AE(アナザー・エピソード)そのボス達を襲う地獄を僕は知らない
猟奇的食事風景ですご注意ください。
そこには地獄があった。
その部屋に出現した二匹の魔物はただただ蹂躙される部下たちを見つめ震えていた。
既に半日。奴らはボスである自分たちを放置して部下だけを攻撃している。
なぜか? 理由など明らかだ。
喰うためだ。腹いっぱいに、喰うためだ。
パイラと呼ばれた女があり得ないくらいに口を開き妖狐の頭をガブリと喰らう。
ぷらんと揺れる妖狐がもぐもぐとその身体をパイラの口内へと侵入させていく。
否、喰らわれて逝く。まさに狐の踊り食い。
背丈からして絶対に入るはずの無い狐や狸が一頭丸ごと丸呑みされているのだ。
そして、プリカと呼ばれた悪魔はさらに酷い。
流石に踊り食いが出来ないようなので噛みつき、引き千切り、喰らい尽くす。
阿鼻叫喚の地獄絵図。
一匹の喉元を食いちぎると目に止まらぬ速さで飛び退り別の魔物の腕に噛みつく。
反撃とばかりに攻撃すれば、そいつの身体を足場に飛び退きくるくると回転しながら別の魔物の肩に食らいつく。
血飛沫が飛ぶ。肉片の引き剥がされる音が痛々しい。
漏れ出る悲鳴が無数に連鎖し、青い狐も黄色い狸も等しく股間を濡らして震えていた。
えらいもん相手にしちまった。そんな顔で抱き合い震える二匹は、少なくなった部下たちをなんとか増やす事で自分たちが喰われるのを防いでいる状況だった。
もしも部下がいなくなれば? そんな事は簡単だ。
奴らは迷うことなく自分たちに喰らいついて来るだろう。
つまり、自分たちが生き残るには部下を生贄として召喚し続けなければならない。
需要と供給が一定に保たれているうちは安全だ。だが……
こーん。と青い狐が悲しげに告げる。
もう、MPがありません。そんな声に、黄色い狸もまた、MPが底を付き部下を呼び出すことが出来なくなりつつある。
「コーン……」
「ポコン……」
最後の部下を呼び出した。
物凄い勢いで部下たちが屍へと変わっていく。
相手にダメージは殆ど与えられていない。
明らかに過剰戦力がここに投入されている。
ああ、俺達死ぬんだ。黄色い狸は悟った。
遠い目をした黄色い狸を見上げ、青い狐も悟った。
私達はまた、敗北するのですね。
ダンジョンボスは死んでも次の冒険者が来れば復活する。だが、そこに彼らの意思はない。
あまりにも短い人生? であった。
二匹は顔を見合わせ虚空へと視線を上げる。
そこへ、ゆっくりと二体の肉食獣が迫っていた。
「狐うまし」
「狸さ~ん。美味しく食べてあげますからね~」
ああ、自分たちの生が終わる……
「皆さんお待たせしました! ご無事で……」
「のじゃーっ!?」
「なにこの惨状って……ひぃぃっ」
「た、タイミング失敗したぁっ!?」
誰かが部屋に侵入して来た声を聞きながら、二匹のボスがこの世から消された。
助っ人にやって来たモスリーンたち三人に多大なトラウマを植え付けて。
ちなみに、のじゃ姫は決定的瞬間を見る寸前、影から出現した忍者ルックの男に視界を塞がれトラウマを植え付けられることはなかった。
「ぐぷぅ。余は満足である」
「えへへ。久々に腹八分目くらいまで食べたなぁ」
満足げに頷くプリカとパイラ。
ふと、周囲を見渡せば、上階に居残ったメンバーが既に部屋に入っていた。
二人は顔を見合わせ笑顔で手を振る。
だが、モスリーン達が近寄って来ようとしない。
どうしたのかと互いの姿を改めて見てみれば、狸と狐の返り血に塗れ、まさに悪鬼と呼べる状況だ。ずぶ濡れの互いの身体を見て、思わず笑う。何がおかしいのかは分からないが、ただ狂気が見えた気がするモスリーンたちだった。
「よし、もう一巡行こう」
「あなた話しが合う。パイラも付き合おう」
と、モスリーン達を無視してボス部屋の入り口側へと向かうプリカとパイラ。
しばらく呆然としていたモスリーンたちは、のじゃ姫に促されるようにして次の階層へと進む。
プリカとパイラはこの際放置でいいだろう。気が向いたら後を追って来る筈だ。
そう信じて、決して声をかけることなく先へと急ぐのだった。
「ようやくこの身体の扱いに慣れてきましたわ」
アメリスはにっちゃんとにっくんを引き連れて地下20階層へとやってきた。
流石に次もボス戦が待っているとは思いたくなかったが既に二度あったのだ。次もボス戦をしなければならない可能性は高い。
覚悟を終えて、扉を開く。
一斉に二人の視線がアメリスたちへと向かう。
ボスらしき二体の獣が貪られている姿を見付け、静かに扉を閉めた。
「わたくし、疲れているのかしら?」
「「にっ」」
もう一度扉を開く。
パイラの口にぷらんと揺れる青い狐の胴体。
血だらけの口元でこちらに振り向くプリカ。
アメリスは再び扉を閉じた。




