その神父の過去を誰も知らない
「これはこれは、本日も天使の微笑のような朗らかな微笑みを私めのような矮小な存在に零していただき感謝の意が絶えません」
教会に入ると共に出迎えて来た神父さんはアルセを見たと同時に無音歩行で歩み寄り目の前で深々と礼をする。
意味の分かっていないアルセは首を捻っていたが、ネッテもリエラも呆れ顔である。
この度、丁度男女のチームに分かれた形になった。
カインたち男チームは武器屋に居残り解体作業。
その間に次の冒険のための下準備を女性陣が行う。
え? 僕? こっちでも問題はないよ。姿見えないし。というか、何が悲しくて死体解体なんてしなきゃならないの。それなら女子会参加取るでしょ?
「ああん? なんだまたテメェらかよ。あんましペド神父に餌与えんなよな。最近鼻血出し過ぎて貧血気味なんだからよ。こいつが死んじまったらあたし一人で切り盛りせにゃならねぇだろが」
シスターマルメラが別の冒険者と共に現れた。
どうやら回復施術を行っていたようだ。
カイン以外も行ってるんだなぁ。初めて見たよ。
「シスターマルメラ。ご安心ください。神の思し召しあるまで私は死ぬつもりはありません。むろん。アルセさんの胸の中で息絶える程の至高の喜びを感じながらの昇天であるならば、今すぐにでも死ねるつもりでありますが、それ以外で命尽きる気はありませんとも」
「ウゼェ。やっぱりさっさとくたばりやがれクソ神父。幼女好きとか救えねぇっつの」
「何をバカな。処女性を持つ幼女たちはまさに神の愛そのもの。穢れ無き純朴にして純白。純粋にして無邪気、その神秘性はまさに神に愛されし者たちと呼んで大差はありません。ああ。神よ。あなたが創造したこの世界の、なんと美しきことか。神よ感謝します。私の様な者にこの出会いと幸福を与えられたことを!!」
うん、まぁ……ロリータ狂信者だね。
「あの~シスターマルメラさん」
「あん? なんだクソビッチ」
「だ、だから私は……」
「男に色目使うような顔した美形共は皆ビッチで充分だろが。ぶっ殺すぞクラァ」
「言ってること無茶苦茶だよ……」
リエラは溜息を吐きながらネッテに助けを求める。
しかしネッテは我関せずと溜息を吐いて首を横に振った。
「神父さんって、なんで神父になれたんですか?」
「あ? あ~。そう言われてみりゃあ確かに。こんなロリコンの変態神父をよく教会が神父にしたもんだよな。オイクソ神父。お前一体昔何してやがった?」
「な、何とはナニですかな。確かに全くの白とは言えませんが至極まっとうな道を歩み神の加護をえておりますよ。そもそも罪を犯して居れば神父にはなれませんし、童貞を失っていれば神の加護は消えてしまいます」
「え!? マジか!? その年で童貞とか、引くわぁ……」
「ちょ、シスターマルメラ!? あなたに引かれるとか普通にショックがデカいのですが!?」
「ああん!? なんであたしが引くとそんなショックなんだよクソ神父……あんたまさかあたしのこと……」
あら? ちょっとピンクな展開ですか?
あのシスターマルメラが顔を若干赤くしている。
実はシスターさんもまんざらでもないのだろうか?
「聖職者は全員童貞と処女。常識でしょうが。それにあなたのようにガサツで男ッ気の一つも無いような方に引かれるとか心外すぎます」
……ああ、やっちまいやがった。
無神経男の典型パターン入りました。
料理長、お約束一つ入りましたー。
「ブッ殺!!」
シスターマルメラの攻撃、十字架を片手で持って先端部で喉輪突き。
「ぐほぅ!?」
「綺麗に決まったァっ!!」
あ、思わず叫んじゃった。
まぁ誰も聞こえてないからいいんだけどさ。
突然喋り出す透明人間とか、軽く引くよ。
「絶対ェいい男見付けて処女散らしてやる。そんときゃこんなクソの吹き溜まりみてぇな教会さっさと辞めてやんよ!!」
失礼するわっ。と言った態度で肩を怒らせ去って行くシスターマルメラ。
教会の奥へと向かって行ったのでこれからまた別の作業でもするのだろう。
「いやぁ、お見苦しいところをお見せしました。シスターマルメラはああ見えて結構純情でね。からかうと可愛い部分もあるんですよ? 幼女は愛す者。少女は愛でる者ですよ」
「その反撃が大変な威力になってるみたいだけどね。というか、あんた、もしかしてマルメラさんと恋仲になりたいとか思ってる?」
「? 何を異なことを。彼女は私から見ればまだまだよちよち歩きの赤ん坊なのですよ。たかだか20年程の年でしょう? 幼女ならともかくあの体型になってしまうと恋愛対象外ですしね。ああ、でもロリババはバッチコイですよ。可愛らしいロリババ様がいらっしゃればご紹介してください。1万年以上歳食った方でも愛する自信があります。その時は我が神への愛を全て捧げましょう。ああいえ、アルセさんへの愛はいつでも変わりありませんよ」
「ん? いや、20年ってアンタから見ても結構な年よね?」
「そうでしょうか? 20年程度では大人にすら届いていませんよ」
「いや20年って……神父さん、アンタ何者?」
ネッテの問いに、神父さんは指を口元に当ててしー。っと言った。
言うつもりはない。それはつまり、ただの神父ではないのだと案に告げているに近い。
……うん。多分この人、人外さんだ。




