AE(アナザー・エピソード)その遅れて来た影兵を僕は知らない
「あ、先輩、こっちでありますっ!」
俺がコルッカに戻り、護衛対象が泊まっている屋敷に向っていると、通りの横側から声が掛かった。
聞き覚えのある声に視線を向けると……あのバカ何してやがる!?
俺らは影兵。人に姿見られるのを極力避けろつってんだろが。
何を嬉しげに手を振って皆の注目集めてやがる。
アホの娘かお前は。
頭を殴りたい気持ちになるが、大衆の前で年の離れた娘みたいな女の頭を殴るのは危険だ。兵士さんこっちです。になりかねねぇ。
「あ、あのですね、御報告が……」
「とりあえずここで言ったら殴り飛ばすぞ。付いて来い」
「あ……す、すいませんでありますっ」
今更自分がどんな存在か思い出す程混乱していたらしい。
この小娘の名はシャロン。俺と同じ影兵。つまりは影から対象を護衛する任務を持つ存在だ。
つまり影ながら対象を護衛するのであって大通りで大声で俺を呼べるような立場ではない裏社会の存在だ。
アルセ姫護衛騎士団の監視と保護を行っていたはずだが、何故ここに居る?
そう言えば今監視をしているのはこいつだけだったはずだ。もう一匹の女みたいな男はネッテ姫の護衛にマイネフランに残してきたしな。
「んで? 俺が帰ってくるまでに何があった?」
人気のない場所に来た俺は周囲を確認してから話を促す。
「じ、実はですね、リエラさんが胃癌? という病に罹りまして、それを救うために皆さんが時代劇の逆塔に……」
「あー、あの嬢ちゃんついにストレス疾患になったか。んで? なんでその病気で時代劇の逆塔に行くんだ?」
「わからないであります。皆さんアルセちゃんが指差した逆塔に向かっちゃいましたので、何があるかは不明であります」
「まぁ、理解した。アルセの嬢ちゃんが向えっつーんだからリエラの嬢ちゃんについては問題無いだろ。あいつも居やがるし、俺らが急ぐ理由も無い。で? その護衛を任せたお前が何故ここに居る?」
「うぐぅっ」
胸を押さえて絶望的な顔をするシャロン。
どうやらまだ何かあったらしいな。
ここにこいつが居るような理由……
ふむ。ここはカマをかけるとするか。
「お前、やっちまったのか……」
「はうぅっ!? すみませんでありますっ! 同業者数人取り逃がしましたでありますっ」
何かあったのは理解していたが、ものすげぇ大ポカしちまってんじゃねぇか……
「取られた情報は分かるか?」
「殆どがアルセちゃんの情報です。といっても漁街からコルッカに戻った分だけなのですが、道中の魔物撃破を見られているであります! あとパーティーにヲルディーナさんとファラムさんが加わったのも見られました」
「はぁ……まぁパーティーの本気が見られた訳じゃないからまだいいが、大失態だな。このパーティーの過剰戦力を報告された相手がどういう行動を取るか不安になる」
「うぅ、申し訳ないであります。先輩のように逃げようとしたスパイを音も無く撃退する能力は私にはなかったのであります」
「まぁその辺りは留守にした俺にも責任はある。それより、今だ。アルセ達を探りに行った奴らはいるんだろう?」
「は、はい。かなりの使い手と思われる存在が二人、あとは私くらいのが八人くらいであります」
「よし、まだ挽回可能だ。時代劇の逆塔に向うぞ。これ以降は一人も逃さず消す。手伝えるな?」
「当然であります!」
ビシッと敬礼をするシャロンを小突き、俺は装備を確認する。
ロープは大丈夫だろうか? 嬢ちゃんたちが掛けてるだろうから予備用に10個くらい用意しとくか。
後は……
「シャロン、縄を用意したらすぐにでもダンジョン攻略だ。用意は良いか?」
「用意万全であります。縄も100個買っときましたでありますよ」
いや、既に縄掛かってるだろうからそんなにいらねぇぞ?
どうだ。とばかりに胸を張るシャロンに溜息付いて、俺は時代劇の逆塔へと向かうのだった。
「おそらくだがボス階で何人か戸惑ってるはずだ。ソレを叩きながらアルセを追う。どうせ敵のスパイ共は俺らが居ないと油断しているはずだ。一気に潰して回るぞ」
「は、ハイ。でも、既に彼らが入ってから三日は経過してるであります。大丈夫でしょうか?」
「お前……それを先に言え! もう三日経ってんのかよ!?」
どう頑張ってもアルセ達に追い付けないと気付いた俺は悩む。だが、まぁとりあえず行けるだけ行くしかねぇわな。スパイは10人程。アルセ姫護衛騎士団付近にいるなら分かりやすいだろ。もう既に報告に消えた奴もいるかもだが、やれるだけ潰しておこう。
アルセたちの情報をタダでくれてやるわけにはいかないしな。
時代劇の逆塔に辿りつく。
相変わらず変な建物だ。
昔にネッテ嬢が入った時に安全確認のために100階まで行って以来だな。あの時はボス部屋放置で裏技使ったが……今回は順当に行くしかないか。何処にスパイがいるか分からんし。




