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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第三話 その第三の第三勢力を彼らは知りたくない
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その塗れた少女の勝敗を彼らは知りたくなかった

 次の試合はカルア君対ラーダさん。双方葛餅の取り巻きだ。

 女の子っぽい中性的な容姿のカルア君が手にしているのは杖だ。

 対するラーダ、髭の生えた少女は自分より背の高い鎚を携え砂地に突き刺している。


「では、始め!」


 ミルクティの声と共に武器を持ち上げるラーダ。

 重そうな鎚をぶぅんと振りあげ、相手を押し潰さんとばかりに思い切り振り被る。


「どぉっせぇい!」


 小さな体からは予想もつかない凶悪な一撃。

 砂地に打ち付けられた鎚により砂が飛び散る。

 その砂に隠れ、ラーダが身を隠して動いた。


「サンドシールド。砂塵烈風デザートハリケーン!」


 対するカルアは土魔法が使えるのかな? 砂塵を巻き上げ周囲に飛ばすという荒技で自分をガード、周囲に飛び散る砂埃が僕らに襲いかかる。

 うわっぷ。口に入った。うえぇ……


「甘いですよラーダさん。何度皆で闘い合ったと思うんですか! 師匠の手前負ける訳にはいきません!」


「むぅ、また新しい魔法作りだしてぇ……ええい、ストライクブッチャー!」


 砂塵を駆け抜けラーダが迫る。

 目を閉じながら真っ直ぐに走りカルアに肉薄、掬い上げる一撃を繰り出すが、カルアの周囲に砂の膜が出来ていた。これに止められラーダの動きが完全に止まる。


「あ、まず……」


「スタンスラッシュ!」


 すかさずナイフが煌めく。

 サバイバルナイフ張りに持ち手を凝らしたジャックナイフだ。

 なんとか躱そうとしたラーダだが、残念逃げ切れなかった。


 浅く切り傷を付けられ身を引いたラーダの動きがガクンと止まる。

 そのまま尻餅を付いて体勢が崩れ、起き上がろうとした彼女の喉元に杖が突きつけられる。

 うぐっと呻くが既に勝負は付いたようだ。


「今回は僕の勝ちだねラーダ」


「うー、くやしい。新技無ければ勝ってたのにぃ」


 地団太踏んで悔しがるラーダの手を取って起こすカルア。うん、実に清々しい試合でした。

 他の試合が見るに堪えない状況だったので安心して見れたよ。


 次に闘うのはレーニャ。多分今の状況を理解できずにただただ前に出されただけなようで、やる気ゼロなレーニャはカレールーバーを食べながらごろ寝している。

 対するはローア。葛餅に告白したけど葛餅が人間じゃなかった事を知り告白を取り下げたらしい人だ。サリッサさんが付き人で、彼女が貴族か何かだってところらしい。

 そのあたり僕は全く知らないんだよね。まぁ、今後もそこまで知る気は無いけど。


「ちょっと、なんで私が闘うのよサリッサ。普通サリッサの方じゃないの!?」


「ですが、ローアお嬢様、最近殆ど戦場に出ていないではないですか。クァンティさんやカルアさん、ラーダさんともくーちゃんの授業受けてないし、ねぇーくーちゃん」


 サリッサさんは葛餅の身体をぷにぷにと突きながら幸せそうに告げている。

 あの人は葛餅にどんな感情で接してるの?

 愛玩精神? 愛人精神? 母親精神? 葛餅に何を求めているのかよくわかりません。


「いいわ! 勝ってみせるわよ! あのカレー猫とかいうふざけた存在にっ、ていうかそこ! 寝るな!」


 くーくーと寝息を立て始めたレーニャ。

 ふざけんなとばかりにレーニャに駆け寄り蹴り上げるが、レーニャの身体をぐちゃんとくぐり抜け、足がカレー塗れになるだけで効果がでない。


「な、なによこれぇ!? この駄猫がぁ!」


 逆の足で踏みつける。ぐちょんと足がカレーに塗れた。


「せめて起きろっ、おーきーろーっ!」


 両手で起こそうと掴みかかるがぐちょんと両手がカレー塗れになるだけでレーニャを掴むことが出来ない。

 勢い付け過ぎだよローアちゃん。

 未だに寝ているレーニャは尻尾を動かしぺしぺしと砂地を叩いている。


「舐めるなぁっ! ふぇっ?」


 踏み潰してくれる。っと思い切り足を振りあげた瞬間だった。

 ごろんと仰向けになったレーニャがふにゃーっとあくびを漏らす。その刹那、開かれた口から赤い二つの光が見えた。

 なに? と視線を向けたローアの顔にレーニャの口から何かが飛び出す。


「チューッ!」


「い、嫌あぁぁぁぁぁ鼠ぃぃぃぃっ!?」


 飛びかかってきたネズミの魔物から逃げようと仰け反り、旋回するようにネズミを避けながら倒れ込むローア。その倒れた先には腹を向けて無防備に眠るレーニャ。

 何が起こるかなど誰の目にも明らかだった。


 ぐちゃっ


 少女は カレーに 塗れた!


 全身カレー塗れになったローアは腰を抜かしたらしい、レーニャの中でもがき苦しみ……って、あれカレーで溺れてないか?

 誰も気付いてなかったので慌てて近寄りローアを救出。海に投げ込んでやった。


「ぷはっ。ちょっと、誰よ今投げたの!?」


 なんとか生還したらしいローアが叫ぶが、皆首を捻るだけだ。

 傍から見たら息が出来なくなったローアが苦し紛れに海に飛び込んだようにしか見えなかったみたいだし。


「とりあえず、これはレーニャの勝利になるのかしら」


「まさか寝てるだけで相手が自滅するなんて」


「待ちなさいよ! 私はまだ負けてないっ、っつかそもそもそいつ寝てる時点で不戦敗じゃないの!?」


「ふん。起きる価値もない雑魚敵がほざくな」


「なんですってこのクソ魔族!」


 デヌの言葉でキレたローアが一悶着起こしかけたが、実力が違い過ぎたので直ぐに鎮圧されるのだった。

 ところで、レーニャの口から今鼠出て来なかった?

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