると、柩を開いて自らの身体を柩にしまい込んだ。

 しばし、炎が部屋を彩る。

 ドアを叩くアキオの声が聞こえていたが、それも絶えてしばらく。ぎぃっと柩の扉が内から開いた。


 灼熱により熱を持った柩から慌てて飛び出たネフティアは飛び上がると同時にコ・ルラリカ弾を発動し床の熱を消し去る。

 凍った床に着地して、大きく息を吸い込んだ。

 柩の中は空気が無いので息を止めていたのである。自分の種族が変わっていた事を忘れていたせいでけっこう危ない橋だった。


 熱された空気が急速に冷やされた御蔭で喉を痛める事も無く。ネフティアは完全勝利を手に入れた。

 扉が開き、泣き顔のアキオに安全になったことを告げるべく顔を見せる。

 涙と鼻水塗れのアキオを見た瞬間、ネフティアは固まった。

 生きているネフティアを見たアキオが飛び付いて来るのに合わせて扉を閉める。


 ゴスンと痛そうな音が扉の向こうで聞こえた。

 直撃したのだろう。声にならないアキオの悲鳴が木霊する。

 一瞬可哀想なモノを見る目になるネフティアだが、直ぐに溜息を吐いて部屋を見回した。

 ラムズフェローはもう存在しない。つまり、この部屋をネフティアがでることも可能になった。

 だが、逆を言えば、彼女まで部屋を出ると次に入って来たメンバーはラムズフェローとまた一から対戦となってしまう。


 扉の向こうで何かを叫んで来るアキオを無視し、ネフティアはなんとか倒せたラムズフェローが再び他のメンバーと敵対しないよう、しばらくここで待つことにするのだった。

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