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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第五話 その宗教の誕生を彼女は知りたくなかった
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AE(アナザー・エピソード)・その動き出した各国を、僕は知らない

「アルセイデスの特異体か」


 ダーリティア帝国の王城で、騎士団長レティアは顔面蒼白のまま傅き、皇帝に拝謁していた。

 マイネフランからは遠く海を隔てた場所に存在する大帝国。

 今回国の勢力を伸ばすのに加担してもらった勇者ヘンリーたっての願いを聞き受け、兵を出したのだが、どうやら失敗したらしい。


 その部隊長だったレティアだけが鋒鋩ほうぼうていで戻って来たのだ。

 まさか四方向から別の国々による侵略を行って全滅などという体たらくが起こるとは思っていなかった皇帝は、激昂しそうになる怒りを押さえながらレティアの言い訳を聞いていた。


 確かに、ただの言い訳にしてはあり得ない情報だ。

 正直信じがたい。レティアが誇張しているのではないかとすら思える。

 だが、別の国に送っている葦という名の諜報部隊からもそのアルセイデスの話は聞いていた。


 なんでもマイネフランにアルセ教という新宗教が設立されたらしい。

 その御神体は現魔物神と呼ばれるアルセイデス。

 なるほど、特殊個体が存在するのは確からしい。

 それにやられたというのなら実力もそれなりに計れたというわけだ。


 なにしろそのアルセと呼ばれる魔物は他の魔物を自由に操れる魔王のような存在なのだという。

 とても興味深い話であった。

 ダーリティア皇帝は顎髭をさすりながら考える。


 その魔物を手に入れられればなかなかに面白いことにはなりそうだ。

 しかし、デメリットも高い。

 逆にその魔物を排除した場合は? おそらくマイネフランとの戦争に入るだろう。

 アルセ教は別の国にも浸透し始めているという、下手をすればマイネフラン以外の国も連合してくるかもしれない。


 物珍しさから手を出すのは少々手痛い火遊びになるだろう。

 何しろ、あの勇者ヘンリーが神の呪いを受け地獄を味わっているらしいのだから。

 葦たちにアルセの情報を探るように指令を送り、再び顎鬚をさする。


「ふむ。今はまだ、様子見が妥当か……それに、最近出来たあの国の動向も妖しいしな。空を飛ぶ鉄に物理が効かぬ馬無き鋼鉄の戦闘馬車か……」


 皇帝は顎鬚をさすりながら息を吐く。ヘンリーのせいで精鋭が使えなくなった以上、下手に進軍を行うのも難しい。

 しばらくは内政を行わねばならん。と、珍しい勇者からの願いを聞いたことを後悔するのだった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ロックスメイア王国では今、急ピッチで教会が一つ作られていた。

 和風の建物が多いロックスメイアには正直似合わない西洋風の建物を見上げ、巫女女王ツバメは失敗したかな? といった顔をしていた。

 正直、あまりにも浮いている。


「あの、せめて外観をこの国に合わせるのは可能ですか?」


「可能ですが、こっちの業者を雇ってもらわねぇとウチはこの設計方法しか知らねぇですぜ。こっちの技術を見て盗ませて貰う事になりますが、それでよけりゃぁ」


 ツバメが今話しているのはマイネフランから連れて来た大工の棟梁。髭もじゃドワーフの男は良い仕事が出来たと自慢の髭をさすっている。

 結局、アルセによる奇跡で影響を受けたのは、彼女も一緒だったのだ。

 魔物否定派だった彼女としては恥ずかしい限りだが、アルセの笑顔を見て、思わず拝んでしまったのである。

 信じる訳ではないし、自分には信仰する神がいる。でも、それでもだ。


「仕方ありません。こちらで手続きを行っておきますので今しばらくはこの地に留まりいただけますか?」


「構わねぇよ。俺ァアルセ姫様の教会を建てられるって事が一番の遣り甲斐だ。そうだな。折角だし風土に合わせた教会建てるのもありか」


 しばらく後、ロックスメイアに和風教会というよくわからない小城のようなモノが出現したのだが、信者の入りはごくわずか。それでも少しずつロックスメイア全土に浸透する新しい宗教の教会として末長く愛される教会となったらしい。


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「ふふ。ふはは。あはははははははははっ!!」


 ダリア連邦の貴族の半数が、マイネフランから戻って来て様子が変わっていた。

 一番に変わっていたのはステファン・ビルグリム。

 彼はマイネフランからドワーフを数人引き連れて来て連邦会議でアルセ教教会設立を提唱。

 他の議員たちの勧めも有り、私財をなげうつ形で半ば強引に教会を設立した。


 以後、熱心なアルセ教教徒としてアルセ教を布教しながら私設兵団を作りアルセ教師団として連邦の平和に貢献したという。

 私設兵団は貴族平民を問わずアルセ神の名の元に平等に扱われ、精強な兵団へと変化していき、ダリア連邦の代表的私設兵団と成るのだが、それはまだ、先の話である。


 騎士団代表はステファン自らが指揮を取り、副指揮官には平民の中でも歴戦の猛者を徴用したという。稀代の血塗れ狂信者と呼ばれるステファン伝説の始まりでもあった。

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