その猿の強化を彼らは知りたくなかった
「ここまでの戦績、3勝3敗か。なんかもっと大差付くと思ったんだけどなぁ」
「まだまだ分からんさ。勝負など時の運さ。運命の女神に微笑まれた方が勝つ」
アメリスがふっと笑いながらワイングラスを傾ける。
いや、どっから持って来たのアメリス。それといつ着たのバスローブっぽい服。
ブルジョワ派ハードボイルドってどうなの。意味不明過ぎるよ、完全に存在がバグってるよ!?
「それじゃぁ、次は……ミーザルがでるのか」
リエラが確認のために皆を見回し、うわぁと嫌そうな顔をする。
ミーザル嫌われてるなぁ。というかウザがられてるだけだけど。
本人も気にしてないというか、自分を見つめる目があるだけ増長してるけど。
対戦相手はクァンティ。
一応侯爵令嬢らしいんだけど、口が悪くていつも顰め面。
だけど本当は心根の優しい繊細な少女なのだとか。
多分だけど顔が怖いってだけで不良のレッテル貼られた奴が捨て猫にミルクやってるみたいな性格なんだね。よくわかんないけど。
彼女は葛餅とパーティーを組んでから随分とパーティーに打ち解けているようで。他の二人を毒舌吐きながら助けているので、二人からは姉御とか呼ばれる時があるらしい。
本人は凄く嫌だそうなのだけど、カルアとラーダからすれば助けてほしい時に助けてくれる頼りがいのあるお姉さんだから。と呼ぶのをやめようとしないそうです。
うん、どうでもいい情報でした、と。
まぁそんなことは本当にどうでもいいので実況実況。
えーっと、ああ、ミーザルの独占場だ。
奴はいつものように俺俺、お前の対戦相手俺。どんなに攻撃しようと避けるぜ俺。鞭がしなろうが魔法が飛び交おうが全て避けちまうぜ俺。あまりに楽いんでお前に肉薄まで出来ちまったぜ俺。
おーれーが、お前を翻弄しているゼッ!
自分を指しながらクァンティの周囲をウロチョロウロチョロとすばしっこく走りまわりながら自己主張。必死に攻撃するクァンティだが、相手に翻弄されるばかりで攻撃が当らない。
あの猿、自己主張しまくるだけあって回避率は高いんだよね。
でもさ、攻撃しないといつかは当るし勝てないよね?
「おーっ!」
「うきぃ!?」
アルセも御立腹です。
なぜ怒ってるのか分からないけど……ああ、もうちょい真面目にしろってことかな?
ついでにポシェットを探ってミーザルに三又銛を投げ渡す。アレってサハギンたちの武器じゃんか。僕はあいつらのドロップは手に入れてないはず……倒したのも海に投げ入れたし……あ、そうか。左は銀サハギン倒した時のドロップアイテムか。
しかしミーザルは華麗に避けた。
おぉいっ!? あにぃ? 手は自己主張のために塞がってるから武器持てない?
俺の両手は俺を主張するためにあるんだぜ、つまり俺ハンド俺を指すための武器!
知るかそんなの! 見ろ、アルセもお怒り気味だぞ。折角仲間として武器まであげようとしたのにっ。みたいなぷんすかーって顔してるぞ。
再びポシェットを探ったアルセは、別の武器を思い切り投げる。
丁度クァンティの攻撃を華麗に避けたミーザルの顔面に足入れる場所が当った。
ぶほっと、アホみたいな声を吐いていたミーザル。良かったなミーザル、靴底側だったら死んでたよ君。
アルセが取り出したのはスパイクシューズ。
御せん漁船倒した時に同士討ちしていたマリナーマリナから入手した武器だ
なるほど、これなら両手は塞がらない。
「うきゃ!」
俺に相応しい武器来たぜ! 見な、俺靴履いちまったぜ! 俺が履いたぜスパイクシューズ! 俺がさらに魅力的になったんじゃね? 俺、今輝いてるぜ!
みたいにさらに調子に乗ったミーザルがクァンティの攻撃を掻い潜り蹴りを放つ。
咄嗟にガードしようとしたクァンティの腕に尻尾を絡ませ武器の柄を蹴り上げた。
「なっ!?」
驚くクァンティの手から強制的に武器を蹴り放し、体当たりで体勢を崩して倒れたクァンティの顔面に靴底を向ける。
武器を喉元に向けて勝敗を決すように、顔をふんづける手前で寸止めしていた。
そしてアルセに振り向き、親指で自分を指差す。すっげームカつくドヤ顔です。
見てたかい姫、俺圧倒。俺最強、俺攻撃手段を身につけちまったZe!
アルセは白けた目でおざなりの拍手をしていた。
うぅ、大人になったねアルセ。なんか、感動した。
しかし、これでミーザルに攻撃手段が出来ちゃったわけだけど、あいつ使うかなぁ。
ただただ自己主張するだけして敗北してる未来しか見えないぞ。
そしてなんで攻撃しないのっ。とかアルセに怒られてドロップキックされるんだろうなぁ。
その横でロリコーン侯爵が血涙流してなぜ私にはしてくださらないのかっ。とか泣き叫んでいるんだろう。容易に想像できてしまうのがなんとも……
でも、今回はお披露目なのでちゃんとスパイクシューズを活用したミーザルの勝利です。
って、アルセ、男性陣勝たせちゃダメじゃん!?




