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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第四話 その島があった事実をもう誰も知らない
722/1818

SS・そのお正月が世界に導入される瞬間を僕は知らない

明けましておめでとうございます。

本年度もアルセともどもよろしくです<(_ _)>

 アルセ教本部。本日は古代人を一人ヘルパーとして呼びよせ、グランドピアノでの演奏を行っていた。曲名は教会内の誰も知らない。ただ正月にかかるTHEあけぼの。といった感じの和風な曲が教会に響いていた。

 繰り返される曲は落ち着いた朝焼けの風景を思わせるゆったりとした曲で、来場者たちを和ませている。


 アルセと勇者たちが出会った日。

 世界革変の日とされた祝祭日。

 その一年後の本日開催されるのは、新年祭。


 まさに正月を思わせる和洋折衷の不思議な祭典が本日、ついに始まっていた。

 教会周辺には屋台も出展され、ある種街中上げての迷正月が始まってしまっている。

 アルセ教信者たちがこぞって教会へと向かう。


 なぜか大量の人が参りながらも右側が教会へ向う一団、左側が教会から帰る一団という流れになっており、スムーズとはいかないまでも交通に不便ない流れが出来ていた。

 屋台では魔銃を使った射的やらカタヌキ、ヤキソバなどなど、アカネが思いつく限りのものを用意し、神官たちが交通誘導を行う。


 本日も昨日に引き続き来ていたネッテとカインは昼間になってすら途切れない信者の行進を見ながらアルセ教の普及率に震撼していた。

 今までの教会は駆逐されてしまったかのような信者の数。

 正直戦慄すら覚える。


「ふあぁ~。あら、まだ居たのね御二人さん」


「アカネさん。仮眠してたのかしら? お邪魔しているわ」


「一応、居なくても回るっちゃ回るんだけれどもね。最初なわけだからどんなトラブルが起きてもいいようにしているわ。ヘンリーが変なちょっかい掛けないようにセインに任せたし、というか、アレもイベントの一つにしてしまうのもありね。なにか良い方法はないかしら?」


「それで、今回は新年のお参りというのはわかったんだけど、他にどんなイベントがあるの?」


「え? 無いけど?」


「は? これだけか?」


「来て貰った人にショウガ湯か甘酒配ってるくらいね」


「ミサみたいな事したり讃美歌熱唱したりしないのか? 今までの教会だと新年祭っていやぁ……」


「そうね。他の教会だといろいろ祭典があるんでしょうね。でもアルセ教会はこの方針で行くわ。そもそもが他の教会とは違う事をしてほしいって信者さんから声があったからこの祭日を設けたんだしね。私が最高司祭よ。誰にも文句は言わせないわ」


 くっくと暗い笑みを浮かべるアカネ。

 いろいろとストレス抱えてるんだなァと、珍しくカインが同情するのだった。

 ただ、結局昨日の除夜の鐘では彼女の雑念を浄化し切ることは出来なかったことだけは変えようのない事実であった。


「最高司祭様、ヘンリーが気絶したです。強く撞き過ぎました。どうしましょう?」


「回復魔弾でも尻に打ち込んでやりなさい」


「もうやったりましたです。なぜか発狂し始めたので再び沈黙させたりました!」


 報告に来たセインはそのまま教会から出ていく。

 アカネとカインは顔を見合わせ彼女の後を追う事にした。

 ネッテは他の司祭と話をしていたので彼女は放置である。


 外に出て見ると、二つの流れが上手く出来ていることにカインは驚く。

 その人の流れの中央に、ぽっかりと出来た三角州。

 気絶中のヘンリーを丸太でつっつくセインが二人に気付いて手を上げる。


「はい、アカネ様、動きません!」


「気絶してるからね……ああ、こりゃまた派手に撞いたわね」


「死ぬことはねぇから問題はねぇんだが……コイツなんで裸なんだ?」


 ヘンリーは今、セインが掛けたらしい毛布に包まれているだけだ。


「こいつ服着させても次の日には脱いでるです。ただの変態なのです。夜中は変な声だして近所迷惑千万万々歳です。なので撞っついても問題なしなしです」


 とぉーっとばかりに丸太で一撃。

 ヘンリーのあまりにも悲惨な姿を見たカインは空を仰ぐ。

 なぜだろう、自然と涙が滲んだ。


 目頭を押さえるカインを横目に、アカネはふむっと考える。

 彼女の思考回路がフル回転を始める。

 皆から疎まれる勇者ヘンリー。この状態になっても誰からも助けようとか、可哀想といった声があがってこないが、この日々が常習化した時、長年の中でヘンリーを可哀想に思う人物が現れないともかぎらない。


 あるいは隠れて彼を救いたいと願う人がいるかもしれない。

 ならば下手な事をしないように彼らの欲望を発散させる術がいる。

 ならば本日の生誕祭で罪人への施しも一緒に加えた方がいいかもしれない。


 ヘンリーに服をお供えし、ソレを徴収してアルセ教の金に変える。

 お供え物でどんどん儲かる。あるいは、その服を恵まれぬ浮浪者に施すでもいいかもしれない。

 アルセ教の、ひいては最高司祭であるアカネの株も上がろうというもの。


「ふっふっふ。笑いが止まらぬわ」


「むぅ、アカネ様から邪悪な気配がするのです」


「いつもの事だろ。それよりセインだっけ、そろそろヘンリーを撞くのを止めてやってくれ。なんか俺が可哀想に思えるほどに痛々しい」


 こうして、アルセ教新年祭では神罰を受けたヘンリーに服を供えて救済を与えるという謎の催しが加わり、一緒に供えられたモノに関してはスタッフ一同というかほぼセインが美味しく頂くというお正月に似た異質な祭日が世界に広がって行くのだった。

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