その海月娘の秘密を僕らしか知らない
「ふはぁ。もぅ、本当に心配したわよ。大丈夫だった? 怪我は無かった透明人間さん?」
女子部屋に戻る直前、最後まで残ったパルティが僕の外傷について聞いて来る。
問題は無かったのでパルティの首を使って被りを振るう。
自分が返答に使われる感覚に困った顔のパルティは、それでも無事だと分かって安堵の息を吐く。
「それじゃ、とりあえずリフィとの会話、やってみるね」
お任せします。
ここからはパルティに全てお任せだ。
丸く収まればいいんだけど、アルセパーティーだからなぁ、僕の考えたシナリオの斜め上辺りに全力で走り去りそうな気もしないでもない。
とりあえず、やるだけやって楽しもう。
「一緒に帰って来たんだけどいちおう、お帰りパルティ」
パルティが部屋に戻ると、丁度リフィと話していたリエラが僕たちに気付いた。
パルティの後ろからルクルが入ってきたことでパルティと一緒に僕が入ってきたことに気付く。
なぜか安堵の息を吐くリエラ。また心配させちゃってたのかな?
「無事みたいね。よかったぁ」
「ええ。皆無事よ。それでね、リフィ、ちょっと報告があるんだけど」
「私に、ですか?」
「ええ。あと、葛餅と、ケトル、モスリーン、プリカさんとミルクティさんもかな。ちょっと一緒に来てください」
そう言って、部屋を出るパルティ。続いてリフィが後を追っていく。僕はアルセの肩を叩いてこちらに視線を向けさせると、手を掴んで引っ張ってみた。
丁度にっちゃんとにらめっこしていたのだけど、なぁに、私も行くの? と不思議そうな顔をしながら付いて来る。
ごめんねアルセ。どうせだからリフィに海水の事報告しちゃおうと思うんだよ。どうするかは彼女次第になるけど。あ、リエラはお留守番で。付いて来そうになったリエラは自分の名前が呼ばれなかったので不思議そうに首を捻りながらパルティを見送っていた。
名前を呼ばれたメンバーも既に部屋から出ているらしい。
僕とアルセとルクルが部屋を出て、所定の隠し部屋へと向かうと、既にメンバーが揃っていた。
わざわざこんな狭い天井裏にやってきたことに皆から不満が漏れている。
「えーっと、とりあえず、現状を説明します。質問とかは後で纏めて聞きますので、とりあえず話を聞いてください」
そう言って、パルティは彼女たちを呼んだ理由を話し始めた。
「まず、リフィさんが海からやってきた供物姫? だってことはもう皆さん知ってると思います。それでですね、私は海から海岸にリフィさんを探索に来ていた半魚人と会話しました」
「半魚人と、ですか? 私知り合いに半魚人はいませんけど?」
「え? リヴァイアサン特攻騎士団の方だそうです。母君ももうヒトデとウニどちらが美味いかなどで口喧嘩はしないから帰って来いと」
「へ? あの、人違いじゃないですか? 私そんなつまんない理由で母様と喧嘩したりしません! あとリヴィアサンです。リヴァイアサンではないです。私の母様」
「あ、あれぇ?」
どうなってんの、話し違うよ。みたいにこちらを向くパルティ。大丈夫、なんとなく予想は付いていたんだ。
僕はアルセを操って魔物図鑑を開き、ヲルディーナの欄を見せる。
途端、リフィの顔が強張った。
「アルセが示してるのは誰かしら? リフィさんは知ってるみたいね?」
ミルクティがリフィの顔色を窺いながら聞いて来る。
リフィは溜息一つ吐いて頷いた。
「はい。昔から私をイジメていたとある魔王の一人娘です。その、彼女の所属する魔王とは母様が犬猿の仲といいますか、海の中であれば母様も遠慮なく倒してたでしょうけど、彼らの本拠地はここから離れた小島にありまして、陸の上なので母様も手を出せずじまいで、私が誘拐されないようこちらの地上に逃がして頂いたのです。確かに、ちょっぴり喧嘩はしましたけど、理由が違いますし魚人の騎士団などいません」
「じゃあ、あの海岸の魚人達は……」
「おそらくヲルディーナさんの眷族じゃないかと思います。ここからも見える半魚島を縄張りにしているサハギンキングの者たちでしょう。私の、といいますか母の眷族はサメの方ですね。皆心配して毎年海岸に来てくれているようですけど、陸に上がることはできませんから」
「サメ? あ、もしかしてあの時の!?」
あーっとパルティが視線を泳がせる。
ケトルたちも皆だ。僕の知らないところで何かあったのかな?
「毎年毎年来てくれるのは嬉しいのですが、どうもそのせいで母様の権力が年々弱体化していると聞きます。浅瀬に行くと行動不能になりやすいのに」
「あ、はは、アレがリフィの眷族だったんだ」
「正確には母様の、ですね。私は見ての通り海月型ですので、さすがにサメを眷族には置けません。スロームノワールでも眷族かしようかなぁ」
そんなことを告げるリフィに聞かれないように、パルティがミルクティに耳打ちする。
「どうするんですかミルクティさん、あのサメ、チグサさんが倒しちゃいましたよ?」
「お、美味しく頂いたなんて、言えないよ絶対」
リヴィアサン勢の弱体化に拍車を掛けているのは人間だったようです。




