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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第五話 その宗教の誕生を彼女は知りたくなかった
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SS・その熊たちの移住を、国民は知らない

「え? ここに住みたい?」


「まっ」


 その日、ネッテのもとに五匹の熊たちがやって来ていた。

 どうやら城での生活をゴールデンベアーが気に入ったらしい。

 ネッテに何とかできないかと相談に来たのだ。


「そうねぇ。なら私の従魔になる? 王家の紋章があればこの街の中なら自由に歩けるわ。一応護衛兵は付けさせてもらうけど」


 五匹の熊たちはどうする? とばかりに寄り集まってくまっくま言っていたが、即座に纏まったらしい。

 代表したスカイベアーがくまっと右手を上げる。

 それでお願いします。という事らしい。


 次の日、都合を空けたネッテに連れられゴールデンベアーたち五匹が冒険者ギルドへと現れる。

 王族と魔物というパーティー編成に、ギルド内が騒然としたが、彼らが従魔契約を行うことを知ると、あーっと納得したらしい。


 少しして、何やら陽気な声でくまっくまっと身体に現れた契約紋をさする五匹の熊と共にネッテが去っていく。

 皆、ゴールデンベアーの眩しさに目を細めていたが、王家所有となったことで討伐は諦める。

 そんな冒険者たちに紛れ、受付嬢カルエさんがそそくさと賞金首が張られていた壁からハステルラ山の五熊王というネームドモンスターの手配書を引き剥がしていた。


 ようやく自由を手に入れられましたね。と、スカイベアーは嬉しそうにしているゴールデンベアーを見て目を細める。

 生まれた時から全身が金になるということでゴールデンベアーは命を狙われて続けていた。

 スカイベアーが売られる寸前の彼女を救いだし、フレイムベアーを、アクアリウスベアーを見付け仲間に誘い、ティディスダディの住んでいたハステルラ山に逃げ込んで、人里離れた場所で慎ましく生きてきた。


 でも、ネッテならば、ここの王族ならばきっと大丈夫だと、スカイベアーは確信できた。

 フレイムベアーも賛成してくれて、不安そうなティディスダディとやる気のないアクアリウスベアーを説得してようやく従魔になった。

 これで誰憚ることなく自由に外を歩けるのだ。


 しかも、魔物として生きるではなく、人の営みに混じって生活しても何も言われないのだ。

 露店でネッテにお金を出して貰いながらゴールデンベアーが焼き鳥を食べている。

 頬に手を当てウットリとしながら食べる姿は、なんだか可愛くてスカイベアーはクスリと笑ってしまった。


 せっかくなので街中をネッテに案内して貰いながら城へと帰る。

 そして城に向かうと必ず会ってしまう存在がいる。

 そう、アルセ教とマイネフラン城のだいたい真ん中に位置する道にぽつんと佇む男。外道勇者ヘンリーである。


「うわぁ……」


「がぁっ!?」


 驚くネッテとフレイムベアー。スカイベアーは咄嗟にゴールデンベアーの目を塞ぐ。

 なにするの!? 驚くゴールデンベアー。しかしスカイベアーには彼女の目を開放する訳にはいかなかった。

 全裸の男が捨てられていた。

 あまりにひどいその姿は公共倫理に違反する。


 モザイクを掛けなければいけない物体と化したヘンリー。

 嫌そうな顔をしながらネッテはひとまずアルセ教会へと入り込む。

 アルセ教会にはロリデッス神父と数人の信者、そしてまだ名が付いていない少女がせっせと教会内を掃除している。


「おや、姫様。どうなさいました?」


「あーその、神父さん。悪いんだけど、教会前の汚物何とかしておいてくれないかしら、教会と王城の前にあんなの放置してたら外聞に悪いわ」


 ネッテの言葉に訳がわからず首を捻りながら外を見に行くロリデッス神父。

 名も無き少女も一緒に向うが、先に道を覗いた神父が慌てて少女をくるりと方向転換させて教会の奥へと押しやる。


「いけません。いたいけなる少女には刺激が強すぎます。ネッテ様。アレは危険です。見ただけで幼女たちに悪影響を及ぼしかねません。汚物の焼却許可を!」


「死なないから焼却は無理よ、なんとか隠せないかしら?」


「布か何かで覆っておきましょう。ひとまず教会にあった毛布を使い捨てにして覆っておきますがよろしいですか?」


「……そうね。新しいモノに関しては城に請求してくれるかしら? 私の名前で」


「ええ。では早速」


 幼女への脅威が掛かっているだけに、彼の動きは素早かった。


「それじゃ、家が見つかるまではこの教会で寝起きすればいいわ。さすがに城だといろいろ問題だから、それでも大丈夫かしら」


「くまっ」

「まっ」

「がぁー」

「うまっ」


 ティディスダディは声を出せないので、他の四匹が頷く。

 城には遊びに来ればいいのだ。ゴールデンベアーは姫であるわけだし、紋章を見れば兵士は素通りさせてくれるだろう。


 スカイベアーとゴールデンベアーがやったね。と喜びあうのを見ながら、ティディスダディは娘たちの成長を見守るようにうんうんと頷いていた。

 それからしばらく、ヘンリーの居る場所に毛布が掛けられる事案が何度か発生したが、それがどういう理由から来るものなのか、一般民は誰も知らない。

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