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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第五話 その宗教の誕生を彼女は知りたくなかった
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SS・その酒場の一時を、彼は知らない

 場末の酒場は今日も閑散としている。

 脛に傷持つ男どもが数人いるが、皆席が離れている。

 強面のマスターはグラスを拭きながらふと、入口に感じた気配に睨むように視線を向けた。


 カランと音を鳴らし、三人の男女が入ってくる。

 一人は自分たちと同じただのおっさんだ。

 しかし、その両隣に居るのは可愛らしい女の子。

 どう見てもこのような酒場に来る存在ではない。


 下手したら拉致されても文句は言えまい。

 最悪、店の商品に媚薬を入れられ、誰とも知れない存在に連れ去られるだろう。

 だが、店主はソレを咎める気は無い。なにしろここに集まる奴らはそういう下衆か、そんな下衆が問題を起こした時に嬉々として処理するハンターや密偵だけだからだ。


 ただ、その女どもに手を出そうというツワモノは居ない。

 誰だってそうだろう。ちょっと裏の仕事をすれば分からざるを得ない。

 彼女等の立ち振る舞いは影のモノだ。

 少しでもちょっかいを掛ければ狩られるのは自分たちだと分かってしまう。

 それぐらいには、同業者を嗅ぎわける術がある。

 だからこそ彼らはここの常連になれるのだ。


「久しぶりだな影兵」


「おいコラ。役職ばらすな」


「ふん。貴様の役職がバレたところで仕事に支障はあるまい。どうせまた幼女の尻を追っかけているのだろ」


「なんだ、今日は珍しく饒舌じゃないかマスター。いいことでもあったか?」


「……ふん」


 話しかけるんじゃなかった。そんな顔で常連客のボトルへと手を伸ばす店主。

 彼が背後を向いたのを見計らうように、影兵の直ぐ横に白い肌の男が座った。


「カウンター席空いてるだろ。わざわざこっちくんな」


「堅ぇこというな影兵。俺らだって優しくされりゃ嬉しい事もあるんだっつの。ここの奴らも全員アルセ様の施し受けたからな。聖リエラの微笑みに見惚れた奴も多いんだ。マスターもその一人だわな。娘が出来たみたいでさっきからあの厳つい顔がヤベェ顔になってんだ」


 ケッケと笑うのは爆発したような髪型を金色に染め、顔を白に染め、デスメタルチックにメイクした男。長い舌にはピアスが二つ刺さり、真珠のような丸い球が笑うたびに覗く。

 見た目は酷いが、気さくで話しやすい人殺しだ。


「珍しいな。貴様がべた褒めか。女は殺すとか言ってただろう?」


「聖女様は特別だぁ。こんなどうしようもねぇ俺に微笑みくれんだぜぇ? 思わずアルセ教入信しちまった」


 こんなのに祈られても神様は嬉しくもないだろう。

 そう思いながら注がれた酒をクィッと呷る。

 そうそう、これだよこれ。ウォッカ最高。


「そちらの二人は初めてか。何を飲む?」


「二人にはミルクでもやってくれ。これからまだ任務が残ってる。酔いながら仕事できるのは俺だけだからな」


「ハッ、酔っ払いが仕事なんざできるわけねぇだろ。テメェはサボりまくってるどうしよーもねー王国の影だろうが。ギャハハハハ」


「うっせ、埋めるぞクソガキ」


「おー、こえーこえー。でもよ、俺ぁ、この目で見ちまったよ。神の怒りって奴をよぉ」


「ああ、アレか」


 デスメタ男が楽しげに語るのはこの国に黒死というステータス異常を振りまいた元凶、勇者ヘンリーのことだ。

 彼はあまりにもやり過ぎたらしく、居るかどうかも分からなかった神によりスキル全てが壊されたらしい。

 しかも移動不可という恐ろしいスキルのせいでその場から動けず、不死スキルにより死ぬ事も封じられ、その場で周囲に害さないよう、攻撃属性を回復で固定されたらしい。


 つまり、周囲に迷惑掛けようと誰かに危害を加えても、むしろその人物の傷が回復するらしいのだ。

 もはや外道なことすらできない状態である。

 行き交う街のど真ん中、しかも王城の目と鼻の先であり、新しくできたアルセ教の門前という事もあり、毎日のように沢山の人に見られるという苦行を受けている。


「正直俺ァ、自分が恥ずかしい。ムカツク奴ァ即殺す。と思ってたがよぉ、本物の罰ってぇもんを見せられた気がするぜ。殺しちまったら一瞬だ。相手は殺された意味すら理解せず死んじまう。俺は随分勿体ねェことしてたんだなぁ」


「黙れ殺人狂め。しょっ引くぞ」


「ひゃっひゃ。残念でしたー。俺はまだ賞金首にゃなってねぇんだよ。一度も殺害現場押さえられてねぇからなぁ。うひゃひゃ。でもこれからは神様に近づけるように拷問器具揃えなきゃならねぇなぁ」


 根っから狂ってやがるな。神様よ、本当に居るならこいつにも罰与えてくれや。

 影兵は溜息ついて、ウォッカを呷る。


「そういやアレはどうなったんだ?」


「アレ?」


「元凶のネズミンランドだよ」


「ああ、最高司祭が魔法で封印したらしいぞ。ヘンリーがでてきたことで地下三階から一階までのねずみんも黒死に汚染されたから入口を厳重に塞いでダンジョン自体を魔道具で結界張って封印。その上に最高司祭のオリジナル魔法で包みこんで完全密封だ」


「ンじゃぁ新しい処刑法には使えねぇか」


「使えたとしてもやめろ阿呆」


 溜息を吐く影兵。そこへ、入口から三人の男が現れる。

 ウォッカの入ったグラスの氷が、カランと揺れた。

 見知った二人を侍らせ現れたつやつや肌のドワーフを見て、影兵はデスメタ男に告げた。


「ああ、良い処刑法があったわ。あいつらに差し出せ。それで終わりだ」

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