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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第四話 その島があった事実をもう誰も知らない
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SS・そのお正月制定準備を僕は知らない

「えー、という訳で、皆様から是非にと言われていたアルセ教のイベントについて意見を出し合って行きたいと思います」


 アカネがやる気ない声で告げる。

 ここはアルセ教本部教会、円卓の間。

 わざわざ教会の地下に作った秘密の会議所である。


 参加者はこの教会の司祭やシスターを含んだほぼ全員。

 教会内でお説教を行うロリデッス神父の補佐役以外は全員がここに集結していた。

 アカネの横にはついこの間から働き始めた孤児のセイン。

 名前すらも持っていなかったのでアカネが名づけたのである。


 アルセ教に熱心なセインは瞬く間に説法を覚え、仕事をこなし、今ではアカネの右腕、あるいは次期司祭長候補と呼ばれるようになっていた。

 その為、他の司祭などからも少し尊敬と畏怖が混じった視線を送られている。

 元々孤児だった彼女にとってはその程度の視線どうという物でもないのだが。


「アカネ様。アルセ教のイベントと申しますが、今ある教義のように毎月のイベントを行うのではいけないのでしょうか?」


「まぁ、確かにそれでもいいっちゃいいのよね。でも折角アルセ教が今年できたのだから、と街の人たちから今までとは違うんですよね? ワクテカ。っと期待に満ちた表情で言われるわけよ。で、他の教義と一緒です? ぶっ殺されるわっ」


 話にならん。と司祭の発言を一蹴し、各々意見を出させる。

 しかし、皆既存のミサを行う、や、カーニバルを催す。などなど、他の教会を参考にしたモノが多い。

 アカネとセインは顔を見合わせうーん。と唸る。


「そういうアカネ様からはご提案はないのでしょうか? これぞアルセ様。と言えるような催しは」


「催しねぇ……」


「生誕祭みたいなのは無いですか? セインはアルセ様の生まれた日を祝いたいと思うです。あとその前日も年が切り替わる日みたいな感じにしたいです」


「成る程ねぇ……新年か。あー、いや、でもロックスメイアとか取り入れてるかなぁ、いや、でもこれはちょっと斬新というか、となると、国王への打診もいるか。どうせなら大々的に、アルセの生まれた日なんてわからないから、ああ、カインたちと出会った日ならいけるか。運命が変わった日みたいな感じで。よし」


 一人納得し、アカネは頷く。


「最高司祭? どうしたです? そんな百面相されてもセインは笑えないのです」


「あんたを笑わせるつもりは一切ないわよ。それよりセイン。これから王族との話し合いを行うから付いて来なさい。これからはあんたがやるのよ?」


「なぜセインはシスターになるはずなのに最高司祭としての道が用意されてるのか理解に苦しむです。セインちょーショック」


 がくりと項垂れるセインを放置して、アカネは周囲の司祭たちに視線を向ける。


「では、許可についてはそこのシスター、国王陛下に先ぶれをお願いするわ。それからこれからやってもらう事だけど、アルセの生誕祭は正直無理よ。あの子がいつ生まれたかはわからないのだから。でも、運命的な出会いの日は本人たちに聞けばいいわ。カイン王子とネッテ王女に聞いて来るから、その日取りを開けておきなさい。前夜祭も執り行うからその日の予定も全て別の日にする事」


 あとは……と考えながら指示を飛ばして行く。

 やる気は無くとも的確な指示が飛ばされるため、アカネが最高司祭であることは、ある種アルセ教にとっては適材適所であると言えた。

 そんなアカネの背中を見ながら、セインもまた、最高司祭がどういう物であるべきかを学び始めていた。


「チラシを作りましょう。国中に知らせておく方がいいわ。その二日間は迷惑を掛けるかもしれない訳だし、さぁ、何月の事になるのかしらね」


「あの、ソレなのですが最高司祭。セインは既にネッテ様よりその辺りは聞いているのです。日付は一週間と一日後、出会って一年目となるそうなのです」


「お、やるじゃんセイン。伊達にアルセ好きじゃ……って、一週間!?」


 驚くアカネの声に、その隠された事実を悟った司祭たちもまた顔を青くする。


「計画変更。こうなったらもう絶対に間に合わせてやるわよ! 全員、これから一週間死ぬ気で、いいえ、死んだ気で働きなさい!」


 これより一週間、アルセ教本部は修羅の道へと迷い込んだ。

 まずは国王との謁見を行うアカネ。草案を提出し幾つかの許可をもらい、さらにチラシを作製する。

 さらに関係各所に指示を飛ばし馬車馬のように働かせながら自分もまた忙しなく動く。

 朝昼晩深夜問わずに働き続けたせいでハイテンションとなったアカネ達は暴走し、そして一週間後、その伝説級の謹賀新年祭がついに始まろうとしていた。


 今はまだ、誰も知らない恐怖の祭典。

 アカネの暴走を止める者は皆無、セインもまた、アカネの意思を尊重し、歯止め役のいないまま。暴走列車は行きつくところまで行きつこうとしていたのを、誰も気付くことは無かった。

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