そのアルセの反撃を彼は知りたくなかった
「次、行けぃ!」
リエラの番だ。僕はリエラが掴むように動かしながら何かを取り出す。
鍋から掬いだしたのは……よ、良かった。白菜切った奴みたいだ。
これならリエラの胃にも優しいぞ。
リエラに食べさせると、アルセが光り輝く。
頑張ってアルセ。
ルールを理解しているアルセが鍋から何かを取り出す。
「ピギャーッ」
……あの、アルセさん、それは……
アルセも自分が手にした何かがヤバい奴だと気付いて固まった。
え? これ食べれるの? みたいな顔で僕に視線を向けて来る。
助けて。と言われたような気がしたけど、どうしろと?
とりあえずポシェットに入れようとしてみるけど、どうやら生物だったらしい。ポシェットに入りません。
うねってる。謎の生物が箸に掴まれうねってます。
どうするのアルセ!?
「やれ!」
闇鍋奉行が采配する。鬼達がアルセを掴む。
アルセがいやいやしている。ああ、くそ、このままアレをアルセが食べさせられるのか……
そんなこと、させられる訳がないだろうッ!
嫌がるアルセの口に迫っていた謎の生物を丁髷砲で吹き飛ばす。
粉微塵にしてしまえば食べられないぜ!
突然爆発した謎生物。
もはや掴めなくなったソレを見て闇鍋奉行が立ち上がる。
「うぬれ貴様ッ! ルールを破るか!」
僕を完全に見据えて怒り狂う闇鍋奉行。慌てて闇鍋奉行のステータスを確認する。
闇鍋奉行
種族:偽人 クラス:丁髷族
装備:十手、和服
種族スキル:
威嚇・激
ひっとらえよ!:うっかり御用だを多数生成する。
真空波斬:横一線に走る剣閃にさらに衝撃波が加わる。
武器破壊:十手で受け止めた刀などを破壊します。
待たれよ!:相手が鍋を始めていると突然現れ待ったをかける。鍋に関して事細かく指示を出す。
まだ煮えておらぬわ!:相手の攻撃を確実に受け止めるスキル。30%の確率で発動。
鍋こそ我が人生:鍋物を食べることでHP・MP・TPが全回復。稀に瀕死または状態異常。
逆鱗:鍋物を粗末にした者に対し全能力超強化。
貴様が、鍋に、何をした!!:鍋物を粗末にした者に対し死ぬまで怒涛の連続攻撃を行う。
闇鍋の乱:暗闇のフィールドを生成し、相手に強制的に闇鍋参加を促してくる。このフィールドを解除するには箸で必ず何かを掴まなければならず、掴んだ物は絶対に食べなければならない。
ドロップアイテム・十手・和服・鍋・闇鍋の具
マズい、逆鱗が発動してる。
僕は決死の覚悟で闇鍋奉行と敵対する気になっていた。でも、アルセは違ったらしい。
弾丸で飛び散り死に絶えた何かの元へ向うと、ソレを拾って寄生を発動。
口からは食べてないけど栄養分を吸収して戻ってくる。
「おー」
「ぬぅ……まぁよかろう」
怒りを僕にぶつけようとしていた闇鍋奉行が再び座る。
残ったにこやか緑鬼に促そうとした。そこへ、アルセがポシェットから何かを取り出し鍋に投入。
「おっ」とにこやかに闇鍋奉行を指す。
私達が食べたんだから貴方も食べるよね? 私達からの具材。入れておいたよ? そんな言葉を発した気がした。
むぅっと唸る闇鍋奉行。仕方無いなっとにこやか緑鬼を促す。
緑鬼が何かを手にした。アレは……アンブロシアの種?
緑鬼は戸惑いつつも一気に食べる。
彼らは何度も食しているから慣れているのだろう。躊躇いが無かった。
そしてしばらく、闇鍋奉行が自分が食べようと箸を鍋に伸ばした時だった。
「UGRYYYYYYYYYYYYッ!?」
にこやか緑鬼が謎の奇声を発して悶え始める。
驚く闇鍋奉行。その視線の先で、おごばっと緑鬼をブチ破り出現するアンブロシアツリー。鬼を養分にして立派な実を五つも付けた。
「なべっ!?」
ツリーを花弁ガトリングで撃破し、アンブロシアを回収したアルセが闇の中鍋を指す。
さぁ、次はお前の番だ!
アルセの反撃が、始まっていた。
ただの闇鍋。何度も行い慣れたはずの闇鍋奉行。しかし、鍋に投入された具材はアルセ印。
未知の危機に闇鍋奉行の腕が震えていた。
脂汗がとめどなく流れる。
ギロリと僕を睨みつける。最後に喰うのは貴様だ。地獄を見せてやるからな。そんな視線で僕を射ぬいていざ、とばかりに鍋に箸を近づけた。
そんな彼が掴み取ったのは……人参?
そう、人参だ。ただの人参だ。ただし、一本丸々入っていた人参である。
なんだ人参か。安堵する闇鍋奉行。しかし、彼は気付いていなかった。
その人参が何故一本丸々なのか。
口に含み思い切り噛み砕く。
ばぎっと音が鳴り、闇鍋奉行の歯が欠けた。
そう、それはロウ・タリアンから入手した鋼の人参。
あまりにも硬過ぎた人参は、食用不可の長物だ。アルセは普通に食べてたけどね。
「なべぇぇぇぇ!?」
「ふ、ふふ。それは喰えないわね鍋奉行。どうするの?」
復活したパルティが恨みがましく告げる。
必死に食べようとする闇鍋奉行だが、鋼を砕く歯は持ち合わせていなかった。
パルティは闇鍋奉行の背後に控えていた鬼達に告げる。
「やりなさい!」
鬼達は戸惑いながらも、いつものように食事をし切れていない相手に無理矢理食べさせようと群がる。
「なべっ、なべぇっ、なべえぇぇぇぇぇ――――っ……」
無理矢理に人参を突っ込まれ気道を塞がれた闇鍋奉行が気絶した。
闇空間が解ける。
僕たちは闇鍋から生還を果たしたのだった。




