少女が何に反応したのか彼しか知らない
「ここにいたか。探したぞ」
クーフさん! 待ってました――――っ!
逸れてしまっていたクーフがなんとか合流してくれた。
既に放心状態のリエラがはっと我に帰って立ちあがる。
が、勝利の安堵で全身の力が抜けたらしく再びぺたんと座りこんでしまう。
「あ、あれ?」
「ふむ。何かは知らんが腰が抜けたカ?」
といいつつ、葉っぱ人間の亡骸に気付く。
「独りで倒したのか。なるほど、そういうことか」
リエラと葉っぱ人間を見比べ独り理解するクーフ。
手にしていた柩を地面に置くと、葉っぱ人間の遺体をアイテムボックスに詰め込んでいく。
「す、すいません、クーフさん。私、あの……」
「仔細ない。少し休むがいい。後は我が受け持とう」
柩を再び抱え上げ、クーフが見張りを買って出た。
さすがクーフ大先生。立ち姿がどう見ても近衛兵団隊長クラスの威圧感を醸し出しております。
自分の身体の斜め前へと柩を縦に降ろし、いつでも武器を振れる状態にするクーフ。
その圧倒的圧力に、近づいて来ようとしていた魔物たちが逃げるように去って行くのが見えた。
あぶなかった。クーフが戻って来なかったらリエラ戦闘不能で敵の襲撃を受けてるところだ。
アメリスもクーフの姿にようやく少し安心出来たのだろう。
涙を流しつつも身体を起こし、クーフの後ろへと近づくと、そこに座りこんだ。
「娘よ。恐いか?」
突然クーフに話しかけられ、アメリスの身体がびくりと震える。
「だって、こうなるなんて、思ってなくて、冒険者がいるのだし、もっと楽なものだと……」
「魔物の居る森に向うとはこういうものだ。森は視界が悪い。下手に動けば仲間はそいつを見失う。追えば位置を見失う。待っているのは遭難と、魔物に囲まれ死を待つだけの壊滅だ。このような森に向うのであれば経験者の言葉はよく聞くことだ。先走れば自分か味方が死ぬ。それを肝に銘じろ」
「……ぅん」
後ろを見ないままに会話する二人。
まるで父と娘のようなその姿に、ちょっとほほえましく思ってしまう僕が居たりする。
って、こらアルセ、何処行く気!?
僕の横で今まで大人しくしていたアルセ、ついに動き出す。
とてとてとリエラのもとへ向うと、その腕に絡まっているミミック・ジュエリーを持ち上げた。
ああ、ミミック・ジュエリーを頭に乗せたいのか。
気に入ったのかな?
と思っていたのだけれど、ミミック・ジュエリーはリエラから離れようとしない。
いくら動かそうとしても鉱物のように硬くなったミミック・ジュエリーをアルセが持ち上げることはできなかった。
不思議そうに首を傾げながら、アルセは立ち上がる。
周囲を探るように視線を向けた後、おもむろに茂みの中へと飛び込んだ。
「って、アルセ!?」
「言った傍からか!」
リエラとクーフが驚く中、当然ながら僕はアルセを一番最初に追っていた。
「すまないガ、あの魔物を連れてくる、それまで……」
「大丈夫ですクーフさん。一番頼りになる保護者が、彼女には付いてますから」
リエラはアルセの後ろを追う僕が茂みを揺らしたのを確認し、安堵の息を吐く。
自分たちは足手まといな上に、クーフが抜けると確実に詰むことを理解し、僕に託すことにしたようだ。
クーフは意味が分からず首を捻るが、大丈夫だというリエラを信じることにしたらしい。
ああもう、アルセ、どこいくの。ちょっと、結構速く走ってるけどマジどこいくの!?
木々をかき分け、顔が二つある鹿の前を通り過ぎ、アルセがひたすらに駆けていく。
だいぶリエラたちと引き離されたんだけど、コレ戻れるんだろうか?
やがて、開けた場所へと僕はやってきた。
目の前には発光する巨大な木。木が発光しているのではなくその葉っぱが色とりどりに発光している不思議な木だ。
その麓にやってきたアルセが笑顔で木を見上げている。
「アルセ、ここって、なんなの?」
聞こえない事も忘れて僕はアルセの背後に回ると、彼女がこれ以上暴走しないように肩を持って固定しておく。
ナニ? と見上げてくるアルセだったが、姿が見えないことに気付いたらしい。
僕だと気付くとにっぱと笑みを浮かべて来た。
「綺麗だね、この木」
この木の周辺には生物が居ない。
そればかりか木々もこの木を避けるように円形状に広がっている。
茶色の大地には幾つか根っこが見え隠れしてるけど、これは光る木の根っこのようだ。
「神秘的な木だね。何の木だろう? ん? アルセ、まだどっか行くの?」
とてとて向って行くのは木の中心。
木に近づいたアルセはぽんぽんと木に手を当てる。
すると、何故か木がざわめき光る葉っぱが一枚ひらひらと僕の頭に落ちて来た。
あ、このパターンもしかして……
アルセが戻って来る。
僕はアルセに頭に乗った葉っぱを差し出して見た。
当然食べるアルセ。アルセ三段階目の変身。やっぱりか。




