その供物系少女の出現を男たちは知らない
「あ、あの、失礼します」
前日、伝えていたおかげか、リエラ達が大部屋に戻って一息ついていると、リフィが恐る恐るやってきた。
周囲に見られないようにここに来るのは結構冒険だったらしい。リエラとパルティに迎えられて部屋に入ると同時にふはぁと息を吐いて安堵していた。
「ねぇリエラさん、知り合いみたいだけど彼女は?」
「あ、そうだった。ミルクティさんたちは初めましてですよね。こちら魚人族のリフィさん。海の中の覇権争いに巻き込まれて地上に匿って貰ってるそうよ」
「あの、リフィといいます。初めまして」
リエラの紹介に合わせてふかぶかと礼をするリフィ。もしかして緊張してる?
まぁ、そりゃそうか。見知らぬニンゲン……魔物と混合だけどが大量にいるんだから緊張はするよね。
僕は周囲を見回してみる。
リエラとパルティはリフィの両隣りに。隅っこの方ではアルセとネフティアが、にっちゃんの頭をのじゃのじゃ叩くのじゃ姫を必死に止めようとしている。
いや、怒らないけどね。と呆れた顔のにっちゃんが大人過ぎて素敵です。
のじゃ姫、それやるのはにっくんだけにしてあげて、にっちゃんだと弾丸特攻されないか周囲が戦々恐々だよ。あの一撃見ているせいかアルセまで止めに入ってるし。
むしろのじゃ姫の蛮勇さを褒め称えたくなるよ。
ハロイア、マクレイナ、エスティール、モスリーン、ローア、クライア、キキル、クァンティ、ラーダは女子トークを一旦停止してリフィを見ていた。その表情に忌避感はなく、むしろ好意的な感情が読み取れる。良くも悪くも魔物少女たちと一緒に寝起きしてるせいで人外娘に耐性があるんだろう。
見た瞬間攻撃したり噛みついたりするのがいないのはちょっと嬉しいな。
サリッサは葛餅を抱きしめながらリフィには気にせずラブラブしてる。というか、葛餅、お前なぜこちらにいる? レーニャですら男性の方に居るんだぞ!?
それと隅の方で片膝付いてハードボイルドしてるアメリスに自己主張してる猿、お前も男部屋行ってこいよ! なんでちゃっかり女子部屋に居着いてんだよっ! そう言えば昨日も見たぞ!
チグサとケトル、ミルクティはちゃんとリフィに視線を向けて聞いてくれる気配を見せてくれてるが、プリカやパイラはスロームノワールの死骸をもっちゃもっちゃしながらだけどちゃんと聞いてくれてる。なんとも不思議な空間だ。すげぇや女子部屋。
あ、ちなみにルクルさんはやっぱり僕の後ろが定位置みたいです。
これからはもう目は離さないからね! とばかりにじぃっと見つめられて居心地悪いです。
「それで、その子をこれからどうするつもりなの? このパーティーに紹介したってことは……」
「はい、折角ですし冒険者学校に連れて帰ろうかなって。ダメですかね?」
「そりゃ本人がいいなら問題はないだろうけど。そこのとこどうなの? 遠いところに行くのは問題無いの?」
問われたリフィは困った顔をしている。
多分イマイチ遠くに行くというイメージが付かないのだろう。
「えっと、私、こんな体なので海水を一日一回は浴びないといけないです。なので海から離れ過ぎるのはちょっと……今も店の方に汲んで来て貰った海水を使わせて貰ってますし」
成る程、さすが海生生物。その辺りは地上では生き辛そうです。
リエラ達もあーっと納得顔で困惑しています。
折角安全な陸地の奥へ連れていって上げようと思ったのだけど、本人には有難迷惑になりそう。
かといって海中の問題に首突っ込むのも難しい話なので、僕らがリフィに出来ることはあまりなさそうな気がします。
それでも折角知り合えたのだからとリエラとパルティは何かしてあげたいようです。
気持ちは理解できているリフィは申し訳なさそうな顔してる。
やっぱり大きなお世話になりそうな気がするなぁ。
「あら、海水が無ければ家に海水持ってくればいいじゃない」
アメリスさんのブルジョワ思考のせいでさらに場が混乱した。
リエラ待って、あ、それならいいや。みたいな顔で手を打たないで。パルティも、電球点いた! みたいなリアクションいらないから。
暴走し始めようとする皆を止める術がない。ちょっと誰か、この人たちクールダウンさせて、この際ミーザルでも構わないから、ってミーザルの野郎にっちゃん挑発するんじゃないよ!
なんでのじゃ姫に叩かれてるにっちゃんの前でうざったい自己主張始めてんだよ! お前死ぬ気か! にっちゃんといえどもお前に耐えきる広い心は持ってないはずだぞ!
「おー」
ん? なにアルセ? 裾掴まないで。
あれ? どっか行きたいの?
袖を引っ張ってこっちこっちと動くアルセに誘われるまま、僕は部屋から出ることにした。
女子部屋の件が収拾付くかどうかは僕分からないけど、僕らはちょっと席外します。リエラ、パルティ、間違っても暴走した思考のまま決定だけはしないでね。
あ、パルティが気付いた。
僕はアルセに連れられて、お共にルクルとパルティを連れて外へと向かうのだった。
にっちゃんが耐えきれたのか、それは僕らは誰も知らない。




