特別編・それが花粉症だということを誰も知らない
ふと思い付いたので書いてみたある日の日常です。
「うぅ……」
朝起きると、カインが涙目になっていた。
「どうしたのカイン?」
「どうしたじゃねぇよ。アレだ、アルセイデスの恋だ」
アルセイデスの恋!!? アルセが恋をしたのか! 誰に!?
お父さんは許しませんよ!?
「ああ~、もうそんな季節か。カインいっつもよね」
「ああ。この時期はいっつもな。鼻が詰まって眼がしぱしぱするから嫌なんだ。剣持っても真っ直ぐ振れなかったりくしゃみで相手の攻撃躱せなかったりするし」
ずるっと鼻を啜るカイン。ああ。成る程。アルセイデスの恋が何かわかったよ。
花粉症だね。スギ花粉とかブタクサとかの花粉を吸い込むことでなるアレルギー症だよ。
こっちの世界じゃアルセイデスの恋というのか。
「アレだろ? これ、アルセイデスが恋をする時期に大発生するんだろ。この時期は冒険にならねぇな」
「あー、これ、アルセのせいだったんですか」
同じく涙目に鼻水たらすリエラが起きてきた。
この世界にはティッシュペーパーが無いから大変だよね。どうするんだろ。
「とりあえず顔洗ってきたら? 鼻水でてるわよ」
「何度洗ってもこうなるんですよォ。アルセェ、恨むわよぉ」
と、笑顔満面のアルセに睨みを利かせるリエラ。
その顔が、唖然とした顔に変化していた。
「あ、あのネッテさん……あれって、アルセイデスの恋ですよね?」
ん? あああっ!? アルセさん鼻水! 鼻水でてますよっ!
「アルセイデスの恋なのにアルセイデスにもかかるのね……」
「くっそ、状態異常回復魔法使ってもすぐ元通りになるから嫌いだっ。つーかアルセがかかるならアルセイデスの恋じゃねぇだろっ。なんなんだよこれは!」
花粉症です。
アルセイデスってよく考えたら花粉ださないよね。とんだ風評被害だ。
アルセの保護者として断固拒否させていただきます。
「おい、お前たち大変だ。オークが死に掛けているぞ!!」
クーフが叫ぶ。
驚き集まる皆。
バズ・オークは荒い息で鼻水塗れになっていた。
げほごほぶひあっとうるさいことこの上ない。
オーク族にも花粉症あるんだね。
「これでは仕事は無理だな。今日は休日にすべきだろう」
「それがいいわね。クーフ、あなたは大丈夫そうだしちょっと買い物付き合って」
「よかろう」
と、ネッテとクーフが出て行く。
「仕方ねェ、アルセイデスの恋組は教会に行くぞ。多分時間待ちになるだろうけど行かないよりはマシだ」
「そうですね。とくにバズ・オークさんは優先的に見て貰いましょう」
「アルセがいりゃなんとか優先してくれるだろ」
せこいよカイン。
と、いうわけで、僕たちは教会に状態異常回復魔法を掛けて貰いに来た。
が、普段は長閑な教会も、本日ばかりは満員御礼。
物凄い列が連なっている。
「おいおい、マジかよ」
最後尾は教会を一周回って向いの建物の入り口前だ。
長蛇の列すぎます。コレ皆花粉症なんだぜ?
どうやら鼻をかむとかいう行為自体が発展してないようで、垂れ流すに任せる皆様。教会の一角が大変なことになってます。
おっさんも綺麗な女の人もこの時ばかりは皆等しくグシャグシャの顔になっている。
あまりにも無残な光景だ。
アルセイデスの恋、恐るべし。
ひあっ、これ誰の鼻水!? 地面に大量の鼻水様が! 足の踏み場ないんじゃないか!?
地面に普通に垂れ流れてるんですけど? ちょっとおっさん、かぁっぺ。とか普通に目の前でやらないで。そこの女の子も真似しないでっ!?
ひゃああ!? あの少年手で拭きまくってる!? 袖が大変なことに。
教会前は阿鼻叫喚の地獄絵図でした。
そんな教会前で数時間。アルセは絶えず笑顔で鼻水を垂らしていらっしゃいます。
ほら、ふんしちゃえふんって。
カインがずびずば言ってるのがちょっとしてやったりだ。へ、その顔でイケメンたぁ笑わせるぜ!
リエラは……必死に顔を見せないようにしてる。やっぱり年頃の女の子はこの姿を他人に見せたくないらしい。
まぁ隣のバズ・オークが注目集めてるから無駄な努力だが。
一番うるさいよバズ・オーク。というか、バズ・オークのこれ、花粉症じゃなくないか?
そして数時間後、リエラとカインは爽快、アルセも笑顔、バズ・オークはやっぱり風邪でした。
まぁ、少ししたら元に戻るらしいけど、神父さんが鼻垂れアルセ見て鼻血吹きだしてリフレッシュの魔弾を大サービスしてくれたのでしばらくは魔弾打ち込みで何とかするらしい。
だが、彼らは気付いていなかった。
病魔は刻一刻と彼らを蝕んでいたという事を。
翌日、見事バズ・オークの風邪をうつされたカインとリエラが居たのだが、それはまぁ御愁傷様としか言いようがない。
当のバズ・オークは風邪が治って気分爽快みたいだけどね。
リフレッシュの魔法は症状が出てからじゃないと効かないそうですw




