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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第九部 第一話 その仲間たちの思いを背負い塔を昇ることになる事を僕は知らなかった
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プロローグ・そのバグの決意を彼しか知らない

 リエラが倒れた。

 未だ意識が戻らず、時折辛そうに呻く彼女を見ていると、胸が締め付けられる。

 気付いていたはずだった。


 彼女はストレスに弱い。

 少しずつ悪化していく胃を、僕は図鑑を見て気付いていたはずだ。

 どれだけ回復しても、状態を直しても、又すぐに戻って徐々に悪化していく。

 いつかは手を打たなければ致命的な事になることくらい、簡単に想像できたはずだった。


 でも、皆と冒険したかった。

 ずっと楽しく続く毎日があると虚構に縋っていた。

 でも、現実は非情だ。僕が現実を直視してなかったことを見せつけられた気分だ。


 だけど、だけど僕には何も出来ない。

 皆が心配する脇をすり抜け、室内から出る。

 アメリス邸を抜けだし、夜空で瞬く星空の下、誰もいない中庭に一人、佇み空を見上げた。


「神様、見てるんだろ?」


 しばらく待つ。

 そいつは唐突に、真正面に出現していた。

 アーモンド形の目をした銀色の人型。


「やぁ、久しぶり。あまり世界に直接干渉すべきじゃないんだけどね。このままだと君、致命的な事する気だろ」


「うん。もしも、手だてが本当に無くなったら。僕はきっと最後の奇跡に縋る」


 それはもっとも悪手だ。だが、可能性だけは未知数の、本当に最後の奥の手だ。

 下手すれば二度とリエラに会えなくなるし、彼女を殺してしまうかもしれない。否、最悪、ヘンリーみたいに二度と死ね無くなり、動けなくなる可能性だってある。


 リエラをバグらせる。

 その結論に至るのは簡単だった。

 自分に出来る事を考えた時、一番最初に浮かんでしまったものだから。


 でも、それは本当に悪手だ。

 バグは所詮バグ。運良く胃癌だけを消し去ることは不可能。

 今まで覚えた、成長した全てが白紙に戻るだけでも恩の字。

 存在が消える。動くことすらできなくなる。それですらマシな方。

 最も最悪なのは……リエラが起点で世界までがバグること。そうなってしまえば、終わる。


 僕の存在は、そして僕が使うバグは下手すれば一瞬で世界を滅亡させる災厄なのだ。

 サハギンキングと魚人島が消し去られた時、僕は僕の危うさを本当の意味で理解してしまった。

 バグはもう、使わない方がいい。自分があの島みたいに跡形も無く消え去ることを決意して使う。それくらいの覚悟がなければ使うべきじゃない。


 バグはチートじゃない。あくまでバグだ。

 バグった存在は強くなった訳じゃない。世界の理の外に放り出されただけだ。

 そこから世界に干渉すれば、世界の方が壊れてしまう。

 だから、僕がこれ以上この世界に居たいと思うのならば、バグはもう使うべきじゃないんだ。


「その様子じゃ、自分がバグを使った時どうなるか、本当の意味で理解できたみたいだね」


「魚人島の光景が目に焼き付いてるんだ。思い出すたびに自分がいつ消えるのか不安でしかたないよ」


「なら、その不安をリエラさんに与えるべきじゃないよね?」


 分かってる。分かっているけど……


「他に方法がないから……」


「あるさ」


 不意に、その言葉を聞き逃しそうになった僕は顔を上げた。


「あ……る?」


「あるよ、かなり昔にだけど、時代劇の逆塔に、どんな病気ですら治る万金丹を設置したからね。まだ攻略者が居なかったはずだからあると思うよ」


「万金丹……だな」


「ああ。どうせ飲ませるならその場で飲ませた方がいいよ。行って戻ってだと時間がかかり過ぎてそれまでに死にかねないし」


 リエラを救う方法がある。

 未到達ダンジョンの最奥……か。

 僕らだけで行けるだろうか?

 いや、むしろ魔王すら倒せる僕らだからこそ行ける可能性があるのか。


「時間はないだろう。メンバーに不安があるかもしれないけど、今からでも行くしかないんじゃないかな?」


 できるなら、エンリカやネッテ、カインが一緒にいてくれれば心強い。

 だけど、リエラを救うために、彼らを招集する余裕は多分ない。

 だから、行くよ。


 僕一人で行ければいいけど、確か数日かかる程に長いらしいから、リエラを連れていかなきゃいけない。皆の協力は必要だ。

 僕は時代劇の逆塔のある方角に視線を向ける。


 コルッカにあってくれてよかった。

 間に合わない程の時間じゃなくてよかった。

 今ならまだ、リエラを救える。救う手だてがある。


 なら。やるしかないだろう。

 例え皆を危険に晒すとしても。

 僕はリエラを助けたい。


 僕とアルセが出会って、ずっと一緒に過ごしてきたのは、今のところリエラだけなんだ。


「もう一度聞くけど、その万金丹なら、リエラを救えるんだよね。一瞬だけじゃ無く」


「ああ。ただの状態回復じゃない。以後健康な体を手に入れる頑強さを手に入れられるさ。下手をすればエリキシル剤より強力な状態回復薬かもしれないよ。前にノリで作ってそのままにしてあるんだ」


 ソレをもう一つ作ってくれ。というのはダメなのだろうか?

 神は世界に干渉すべきじゃない。ってことらしいし、ダメなのだろう。

 おそらく、ある場所を教えてくれるだけでもグレーゾーンなはずだ。


「今貰う事は……」


「思っている通り、ムリだね。こっちでもいろいろと縛りがあるのさ。以後の世界への接触を犠牲に君にいろいろと便宜を図る理由も無いし、我々は世界の管理者だ。世界のごく一部で一人の少女が死にそうになっている程度で手を差し伸べる訳にはいかないんだよ。神々同士の取り決めもあるしね。救う方法がある。場所は教えた。ならば後は君に任せるさ。せいぜいバグの足掻きをみせてくれ」


 消える神を見送り、僕は空を見上げる。

 リエラ、必ず助けるよ、君を。 

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