その我がまま嬢をなだめる術を、彼らは知らない
翌日、僕らは武器屋で合流したカインたちと共にある屋敷に来ていた。
どこって? 当然アメリス=フィラデルフィラルお嬢様の居らっしゃる邸宅さ。
にっちゃう探しの指名依頼なので仕方なくやってきたのだ。
しかし、凄かった。
夜は男性陣が徹夜で解体作業をしていたので、宿で寝たのは女性陣と僕。
そう、女性陣と僕。ハーレムです。ハーレムでした。
当然、何も出来ませんでした。
風呂覗こうかなっと。ちょっと欲望に負けそうになったけど、リエラが物凄い形相で覗いたら許しませんから。とアルセソードに手を掛けて言われると、さすがにリスクを冒せない小心者でした。
まぁ、そういう訳で、僕らは全員揃って屋敷へとやってきたのである。
屋敷に着くと、巨大な庭園を通り抜け、執事さんに案内されるままこれぞ貴族邸と言うべき洋館へと入る。
成金主義丸出しの装飾に金を掛けたエントランス。
赤い絨毯の上を歩きつつ、中央階段から二階へ。
その間も無数のメイドさんが働く姿が目に入る。
「こちらでお待ちにございます」
部屋に通されると、ちょうど客間と言うべき場所だろうか。
多分普段は商談をまとめたりするのに使う部屋なのだろう。
これ見よがしに黄金の鳥の像を設置したり、豪勢なペナント、トロフィーっぽいのやらなんかいろいろおいてある。
その中央に二つの長椅子がダイヤモンド製のテーブルを挟んで設置されている。
その椅子の上座に座っている一人の少女。
不遜な態度というか、ふてぶてしい態度でこちらを見ると、ニヤリと笑みを浮かべた。
ああ、嫌な予感がひしひしします。
「覚えておいでかしら。にっちゃんを届けてくれた人たち」
「まぁ、かなり衝撃的な出来事でしたしね。で、今回の御用向きは?」
「ええ。当然。前回にっちゃんを見付けてくれたその腕を見込んで頼みますわ。私のもとへにっちゃんをもう一度連れて来なさい」
と、きらびやかなドレスで金髪の映える姿の少女が上から目線で告げる。
「と、言われましても、前回も偶然見つけただけですし。同じ場所で見つかるとも思えませんよ」
「場所はあの森だってことだけはわかっているの。何度か目撃談はありますもの。なので、無理にとはいいません。ですが。今回は私を連れて行って貰いますわ」
「……は?」
まさかの問題発言だ。
一度も町の外に出たこのないようなお嬢様が森に向う護衛をしろ。そしてにっちゃう・つう゛ぁいを見付けてくれと。
いくらなんでも無茶ぶり過ぎる。
もしもこれで彼女に何かあった場合カインたち、下手したら貴族から粛清受けるんじゃ……
カインたちも余り乗り気じゃなかったが、アメリスはぐいぐい強引に決めていく。
翻弄されるカインに代わり、ネッテがなんとか妥協案を模索するが聞く耳もたないお嬢様は自分が自ら森に乗り出すと言ってきかなかった。
それを配下一堂からもお願いされてしまえば、ネッテといえども二の句を継げなかったらしい。
結局は彼女の同行を許可する事になった。
どうなるんだろうなカインたち。
一応僕も怪我させない様には見とくけど、アルセだけでも手一杯だよ。
準備を整えるとのことで、一度その場を後にしたアメリス。
それを横目に眺めつつ、カインたちは深いため息を吐いていた。
というか、アメリスさん、オークやミイラ見ても全く動じてなかったな。
さすがというかなんというか、金持ちはこのくらいじゃ動じないのかな?
そして、入れ違うように現れる一人の小太りの男。
汗を黄金の布で拭きつつ先程までアメリスが座っていた場所にドカリと腰を降ろす。
なんだ? といぶかしむカインたちにそいつは朗らかに言った。
「初めまして。アメリスの父です。この度は娘の我がままに付き合って貰い恩に着るよ」
柔和な笑顔のおじさんにネッテとカインが少しほっとした顔をした。
「でも……少しでも傷物にでもしようものなら、わかるね」
ギロリと眼だけが殺意を帯びる。
カインもネッテも思わず首を縦に振るしかなかった。
ああ、前途多難だ。
おじさんは言いたい事を言い終えたらしく部屋から出て行く。
そしてやって来るアメリス。
その姿はドレスではなかったが、バトルドレスという部類の衣装だった。
あまり防御力はなく、見栄えが可愛らしい防具である。
うん。闘いは期待できそうにない。
武器は? 武器はないのかい?
アメリス曰く、武器? そんな物騒なモノ必要ありませんわ。守っていただけるのでしょう?
うん。難易度が上がりました。
カインたちが苦労する姿が今スグに思い浮かぶ。
頑張れカイン。負けるなカイン。僕は君を応援しているよ。当然、手伝いはしないけどね!
最悪アルセたち魔物組だけでも助けるさ。
アメリス=フィラデルフィラル
クラス:フィラデルフィラル伯爵令嬢
・見るからに金持ちそうな格好をした、金髪の女の子。
煌びやかなドレスがよく映える少女で高飛車な顔立ち。
にっちゃう・つう゛ぁいをペットにしている。




