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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二話 その街の影の守り手を彼らは知らない
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そのレックス君の冒険が始まったのを僕らしか知らない

「はぁっ!」


 気合い一閃。薙ぎ払いが決まって魚人二体を撃破する。

 どうやら先程の魚人が隊長格だったらしく、こいつらは統制の取れない烏合の群れだったようだ。

 そのため、圧倒的戦力差でもなんとかレックス君が善戦できている。


 ただし、あくまでできている。だ。

 13対1という圧倒的戦力差が11対1に変わっただけで戦力の開きに関しては殆ど変わらないのである。囲まれてしまえば終わりなのでレックス君は必死に周囲を気にしながら一人一人確実にダメージを与えて行く。


「ハンヌハシムニダ、コングーガンチャンド!」


「ニンゲン語しゃべれ!」


 叫びながらレックスの十字斬が魚人を撃破。

 しかし技後硬直で十人に囲まれる。

 絶望的な顔になるレックス。

 そのレックスを魚人の隙間から引っ張りしゃがませる。


 突然体勢を崩されたレックスが驚く。その隙に、僕は名刀桜吹雪を煌めかす。

 無数の首が宙を舞った。丁度レックスを囲むように居た魚人10体分の身体が背後に倒れ、花開くように意味の理解できていないレックスくんが怖々立ち上がった。


「え? どうなったの? マクシー本当に居るの?」


 だからマクシーって誰だよ。


「ごめんマクシー。君の御蔭で助かった」


 だから、違うから、僕マクシーじゃないから。人違い? 透明人間違いだから!


「実はランドリックを着替えさせるためにこっちに来たんだ。そしたらそこの洞窟から変な声が聞こえて、何だろうってランドリックが近づいたら銛で突かれて……」


 聞いてもないのにいきなり何がどうなったかを教えてくれたレックス君。それはいいけど僕マクシーじゃないよ?


「マクシー、悪いんだけどもう少しだけ付き合ってほしい。こんな危険な生物が街の近くにいるのは正直危険だと思うんだ。洞窟に、向おう」


 え? 何言ってんのレックス君。ここは皆が来るの待って皆で洞窟探査なりここ封鎖するなりするところだよね?

 あ、ちょっと、何先走ってんの!?


 まるで勇者補正が、死亡フラグが、乱立したかのように、レックスくんは導かれるみたいに祠へと向ってしまう。

 あの、この場合僕どうしたらいいの?

 さすがに見捨てるのはマズイよね。となると強制イベント発動?

 レックスの首掴んででも連れ戻した方がよかったかも。


 僕は怖々レックスの後を追う。

 ラ・ギの魔法を覚えていたおかげか、剣先の炎を纏わせたレックスと共に洞窟を歩いて行くと、どうやらあの魚人達がしきりに出入りしていたらしい。足跡がかなり付いている。


「ここは一体なんなんだろうね?」


 怖さを紛らわせるようにレックス君が尋ねて来る。

 怖いなら一人で来なきゃいいのに。何で君は一人でここに来たんだね。

 アメリスが居れば確実に、阿呆が。みたいな台詞言ってるところだぞ。


「魚人達が暮らしてるだけだったらいいんだけどなぁ。あ、でもその場合僕は侵略者になっちゃうのかな?」


 確かに、門番であった魚人達を問答無用に14人も虐殺して内部侵入して来た不審人物だね。

 何ソレ、B級ホラーの理解不能の怪人と大差ない気がして来たぞ。

 平和に暮らしていた魚人達のもとへ突如外から現れるニンゲンという魔物。

 うわ、向こうからしたらレックスが危険生物にしか見えない。


「っ!? この先に何かあるな」


 通路が終わっていた。

 かがり火だろうか? 淡い光が漏れているのを見てレックスは魔法を消した。

 暗闇に目を慣らしながら息を顰める。

 会話は聞こえない。でも、誰かがいる気配は確かにする。


 剣をしっかと握り直し、レックスはゆっくりと曲がり角まで進み、光の漏れる通路を覗く。

 息を飲む音がイヤに響いた。

 しかし、直ぐにレックスは剣を鞘に納める。


「女の子がいる。多分、戦闘にはならないと思うんだ」


 多分僕に言ったんだろう。

 僕がいると分かってなかったら彼はただの痛い人にしか見えないんだけど、それでもいいのかな?

 まぁ、不安が紛れるからいいんだろうけどさ。


「っ!? 誰!」


 レックスが堂々と光の射す方に向うと、奥から女性の声が聞こえてきた。

 僕も少し様子を見ながらレックス君に攻撃が向ってないと判断して身を乗り出す。

 全面攻撃を放たれたらレックスと一緒に向った瞬間、僕諸共殺されかねないからね、透明人間は自分の危機をしっかりと確認してから動くのだよ。


「ニンゲン?」


「初めまして、貴女は?」


 そこにいたのは確かに女の子だった。

 西洋風のお人形のような顔立ちに綺麗なウェーブのかかった金髪。

 洋服は水色を基調としたワンピースみたいなドレス。腰元を青いリボンで結び、背中で蝶々結びをした彼女は、色白の肌を持つ両手を開いてレックスに向けた。


「ソレ以上来ないで! 来たら、貴方を殺します」


 拒絶され、レックスは思わず立ち止まる。が、何を思ったかそのまま進もうと足を動かし、慌てて僕が押しとどめた。

 足を一歩踏み出そうとした瞬間に引っ張られるようにずっこけるレックスの図が完成したのは僕のせいじゃないはずだ。レックスよりも目の前でそんな姿を見てしまった少女の方が目をまん丸にして驚いていたのは彼には言わないでおこう。可哀想だし。

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