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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第八部 第一話 そのストーカーをストーカーしていた少女を僕は知りたくなかった
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その姫の実力を彼女たちは知りたくなかった

「まだまだ死なぬわ」


「し、しつこい……」


 モスリーンはヴァーミリオンの髪を揺らしながらモーニングスターを思い切り振り抜く。

 直撃するまだまだ死なぬわ、は血反吐を吐き出し崩折れる。

 しかし次の瞬間には復活するまだまだ死なぬわ。


 何度も繰り返された状況だ。

 どれ程倒そうとも立ち上がるまだまだ死なぬわは、いっそ恐怖ですらある。

 一体でこれなのだ。ダンジョンで何十体も出現されたらと思うとゾンビパニック並みの恐怖である。


 まぁ、顔が間抜け顔なのが救いといえば救いなのだけど、それはそれで逆に怖いのがなぁ。

 モスリーンさん既に泣きそうだし。

 でも一勝しておきたいからってことで必死に攻撃を繰り出すモスリーンさん。


 正直モスリーンさん自身にダメージはまったくない。

 ゲームだったならいつかは倒せるだろう。

 でも、現実は酷だ。なにしろスタミナがどんどん無くなって行くんだから。


 肩で息をしながら必死に武器を振り抜くモスリーン。

 何度倒そうが復活して来るまだまだ死なぬわ。

 そして戦場に咲き乱れるスイカ達。まだまだ死なぬわの開花宣言というスキルが使われたらしく、周囲に飛び散った種マシンガンからスイカが出来たらしい。


 コレ、食事には出来るらしいけど種が体内で発芽するタイプらしいから種食べるとスイカに捕食されるんだと。

 いつかのアケビモドキみたいな奴だね。あとで汚物を消毒しとかなきゃ。小さい子が間違えて食べたら大変だ。ほら、アルセ、スイカ食べたそうに見てもダメ。あげません。


「あ~。ハロイア、どうする? もう一時間以上経ってんだが」


 俺も暇じゃないんだぜ? とオルステイン先生が小声で呟く。

 そういえばこの人は巻き込まれただけで合計二時間以上ここに拘束されてるんだっけ。


「仕方ありません。彼女もそろそろ限界近い、ここで痛み分けにしておきましょう。私がのじゃ姫に勝てばいいだけです。ええ、それで決着を付けましょう。モスリー、もう大丈夫ですわ。よく頑張っていただきました」


「で、でもハロイア様、私はまだ……」


「今回の決闘には無理矢理皆さんを巻き込んでしまったもの。これ以上ムリをさせる訳にはいきませんわ。今回は、わたくしに華を持たせてくださいませ」


 ハロイアの言葉に悔しげに俯くモスリーン。絞りあげるような声で小さく「はい」と呟いた。

 耳ざとく聞いた先生がそれまで! と叫び、今回も引き分けを宣言する。

 何度倒されながらも立ちあがったまだまだ死なぬわを褒め称えるのじゃ姫。ここにロリコーン侯爵がいたら血涙流して悔しがっただろうなぁ。


「フッ、大したものだな、奴は」


 本当にアンタ何しに来たんだ?

 アメリスはシリアス顔で呟くだけで完全な見学者になっている。

 本当に何しに来たんだろう。多分暇だったんだろうけどさ。


「さぁ、おあがりなさいな。私が貴女に引導を渡して御覧に差し上げますわ」


「のじゃ」


 よく分かってないが、決闘に負ける気はないとばかりにのじゃ姫が決闘場へと上がっていく。

 先生の開始の合図と共にのじゃ姫が両手を真上に突き上げた。

 雄たけびの代わりに「のじゃ姫なのじゃーっ!!」と思い切り自己主張。


「やってる場合ではありませんわよ!」


 飛び込むハロイア。


「おじゃるでござるのじゃー!」


 出現する殿中でござるや無礼でおじゃるを切り裂いて、ハロイアが走る。

 凄いな。ワンバーカイザーが居ないけどこれ、ボス戦なんだぜ。たった一人で挑んでいい敵じゃないんだよのじゃ姫は。


「あまり使いたくはありませんが、私特製の武器を使わせていただきます」


 どうやらポシェットみたいなのを持っていたらしい。バッグに手を入れたハロイアはそこから想定外の武器を取りだした。

 それは柄だ。

 柄の先に折り畳み式の洗濯物干し型の剣がついている。

 えーっと、ほら、開いたら傘みたいな形状になってよくタオルとか靴下とか干してる昔からある形状の……

 名前なんだっけ。とにかく、あの洗濯物干す部分の棒が全て剣になっていて、その全てが円形のリングで開かないように固定されているような。折り畳んだ傘の逆形状っていうべきか、そんな剣の束だった。


「私の主武装、ガトリングソードランチャーですわ。発射!」


 ズダダダダと剣が飛んで行く。

 え? 何アレ、欲しいっ。

 一瞬で十本の剣を速射したガトリングソードランチャーがカラカラと回転している。

 のじゃ姫を守っていた侍たちが一瞬で一掃された。


 何が起こったのか理解できずに戸惑うのじゃ姫に、ガトリングソードランチャーを投げ捨てショートソードを引き抜いたハロイアが迫る。

 覚悟! とばかりに突き出された一撃。その刹那、のじゃ姫のスキル「甘いのじゃ」が発動した。


 キンと澄んだ音が響き、ハロイアの剣が空を舞う。

 のじゃ姫により懐から取り出された懐刀百舌鳥が彼女の剣を弾き飛ばしたのだ。

 懐刀というだけあって短いその刀は、抜刀速度は他の剣に比べるべくもなく速い。そのため、相手が勝利を確信した瞬間に引き抜いても充分迎撃が可能なのである。


 小さな体でハロイアの腹へと刃物を押しつけるのじゃ姫。

 予想外過ぎるその一撃に、ハロイアはただただ呆然と空を舞う自分の剣を見つめていた。

 トスッとショートソードが地面に突き刺さる。


「勝者のじゃ姫」


 ある意味瞬殺。

 腐ってもダンジョンボスなのだ。そん所そこらの貴族娘に負けるようなのじゃ姫様ではなかったようです。

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