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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第八部 第一話 そのストーカーをストーカーしていた少女を僕は知りたくなかった
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その涙の理由を彼女は知りたくなかった

「負け……た?」


 短刀を突きつけられ、ハロイアは呆然と目の前に佇むのじゃ姫を見つめる。

 信じられなかった。

 こんな幼い少女が相手なのだ。卑怯かもしれないが絶対に負ける訳がないと判断しての闘いだった。

 蓋を開ければパーティーも自分も惨敗である。

 認めたくなかった。でも、でも……自ら挑んで敗北してしまったのだ。その結果だけは、受け入れるしかなかった。


「ふぐ、うぇ……うわ――――んっ」


 ハロイアさんが突然泣き出した。

 なんかもうのじゃ姫の方がおろおろしてるほど唐突に泣きだしてしまい収拾付かない感じになっている。

 ぺたんと尻で座り込み泣いているハロイアの元にパーティーメンバーが慌てて駆け寄って行く。

 なんか、凄い悪い気がしてくるな。


 というか、そもそもこの闘いって何のためだっけ。

 ああ、あのロリコーン侯爵を巡った女の闘いだ。

 というか、そもそものじゃ姫ってロリコーン侯爵好きなの?


「うぐ、ひっく。わ、わたひ、侯爵様の事、うぅ、あき、あきらめ……」


 しゃくりあげるハロイア。言葉は途中で止まりソレ以上出て来ない。

 諦めるなど出来ないのだ。惚れたモノ負け。彼女は本気で侯爵に惚れたんだろう。

 諦めるなど言えないと、口から洩れる致命的な言葉を全身が拒絶するように押し留めていた。


 僕はアルセと二人決闘場に上がると、泣きじゃくる彼女とのじゃ姫のもとへ向う。

 僕らを見付けたのじゃ姫は彼女がなぜ泣いているのか理解できていないようで、助けてほしいのじゃ。とばかりにこちらに視線を向けて来る。


 アルセを使って魔物図鑑でロリコーン侯爵の欄を開き皆に見せた。

 涙目のハロイアは最初意味が分かっていなかったみたいだけど他のメンバーは何かを言おうとしていることを理解してくれた。


 次に、カインとネッテの欄をのじゃ姫に見せ、ロリコーン侯爵の欄とハロイア自身を指で指し示してみる。

 そこでようやく彼女が何を想いこんな決闘を行ったかを理解したのじゃ姫。

 自分、恋の邪魔しちゃったのか!? とあわあわし始めた。


 そう、ハロイアはのじゃ姫とロリコーン侯爵が好き同士だと思い、自分がロリコーン侯爵と付き合うためにこの決闘を行ったのだ。

 正直やり方間違ってるけど、彼女の思いは良く分かる。というか分かりやすい。


 ついでにロリコーン侯爵の欄とのじゃ姫にアルセの指を向け、カインとネッテの欄を差しながら首を捻ってみる。

 のじゃ姫がそれはないのじゃ! とばかりに首を横に振りまくった。


「のじゃ!」


 すまなかったハロイア殿。私は勝ってはいけなかったのじゃな。

 曲解したのじゃ姫はハロイアの両腕を取り謝る。

 しかし、言葉の通じていないハロイアはきょとんとした眼をしているだけだ。


 そんなハロイアから手を放したのじゃ姫は、おもむろに服に手を入れ、火打石、じゃない轟炎石だっけ、を取り出し左右に持った石をマッチを擦るみたいに擦り合わせ……

 ぼっと火が着いた。


 って、のじゃ姫さ――――――――ん!?

 おさらばなのじゃ。とばかりに自分に火を付けたのじゃ姫。皆呆然としてしまって何もできない。

 どうしようどうしようどうしよう!? 僕自身もこの状況に慌てふためいて頭が回らず右往左往してしまう。その間にも火がのじゃ姫全身に回り……ぱくんちょっ。


 焼身自殺を図ったのじゃ姫がアルセの頭に生えた花に喰われた。

 くわ……え? 喰った!? アルセが喰った!?

 何してんのアルセ!? のじゃ姫食い物じゃないよ! ぺって、ぺってしなさいっ。消化しちゃだめぇ。


 少しして、唾液塗れののじゃ姫がでろんと脱出してきた。

 どうやら火を消してくれていたらしい。

 密封状態だと火が消えるという状況を体内で作りだしたようだ。

 ビックリしたよアルセ。一歩間違えればアルセ自身も燃えてたかもだよ。というか、喉とか肺は大丈夫? 花の口内とは繋がってないの?


 もぅ、二人とも心配させないでよ。

 突然起こった自殺劇に付いていけてないハロイアたちは、吐き出されてなぜ生かしたのじゃ! とじたばたしているのじゃ姫を信じられない顔で見ていた。


「その勝負、私の見た感じだと勝利した後、何をするかを考えてなかったのではないかしら」


 気が付けば、蚊帳の外だったはずのアメリスが近くに来ていて、ハロイアを立たせる。


「アメリスさん?」


「のじゃ姫が貴女と侯爵? の逢瀬を禁じると、勝利後の条件にしていたかしら? おそらくだけど、貴方の決闘を受け入れただけで勝利したらどうこうは何も言っていなかったのではなくて」


 ふと、考え。そして気付くハロイアたち。

 そう。のじゃ姫は訳も分からず決闘だけを受けたのだ。

 勝ったらこちらはどう言う条件を出す。みたいなことは一つも言っていない。


「のじゃ?」


 つまりどういうことなのじゃ? 首を捻るのじゃ姫。

 アルセはソレを見て踊りだす。いや、だからアルセ、唐突に踊られてもついていけないから。

 なんで踊ってるの? ……君の中ではきっとこの問題は解決したんだね。


「のじゃ姫ちゃん。ロリコーン侯爵とハロイアが会う事、禁じる?」


 アメリスの言葉に、のじゃ姫は首を横に振る。

 つまり、会う事を禁止するつもりはないらしい。


「ふふ。乙女よ。遠慮はいらないわ。貴女の思いをぶつけなさい」


「あ、アメリスさん……よいのですか。私は、負けて……」


「のじゃ姫がいいと言っているのよ。ねぇ?」


「のじゃ」


 こくりと頷くのじゃ姫。感極まったハロイアはのじゃ姫に抱きついていた。

 ありがとう。何度も繰り返す恋する乙女を少しだけ見つめ、アメリスは一人無言で背を向ける。

 タバコみたいな何かを吹かせテンガロンハットをパサッと被って去っていく。


 って、それどっから出したの!? カッコ良く去るのはいいけどどうしてそんなにハードボイルドっぽい去り方なの!?

 アメリスがどんどんバグッていく姿を見送りながら、僕は自分が作りだしてしまった哀しき愛戦士に一人涙を流すのだった。

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