SS・その暴走団の出現をまだ僕らは知らない
「おう、来たなお前ら!」
「オルァ!」
ツッパリたちの魔王辰真と共にやってきたのは、最近番長へと存在進化した十体のツッパリたちだった。
彼らが本日やってきたのはマイネフランの職人街。
気の良いおっさん連中が集まった場所に、彼らは物珍しそうな顔をしながらやってきたのである。
武器屋の親父が代表して、職人街に並べられた数々の武器を指差す。
そこには布がかけられた9機のオーバーテクノロジー。
職人街の有志により布が取り外され、輝くばかりの銀白のボディが露わと成る。
陽の光を受けさんさんと輝く白くつややかな体。とある魔物から手に入るゴムを加工することで作りだした二輪のタイヤ。
魔物達はそのたくましき相棒たちに歓声を上げ群がる。
こいつは俺が、否、俺が!
そう言いながら群がる番長たちに辰真が一喝する。
「余った一人は辰真のお下がりになっちまうが、いいか?」
「オルァ?」
俺のお下がり?
戸惑う辰真の背中を親父がバシンと叩く。
うぉう? と驚く辰真に、親父は指で指し示した。
そこには、少し大きめの布が掛かったモノがあった。
「オルァ……」
おい、まさか……
そんな驚愕に彩られた顔で親父に視線を向ける辰真。
「アルセの嬢ちゃんがコルッカに行っちまう前に一枚書いてくれてな。アルセの嬢ちゃんから、お前にプレゼントっつー訳だ」
親父の言葉と共に取り払われる布。
そして出現する漆黒に濡れたカラス羽のような巨大な自動二輪。
「黒羽号とでも名付けようか。お前さん専用だ。なんでも帝王は黒らしい」
親父さんが告げるが、辰真は聞いちゃいなかった。
滂沱の涙で視界は滲み、力の消えた身体は膝から崩れる。
日輪の輝きを受けなお暗黒に輝く一味違う巨大なボディに、辰真は土下座で迎え入れる。
姐さんの心意気、しっかりと受け取りやしたっ。
ここには居ないアルセに最高礼を送り、辰真は立ち上がる。
モノ言わぬ機械に歩み寄り単車に触れる。
ゾクリ。背中が粟立った。
最初に貰った単車など及びもつかない。
こいつは正真正銘のバケモノだ。
私を乗りこなせるかしら? そのバイクが大胆不敵に語りかけて来るような不思議な感覚があった。
当然、辰真は答える。お前こそ、俺の武器足りえるか? と。
偽人とバイクは互いだけに分かる不敵な笑みを浮かべ合う。
「ドルァッ!」
辰真が黒羽号に乗り、エンジンをかけた。その刹那。
ドゥルンッ
まさに命がともったように機体が鳴動する。
番長たちも自身のバイクに跨り、次期総長と目されている番長が辰真のお下がりバイクを嬉しげに乗る。
「オルァ!」行くぞ野郎ども!
そう告げるような号令で、一斉にバイクを動かす偽人たち。
初めての運転だと言うのに、その姿はあまりにも様になっていた。
ここに、異世界初の暴走団が誕生した。
彼らは街中を爆音響かせ凱旋し、人々から歓声を受けて迎え入れられる。
小さな子供が彼らを見てつっぱりーっ。と手を振ってくれている。若い女性がステキ。みたいな濡れた瞳を見せていた。妖しい男達が同じく濡れた瞳で見ていたのは無視して彼らは街を爆走する。
「ん? おい、おいっ、ちょっと待てぇ!! ぎゃあああああああああああああ!?」
「オルァ?」
アルセ教教会と城前の大通りを走っていた頃に謎の悲鳴が轟いた気がしてバイクに謎の感触があったが、大したことではなかったので辰真は気にせずさらに走り続ける。
街中を一周して職人街に戻ると、武器屋の親父を筆頭に待っていた熱き男達の前にバイクから降りて整列した。
番長も揃って両腕を身体の前でクロスして、ありがとう、ございましたっ。とばかりにばっと両腕を降ろすして頭を下げる。
ツッパリ式の感謝の気持ちらしい。どっかのエロバグが居ればゴチですか? などと言っていたであろうその光景に、職人たちはがははと笑う。彼らにとっては大仕事がこなせたという事実だけがあればいいのだ。
ツッパリ達から貰ったものも多い。金以上のモノを彼らは提供してくれるのだ。
離れた場所にいる魔物の部位や、凶悪な魔物の部位。他の町への護衛だって彼らがしてくれる。
ただ金を貰って仕事をするよりも余程有意義な取引だった。
男達は熱く手を取り合い。また、良いモノを作ると約束をし合う。
職人たちに手を振って、辰真以下番長たちは自らの愛車に乗って自分たちの住む森へと還って行くのだった。
途中、平原でオオカミモドキたちが群れを成して襲ってきたが、暴走団は一度も止まる者が居なかった。
車上で鉄パイプを振るい、無数の屍を築きあげながら最強の魔王集団が走り行く。
死山血河を踏み越えて、血煙薫る男道。
魔王辰真の軍団もまた、アルセに負けないよう強化されつつあった。




