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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第四話 その島があった事実をもう誰も知らない
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SS・その供物と彼の遭遇を僕らは知らない

クリスマスが過ぎた。サンタさんプレゼントはまだですか?


「ただいま帰りました」


 そこは海の底のさらに底。海溝という名の深い溝の底だった。

 巨大な体躯を持つリヴィアサンを前にして、リフィはふかぶかとお辞儀を行う。


「お母様、ご機嫌麗しゅうございます」


 ――よく、無事に帰って来てくれた、私の愛しき娘――


 母からの念話にリフィはコクリと頷く。


「地上に行くことになった時は不安しかありませんでしたが、存外素敵な場所ですね。私は好きです」


 ――それはいい経験になったようでなにより。さて……――


 話を変えるように、声を途切れさせるリヴィアサン。

 その巨体をゆっくりと起こし、鎌首擡げるようにリフィに身を寄せる。

 彼女の姿はまさに威容。海蛇をそのまま巨大化させたような体躯に龍を思わせる凶悪な面。


 ――さっそくで悪いが我が軍は他の大海を統べる魔王に比べると少ない。四人の魔王が治めていた場所を私一人で治めることになったわけだしな。よって、リフィ、貴女に東の海を任せます。海峡より東を治めてみせなさい――


 いきなりの大役だ。どこまでが境界かもわからない海の東側を守れと言う。

 何処まで守ればいいのか、何処を守ればいいのか。

 ファラム、オクトパー、サハギンキングが治めていた領地の東側を自分が管理しなければならなくなったのだ。


 正直大変過ぎる気がしなくもない。だが、だが自分はこの程度で弱音を吐いているわけにはいかないのだ。

 地上に出たことで幾つもの貴重な経験を行えた。

 働くという事も知ったし、お金の価値も知った。

 友人が出来て、好きな人も出来た。


 そんな仲間と言ってくれた人たちに胸を張って頑張ってるよと言えるように、自分に課せられた使命を行わなければならない。

 眷族は全くいない、でも地上ではオッサットたちが、空には空母雉を始めとした無数の鳥たちが協力してくれると言っていた。

 つまり、彼女にとっての眷族、否、仲間はいつもそこに居てくれるのだ。


 例え海の中に眷族が居なくとも、彼女は負ける気がしなかった。

 まずは、そう。オクトパーが眷族としていたスロームノワール辺りから交渉していこうと思う。

 少しづつ、そう、少しづつだ。


 そう、思ってスロームノワールを探している時だった。

 海上に足が生えていた。

 しいていうなれば、人間が一人、泳いでいた。


 こんな遠方で一人といえば難破かなにかだろう。

 絶対に死にかけの人だ。

 そう判断してリフィは護衛として借りたサメ二体と共に浮上する。


 ざばっと海上に出て見れば、立ち泳ぎをしているおっさんと目があった。

 そのおっさんは諦めたような顔をしながらも、体力を温存しながら海をたゆたっているご様子。

 リフィを見付けてぎょっとした顔をしたが、同時に安堵したように見えた。


「スロームノワールの嬢ちゃんか。すまん、魚人島に行ったは良いんだが途中で島が消えてな、ぎりぎり脱出したがこの体たらくだ。悪いんだが岸まで誘導してくれねぇか?」


「……どちら様?」


 親しげに語りかけて来たおっさんだったが、全く知らない人だった。

 リフィが尋ねると。ああそうか。と頭を掻くおっさん。その身体からは殺気などは微塵も無く、本当に知り合いに話しかけるような態度で、参ったな。といった様子が見える。


「アルセの護衛の一人っていや分かるか? 影から守ってるんだ」


「ああ、皆さんのお知り合いでしたか。もしかして……」


「あー、まぁそんな感じだ。最後までサハギン、ありゃギルマンだったかな? 相手に闘ってたら鳥が飛び立っちまうじゃえぇか。背筋もゾクッと来やがるし、やっべと思って慌てて島から脱出したは良いんだが、直後に島が消えちまってな。海に一人ぼっちだ。もう三日目だぜ、そろそろ死ぬかと思ってたところだ」


「それは……何とも災難で。皆さん帰っちゃいましたよ」


「だろうな。とりあえず宿屋まで連れていってくんねぇーかな。そこで体力回復させてからコルッカに戻るわ」


「了解しました。サメさん、こちらの方を乗せてあげてください。ご案内します」


 名も知らないおっさんと共にリフィは再び漁街へとやってくる。

 すると、何の因果だろうか? 丁度探していたスロームノワールが大量に海岸沿いを漂っている。


「なんだぁ? またスロームノワールが大量発生してんじゃねぇか」


「変ですね。彼らの主であるオクトパーは既に死亡したはず……」


「残念だったなリフィ姫ぇ! 兄の意思はこの俺が継いだのさぁっ。さぁ、我が花嫁となるがいいっ」


 ざばりと海が盛り上がり、巨大なイカが出現する。


「そんなっ、スクイーディア!?」


「双牙斬!」


「ぐわああああああああああああああ!?」


 顔を出したクラーケンモドキの生物は、しかし、次の瞬間、サメから飛び上がり顔面に繰り出されたおっさんの一撃をまともに喰らい、脳天に穴を開けて沈んでいった。

 おっさんはクラーケンモドキを足場に胴体を一蹴りしてサメの上に舞い戻る。


 出現後、わずか3秒。スクイーディアは一人の男により人知れず撃退されたのだった。

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