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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第九部 第一話 その仲間たちの思いを背負い塔を昇ることになる事を僕は知らなかった
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そのお約束をやっちゃった娘を彼は知りたくなかった

「いきなり殴るなんて酷いじゃないか」


「殴りますよ! どう見ても殴るでしょ!? 僕ら一週間くらいかけて本気で逆塔攻略したんですよ。皆まだ塔の中ですけど、リエラのためにって身体張ってくれたんです。あんたがあの時新しい万金丹だよーって渡してくれるだけでよかったんだ。僕らの苦労返しやがれ!」


「ま、まー落ち付けバグ君よ。どうどう。とにかく話を聞いてくれ。いろいろとこっちも複雑なんだよ」


 僕を興奮した馬のように扱うグレイ型の神様。僕も流石にこれ以上暴走しても話が進まないとなんとか深呼吸して怒りを落ちつけていく。


「確かに、君等の行動を余興として見ていた事は確かだよ」


「なんっ」


「だから待てって。実際問題私が君に直接アイテムを渡すのは問題なんだ。他の神が見学してるってことは不正した瞬間能力を封印されるってことだ。だから私から直接手渡す事は出来ない。そして、ここでも試練なく渡す事は出来ない」


 試練なく……って、まさか……


「さぁ、準備が出来たら言ってくれ。そのくらいは待とう。私のアバターとしてのこのグレイ体を破壊すれば勝利だ」


 それってやっぱりグレイの模倣体だったのか。

 どうりでソックリな筈だよ。

 というか、最後の闘いは僕とアルセでグレイと戦闘ってことですか?

 僕、姿が分かってる相手に闘い挑むのアカネさん以外初めてなんだけど。ついでに言えば多分他のメンバーの誰よりも弱いよ。おそらくランドリック君にも及ばない体力だよ。


「……ん? そういえばパートナーのアルセちゃんは何処に?」


「え? アルセは……アルセぇぇぇ!?」


 件のアルセは僕と神様が話し合ってる横を素通りし、とことこ歩いて、おそらく万金丹だろうポーション瓶みたいなのに入った丸薬を取ろうとしていた。


「待てアルセちゃん、それは私に勝ってから……」


 きゅぽん ひょい ぱくっ


 アルセが瓶の蓋を取り、ひょいっと抓んでパクリと食べた。

 って、だからアルセ、ソレ、リエラにあげる奴だってばっ。全部喰わないで!


「やめろぉぉぉっ!?」


 アルセが次にとった行動に気付いたグレイが叫びながらアルセに走る。

 あろうことかアルセさん、瓶をぐいっと傾け中身を全部口の中へ……

 って、だからリエラの分ッ!!


「やめてぇぇぇぇっ!」


 思わず僕も必死に走って手を伸ばす。

 グレイがアルセの元に辿りついた時、もきゅもきゅごっくんっとアルセの喉が嚥下した瞬間でもあった。

 泣き崩れる僕とグレイ。何処からともなく無数の笑い声が聞こえた気がした。


 そんな僕らを放置してリエラの元へと歩いて行ったアルセは、口内に残していたらしい丸薬状の何かを摘みだし、リエラの口に突っ込んだ。

 ちょっと、アルセさん、アルセの口に入ってた奴だよね!? ばっちぃよ! いや、これはこれで間接キス? として成立するのか?


「……んぅ?」


 無理矢理飲まされた丸薬が嚥下されて直ぐ、リエラの意識に変化が見られた。

 朦朧としていたはずの意識が覚醒し、薄く眼を開く。

 彼女が起き抜けに目にしたのは笑顔満面のアルセ。

 コスモスの花が咲き乱れるような素敵な笑みに、眼を擦りつつ周囲を見回し、ようやくリエラは自分の置かれた状況を認識し出す。


「これ、もしかして……助かった……の?」


「おーっ!」


 よかった。イマイチ感動しきれないけど、リエラはなんとか元通り復活してくれたようだ。

 肩の荷を降ろした僕はアルセの元へ疲れた足取りで辿りつく。

 アルセの頭をぽんと叩くと、僕に視線を向けたアルセがどう? 上手くいったよ。みたいな笑みを浮かべて来た。

 ホントに、アルセは僕の予想の斜め上を行ってくれるね。


 御蔭で試練とか受けなくて良かったよ。

 僕は魔物図鑑を取り出す。

 そこで、ようやくリエラも僕が居ることに気付いたようだ。


「そっか、透明人間さん……あの、アルセと一緒に、私の事、助けてくれたんですよね。ありがとうございます」


 お礼を言うのはまだ早いよ。図鑑でまずは確認しないと。

 と、僕が図鑑を見ようとした時だった。

 すっと、背後で立ちあがる気配。思わず振り返ると、まさにグレイのように不気味に立ち上がる神様が……


「試練をしようか、バグ君ふふ、ははは……」


 あ、これマジギレ?

 僕は咄嗟にリエラを背負い、アルセの手を引き走り出す。

 リエラは意味が分からず戸惑っていたが、アルセはむしろ先導するように走り出した。

 アルセギンの種を撒き散らし足止め任せたッとばかり出現するアルセギンたちをグレイへと殺到させる。


 グレイは指先をアルセギンの一体に向ける。

 次の瞬間赤い光がぴしゅんと走り、アルセギンが破裂した。

 キャトルミューティレーション!? 捕まったら地獄としか思えないっ。


「な、何なんですかアレ!? 敵なんですか!? ひゃぁ!? 後、後ろ追ってきてますよっ!?」


「待てバグっ! 今度という今度は許さんっ、ちょっと解体させろコルァッ」


 僕は残った最後の体力を全て使い、100階層から逃げ出すのだった。

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