AE(アナザー・エピソード)その令嬢の闘いを僕は知らない
「さて、時間は余りあるようだ。ゆるり、楽しもうじゃないか」
と、言ってはみたものの、アメリスはほぼ初戦闘と言える今の状況に恐怖すら覚えていた。
目の前に居るのは可愛らしい着物姿の一つ目小娘。
水風船でぱしーんぱしーんと遊びながらもこちらをちらちらと見て来る。
攻撃して来るのかな? いつ動くのかな? そんな警戒と不思議そうに首を捻る動作を加えた相手の行動が分からず戸惑っている感情で不安そうな顔になっているが、自分から攻撃に転じて来る様子はなかった。
だからこそ、アメリスは手に握った鞭をぎゅっと握り自分の状況を把握出来ている。
アメリス=フィラデルフィラル。フィラデルフィラル伯爵令嬢である彼女は一時期冒険に憧れた事があった。
カインたちに無理を行って聖樹の森に向ったが、全く役に立つ事も無く、戦闘すら満足にできずに帰って来た。
それでも冒険者に憧れて冒険者学校に向ったが、結局闘いはにっちゃん任せだ。
まともに闘った事など一度も無いとも言える。
この逆塔に昇る前、アルセに無理を言って自分の能力を確認しておいてよかった。
自分も何か役に立てることがないかと思っての確認だったのだけど、いつの間にか自分は様々な能力を身に付けていたのだ。
特に危険だったのは点穴というスキル。人差し指で突いた相手にクリティカルヒットを叩きだすスキルだ。
さらに、パッシブスキルで暗殺というスキルもある。
相手が気付いていない場合、不意打ち攻撃でクリティカルと状態異常に+補正。即死効果付与という凶悪スキルであり、この二つのスキルを組み合わせると、日常生活でにっちゃんをつついただけでにっちゃんを殺しかねないスキルでもあった。
事が起こる前に気付けてよかったが、他にもいろいろと危険なスキルが目白押しである。
「にっくん、にっちゃん、見ていて下さいな。私、今日こそ闘いをこなしてみせますわよ!」
「に?」
「にっ」
意味が分からず首を傾げるにっくんと、全てを理解したように鳴くにっちゃん。
二匹を少し遠くに避難させ、ゆっくりと一つ目小娘へと歩み寄る。
来るか! とばかりに警戒する一つ目小娘。しかし水風船で遊ぶのは辞めない。というよりはそれが攻撃用武器になるかのように、アメリスを中心にしてゆっくりと円を描いて回りだす。
「……今ッ!」
一つ目小娘の突撃を察知して調獣鞭を振るう。
アメリスの顔に向けて水風船を投げつけて来ようとした一つ目小娘の腕を叩いて水風船を破壊する。
あ、これ失敗だ。そう思った瞬間、アメリスは武器を捨てて上半身のバトルドレスを引き上げる。
胸元を出して必殺の、チク○ーム。
顔を真っ赤にしたものの、今は見られるような人物が一人も居ないので遠慮はしない。
逆鱗の眼光に移行しようとした一つ目小娘に、二つのビームが襲いかかった。
強烈な光に一つ目小娘は泣くのを止めて「え?」と驚く。そんな彼女は光に飲まれて行った。
「こ、この技は封印ですわね。奥の手にしても恥ずかし過ぎて使えませんわ」
どうやら殺傷能力もそこまで無いらしい。
気絶したらしい一つ目小娘が眼を回して倒れている。
「にっ?」
不意に、にっくんがあらぬ方向を見た。
何かの気配を察知した彼は風の魔法弾を作り出し、適当な方向へとばら撒いて行く。
次の瞬間、ぎゃっと声が聞こえて黒装束の男が一人落下して来た。
胸元を出したまま、アメリスは固まる。
まさか人がいるとは思っていなかったのだ。
だから、服をたくしあげて胸元を出しても羞恥はそこまで無かった。
顔が真っ赤になるのが自分でもわかった。
早く服を戻さなきゃ。そう思う事すら忘れて羞恥に震える。
にっくんとにっちゃんが男が起き上がる気配を察して出入り口を塞ぐ。
「クソッ! にっちゃう風情に気付かれただと!?」
「へ、変態っ、変態ですわね。兵士さんこっちですわぁッ!!」
「なっ!? 違う。俺はお前達の実力を探っていただけで貴様の無い胸を見たくなど……」
「死ねッ」
言い訳するのは仕方無いとは言え、胸に関して乙女に告げるのは禁句だった。
石化の魔眼で睨まれた男が音を立てて石へと変わっていく。
目撃者を消したアメリスはふぅっと息を吐いて服を元に戻す。
「にっちゃん、にっくん。さっさと行きますわよ」
「「にっ」」
羞恥を隠すように部屋を後にする。
少し遅れはしたものの、そこまで引き離されてはいないはずだ。どうせキャンプもするだろうし、ゆっくり上がっても数階層後にでも追い付けるだろう。
と、アメリスは気楽に考えていた。
ボス部屋に居るはずの仲間が悉く居なかったせいでほとんどのボスと闘う事になるなどということを、この時の彼女は未だ知らない。
ちなみに、殆どのボス敵はにっくんとにっちゃんが撃破したとだけ告げておく。




