AE(アナザー・エピソード)そのスライム?無双を僕は知らない
30階層に出現したのは兵馬俑のような埴輪の兵である。
無数に出現した埴輪達の中、髭の生えた埴輪が彼らの中心に陣取っている。
「どうやら、あそこに居るのがボスと見て間違いなさそうですね」
「ラーダ、カルア、リーダーのフォローに徹しますわ。お二人は好きに動きなさいな。どうせ命令など聴きはしないお猿さんなのだから」
「うっし、カルア、どっちが多く破壊できるか競争だね!」
「今度も僕が勝っちゃいますよ」
「ローア様は私の後ろに、一応問題はないとは思いますが葛餅の攻撃を掻い潜る者がいないとも限りません。私からは離れないようにお願いします」
「はいはい。はぁ。乙女ゲーに転生したはずなのになんでRPGのダンジョンアタックになってんのよ。私の恋愛……はぁ~」
ラーダとカルアが突撃する。埴輪兵たちと切り結ぶカルアは、しかし武器が悪かった。
硬い埴輪を切り裂けるナイフではなかったようだ。
仕方無く、葛餅から賜ったアルセソードを引き抜き応戦する。
ラーダは自慢の鎚を振りまわし、豪快に埴輪兵を粉砕。彼女の撃破数が急激に増えていく。
「ふふん。私の方が有利みたいね」
立派な髭を擦り胸を張るラーダ。
悔しげに呻くカルアは、しかしアルセソードで埴輪兵の顔を叩き割り着実に撃破数を増やす。
「まだ始まったばかりです! 絶対に勝ちます!」
「言ったわね。今回私の勝ち逃げよ! 見てなさい!」
二人が埴輪兵の群れへと無謀に突っ込んでいった。
姿が見えなくなった二人に溜息を吐きクァンティは鞭を握り直す。
「リーダー、フォローは任せてくださいな。足手まといのローアさんに傷ができないように後は私が守りますわ」
葛餅はこれに答えを返すことなく行動を開始する。
喋ることのできない粘液型鉱石の彼は、返事をするよりも行動で示すようだ。
地面を飛び跳ねるように移動すると、触手を伸ばして左右の埴輪兵を一瞬で破壊。
そのまま八本、十六本と触手を伸ばして一瞬でラーダの撃破数を追い抜いた。
「うひゃぁ!? 流石葛餅さん。ヤリ過ぎってくらい暴れてますね」
「師匠、流石です!」
勢い余って二人が敵対していた埴輪兵も砕いてしまったが不満が出ることはなく、むしろ尊敬が深まったようだ。
そんな葛餅は無数の触手で埴輪兵を殲滅しつつ、ローア、サリッサ、クァンティに迫る埴輪兵を撃破していく。
全員分のフォローを難なくこなす魔王ハンター。
そのあまりの働きに埴輪兵たちも一番の強敵とみなしたようで、一斉に葛餅へと迫りだす。
「ホーッ!」
将軍埴輪とでも呼ぶべきか、髭を生やした埴輪が叫ぶ。
どうやら援軍を呼ぶらしい。
再び増えた埴輪兵に驚くローアとサリッサ。しかし、葛餅を心酔している他の三人の動きに変化はない。
何をしようとも葛餅が側に居るから安全だ。今は自分が出来る事を精一杯する。
それだけでいいのだ。他を考える必要はない。
「これで100! ぶっとべーっ」
「ええい、こうなったら魔法解禁、一気に追い付きますからね!」
彼らは全力で闘いながらも遊び心を忘れることなく闘いに身を投じる。
全ては葛餅のフォローあっての余裕であった。
「しっかしすごいわね。普通この手のボスは10人以上で闘うべき存在でしょうに。葛餅一匹いるだけで圧倒的じゃない」
「本当に、凄いですよね。このまま楽できればいいですけど……変ですね」
「サリッサ?」
不意に、サリッサが呟き顎に手を当てる。
何かが変だ。
敵の増援が多過ぎる。手前の将軍埴輪が呼び出した数ではこれ程多く出現するはずがない。
現に、奴が呼び出しているのは20体弱ずつ。
しかしみた感じ100体位が復活している気がする。
「これだけ葛餅様が頑張っていらっしゃるのに埴輪兵の数が減らないばかりか、むしろ増えている?」
「そう言えば。もう半日以上闘ってるのよね葛餅。私達が休憩したり食事したりしてる間も一人でずっと。この部屋はそこまで広くないし、普通はもう倒し切れてても問題無いはず……」
ローアの言葉にサリッサは頷き、クァンティに顔を向けた。
「クァンティさん、御足労かけますが、あの辺りを一掃してきてくれませんか? 変な埴輪がいれば優先して」
「あの辺り? まぁ良いけど。自分が行けばいいモノをわざわざ私に頼むなど、余程使えない人材ね全く」
「……サリッサ、クァンティって一言多いわよね」
「いつもの事でしょう?」
「そうだけど、なんかこう、分かっててもイラッと来るわよね」
「だから彼女の友人は居ないのです。毒舌を直したいのは彼女が一番望んでいる事でしょう」
「可哀想、といえばいいのかしら、とりあえずあとで殴って良いかしら?」
「できるようなら、どうぞ」
その代わり反撃が物凄い事になりそうですが。といいそうになり口を噤む。
葛餅チームは未だボス戦を攻略できないでいるようだ。




