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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第五話 その宗教の誕生を彼女は知りたくなかった
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特別編・その教義を彼女は知りたくなかった

 そこは新しく出来た教会の一室だった。

 とても広いスペースを取った円卓の間。

 巨大な円を描く円卓には、二十人もの人数が座れる椅子が設置されている。

 ここが今回この教会の教義などを設定するスペースになるのである。


 協議内容は聖女と御神体、アカネさんを中心にして王侯貴族の一部がステファンを筆頭に何人もいらっしゃっている。

 聖女リエラの横には国教とされている教会から来た老司祭とロリデッス神父が参加。他にも国の重役が何人か集まっているがマイネフランの王族は集まっていない。

 何しろカインとネッテの結婚式最終日なのだから、彼らは祝われる方で忙しいのだ。


「それでは、新たな神教が生まれるこの日に感謝を」


 皆がアルセとリエラに祈りを捧げ、会議は始まった。

 リエラは終始胃を押さえ続けていたが、もはや彼女にとっては蚊帳の外の会話なのだろう。自分の事なのに良く聞いていないらしい。

 仕方無いので僕とアルセがしっかり聞いとく事にする。


「それではジェーン様。アルセ神様との出会いをお教えいただけますか? 教義の前に神との出会いを描き神の奇跡を余すことなく教わりたいと願います」


「ええ。その為に昨日、全員から聞き取り調査をしておいたわ」


 そして書記係のお兄さんがアカネの言葉を書き連ねて行く。

 どう見ても僕らの冒険譚なのだけど、所々がアルセの業績になってたり、アルセが奇跡を使って危機を乗り越えたという意味不明の状態になっていた。

 アカネさんがなぜかノリノリです。

 そして聖女の話になるごとにリエラが困った顔で胃を押さえる。


「……と、こんな感じかしら」


「ほぅ……こうして彼らの功績を聞かせていただくと、本当に奇跡のオンパレードのようですな」


 感心したように顎髭さする国王どこの国の王様かは忘れたけど、かの有名な三国志に出て来る関羽さんみたいな立派な顎髭だ。白いけど。

 頭は禿げあがり顎髭だけが立派な国王様はアルセに再び祈りを捧げた。

 アルセは良く分かって無いけど、ありがと? と言った感じで首を傾げております。


「さて、このアルセ教の教義に関してですが、マイネフランに現存する教会を参考にしておきたいと思い、教義を書き写した物を皆様にお配りしました。どうぞご覧頂きアルセ教に不要な個所、また足らない個所をご指摘お願いいたします」


「ふむ。ならば私から。最初の司祭の言葉は神の言葉という物から変えた方がよかろう。アルセ様を御神体としリエラ様を聖女とするのは確定だろうが司祭にそこまでの権限は必要あるまい」


「……そう、ですね。では司祭はアルセ神を我が神と信望し、祈りを捧げ、神事を司るだけの存在と致しましょう」


 アカネさん? 今舌打ちしませんでした?


「最高司祭はステファン殿かね?」


「いえ、私など恐れ多い。ジェーン様が今は適任でしょう。ただ彼女はアルセ姫護衛騎士団のパーティーメンバー。なので近いうちに彼女に最高司祭を指名していただくという方法が良いでしょう。信者の中から適任を選んでいただくのですが、この国の住民が良いでしょうな」


 なるほど、ステファンさんとか国の重役だと毎回この国と自分の国往復しないといけないしやってられないだろうね。その代わりに分神殿を作ってそちらでアルセに祈りを捧げるらしいけど。


「これによると年に一度総本山に全司祭が集まるとあるが?」


「ここに集まるのでよいのでは? せっかくだ、この協会が設立された昨日を集合日として分神殿の司祭を集めミサを行うのはどうか?」


「しかし、アルセ神の生誕は聖リエラと出会った場所では?」


「ならばアルセ神がこの世に御降臨なさった日が分からねば。いえ、その辺りはネッテ王女に聞いてみましょう。あの方なら覚えて……」


「それに御心配はいらないわ。祝祭日に付いてはこちらでまとめます。後に各国にお送りいたしますので本日の参加国と皆様のお名前をこちらの紙にお書き留めください」


 アカネさんがステファンに羊皮紙を差し出す。

 まぁ日付の辺りは影兵さんが詳しいだろうし、後でアカネと聞いてみよう。


「聖歌はいかが致しましょう?」


「うってつけがあるだろう。聖リエラが弾いていた楽曲に致しましょう。確か四つ御披露されてましたな」


「えーっと……」


 アカネさんがどうしよう。って困った顔をしてるけど、本当にどうしよう。順当に行けば喜びの歌だけど。


「では最初に聖リエラがお弾きになったモノを聖歌とするのは?」


「しかし、少し悲しい曲ではないか。故郷に帰りたいと涙を流す者は多いが……」


「では二番目の曲に致しましょう。マイネフラン国王も涙を流して絶賛したそうですし」


「なんと、あの国王がか。なるほど、それはいい」


 いや、待って。そっちは違う。翼の奴が聖歌とか、ちょっと飛躍し過ぎっ。アレ、作者普通の歌手だからっ。

 アカネさんは含み笑いを我慢して目を逸らす。ダメだ、訂正する気ないよこの人!?


 そして、リエラが胃痛を我慢している間に、教義が纏まった。

 この日、新たなる宗教、後に全国に普及したとされる伝説級の宗教、アルセ教が産声を上げた。

 リエラはこの宗教の初代聖女として、肖像画が作成され、神の嫁として、後世とても有名な世界三大聖女の一人と称されるのを、彼女は知らない。


 この宗教には本物の神が御神体として存在し、その怒りを買った者は同性愛者たちに襲われたり、己が長年かけて手に入れたスキルを全て消され、不死にされてその場から一歩も動けぬ呪いを受けるのだと恐れられた。

 その人物も教会本部前の広場に実在していることで有名に拍車を掛けた。


 そして、後の世には呪いを受けし勇者の語る【生き人の証言】という書物が有名になったらしい。神の呪いを受けた男は、世界終焉あるいは神の許しを得るその時までその場で人生を過ごすのだと言われている。

 後世、国家間の大戦争が起こっても、この宗教団体には呪いを恐れ、どの国も、いつの時代も戦火を届かせなかったという。

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