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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第二話 その街の影の守り手を彼らは知らない
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AE(アナザー・エピソード)その見えない誰かがいないことを彼女すらも知らない

「そーれ!」


 ぽーんと丸いボールが宙を舞った。

 リエラの腕から離れたそれが、パルティの前へと落ちて来る。

 二の腕を当ててぽーんとボールを飛ばすパルティ、マクレイナに向ったボールは両掌を使ったマクレイナによってエスティールへと引き継がれる。


 海用防具を売っていた【海の家】という名の雑貨店で売っていたビーチバレーボールというモノらしい。

 スロームノワールの皮で作られているらしく、水分を含むと膨らむ不思議なボールだ。

 滑りは取られているため、膨らんだスライムを触っているような肌触りらしい。


 【海の家】には変わった武器防具が多く、銛に関してもこの家が発祥だと言われている。

 いつからあるのかは誰も知らず、皆が口をそろえて祖父祖母の代から脈々続いていた。と言っている。

 店番をしている店員等はその土地土地の人材を雇っているのだが、元締めの社長はずっと変わっていないと言われている。

 そんなどうでもいい豆知識など知る由もなく、リエラたちは存分に海を満喫していた。


「行きますよキキルさん!」


「ひゃわっ!?」


 クライアの飛ばしたボールはキキルを飛び越える。

 慌てて叩こうと手を伸ばしたキキルはそのまま海に消えて行った。

 波間に落下したボールがぷかぷかと浮く中、ぷはっとキキルが海から顔をだす。


「しょっぱい」


 なぜか笑いが起こった。

 皆がなぜおかしいのかりかいできないながらも、とにかくおかしくて笑っている。

 キキルもも~っといいながらも直ぐに笑ってボールを拾う。


 楽しい楽しい海での遊び。

 ふと、リエラは何かを忘れている気がして砂浜を見た。

 アルセ達が砂を固めて何かを作っている。

 三人娘が肩車してトーテムポールと化して、砂の塔とも言える巨大な円筒形の何かを作成していた。


 無駄に可愛い。

 そしてそんなぐらつく三人をあわあわと見ているルグスとロリコーン侯爵。

 大の大人が慌てている様子はなぜか滑稽に映る。

 いや、彼らだけじゃない。いつの間にか冒険者の数人が円を描くように幼女たちを取り巻きハラハラと見守っている。


「ローアさん、ぱーす」


「ひゃう!?」


 キキルからローアへ。上空からきたボールが太陽に阻まれ目潰しされた彼女は顔面レシーブ。これをクアンティがフォローしてラーダに、そして男ながら唯一参戦しているカルアを経てモスリーンへと繋がる。


「それっ」


「ちょ、ばかっ!?」


 そしてモスリーンの剛腕から繰り出される一撃がマクレイナに襲いかかる。

 ぎりぎり顔をガードしたマクレイナの両腕に弾かれ、ボールがリエラのもとへと飛んできた。

 両手を頭上に掲げて掌で押し返す。

 無理な体勢で返したまではよかったが、そのまま後ろから海へと倒れ込んだ。


「ひゃっ、あれ?」


 しかし、水没する寸前、お尻に触れた何かが彼女を優しく受け止める。

 もしかして透明人間さん? こんなところにいたの?

 そう思ってお尻の下の何かを見たリエラは、固まった。


「へ? え? なにこれ?」


 股間の前に海から突き出る黒いヒレ。

 尻から感じるざらついた生物の背中の感触。

 彼女はサメとおぼしき何かに座りこんでいた。


 リエラが認識すると同時にそいつは暴れるように泳ぎ出す。

 当然リエラが抗えるわけがなかった。

 彼女が出来たのは、目の前にあるヒレを必死に掴む事だけだ。


「いやあぁぁぁぁ、何これぇぇぇぇぇぇ!?」


 ヒレを掴んだ瞬間、出発進行っ。とばかりに前進するサメらしき生物。

 驚く女性陣を駆け抜け、ルクルへと突撃する。

 とっさに真下から掬いあげるようなカレー投げ。水面からカレーが飛び出す瞬間、サメらしきモノの顔面にカレーが直撃した。


 突然のダメージに驚き目潰しされたそいつは水中を暴れ回り、飛び跳ねるようにザバァッと水面から出現。凶悪なその面が周囲に認識されたせいでパニックが起こった。

 そして飛び跳ねた後は海中へと落下。

 リエラも一緒に海中に消えた。


「な、なんだ今のはっ!?」

「サメ!? なんで? ちょっとデヌ、遊んでないでリエラ助けなきゃ!」

「俺がか!? ええい、行って来る!」


「ぎゃぁぁ!? 今ざりって変な感触来た!」

「おい、お前の足血が出てるぞ!?」

「やべぇ、殺人ザメじゃねェのかあれ! 全員海から上がれぇぇぇぇ――――!!」


 仲間も冒険者も右往左往しながら海から退避していく。

 入れ替わりに飛び込むデヌ。腹打ちを決めてぐほぉっともがき苦しみ海へと消えて行った。

 慌ててマクレイナとエスティールがデヌを救出する。


 入れ替わるようにチグサが海に飛び込み、クロールでリエラに向い泳ぎ出す。

 リエラは再び海面に姿を現すが、未だに謎の生物に乗ったまま、波間を行ったり来たり潜ったりと忙しない。


 そしてこの騒動が終わるまでの30分程、人知れず消えた透明な誰かの存在は、その存在を認識していた者たちの脳内からすらもすっかり忘れられるのだった。

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