彼のステータスを彼は知らなかった
ネッテたちは新情報に関しての交渉をギルドマスターと話し合い始めていた。
その間、暇になった魔物たちはアルセのカイゼル髭弄りをほっこり見守っている。
そして自由になった僕とリエラは気絶した受付嬢を医務室に送るという理由を付けて二人で部屋を脱出。拷問? を開始する事にした。
「う、う~ん……はっ!?」
「あ、起きましたか」
「ここは……医務室? 私、気絶してましたか?」
「え? は、はい。多分興奮の余り?」
「すみません。わざわざここに運んでいただいて」
「いえ、その、それより五人目の魔物についてなんですが……」
「あ、そ、そうですね。でもギルドマスターにも伝えなければなりませんので早く部屋に向いましょうっ」
とベッドから起き上がろうとする彼女をリエラは慌ててベッドに押し戻す。
「あの、その人の事は、言わないでください」
「……なぜです? 透明人間が存在するという証明なのですよ! これはまさに世紀の大発見です。このような魔物は……」
「魔物じゃないですっ」
「え?」
「この人には意志があります。魔物じゃないはずなんです。それに、私達に気配を悟らせないようにアルセを助けてました。彼は公の場にでることを嫌ってます。お願いですから、公表しないでください」
リエラ、もしかしてカインたちに黙ってたのって僕に気を使ってくれてたのか。
うーん。なんかこそばゆいというか。僕としてはリエラにバレた時点で問題なくなったんだけどなぁ。
あの時はリエラの胸揉んじゃったことをバレたくない一心でひたすら隠れてたけどさ。
「ですが……」
「それに考えてみてください。透明人間が存在する事が公になれば、彼らはいつどこで何してるのかわからない。もしかしたら自分のプライベートを覗かれているかもって不安の声が上がりませんか? そしたら、透明人間を討伐しろって、声が上がるかもしれません」
「そ、そんなことになって全滅するかもしれないからって、ことですか?」
「それもありますけど、相手は見えないんですよ、もし本格的に敵対して、どっちに被害が出るか分かりますか」
「う……」
いや、リエラさん。僕そんな危ない人間じゃありませんが。
「わかりました。このことは私の胸にしまっておきます。でも、ギルドマスターには報告だけしておきますがよろしいですよね。事情を知っていれば何かとフォローもできますから」
「……そうですね。あの、それでも構いませんか?」
と、虚空に視線を向けるリエラ。
あ、僕に許可求めてるの?
了解。の意味を込めてリエラの首を縦に振る。
突然リエラが頷いたので首を傾げる受付嬢。
「構わないそうです」
「あ、もしかして今ここに居るんですか? というか、もしかして声がだせないけど意志疎通ができる?」
「そうみたいですね。一応文字も書けるらしいんですけど、私達の知ってる文字ではないようでして……」
「……なら、ギルドに依頼してみませんか? この文字の解読。みたいな依頼で」
あ、それはちょっと魅力的かもしれない。
「そうですね……あ、でも依頼だすならネッテさんたちにも相談しないと。アルセの文字としてやってみます?」
僕は再び首肯する。リエラの首を使って。
「じゃあネッテさん達に後で聞いてみましょう。アルセ使って何か文章でも書いてみてください。依頼達成者の翻訳とあなたの書いた文字の意味があってれば報酬を支払うという感じで」
「しかし、残念ですね……世紀の大発見なのに」
「そ、そういえば、この方の詳細ってわかるんですよね。どんな方なんです?」
期待を込めて、リエラが聞いていた。
「えっと、そうですね。名前は……よく分かりません。文字だとは思うのですが私の知っている文字ではないので」
多分、僕の名前が日本語ででも書かれてるんだろう。そりゃ読めないよ。
「スキル欄は、えっと異種族言語読解と位相ズレ? 存在無効? エラー? なんでしょうか?」
うん、僕の存在ってエラーだったんだ。
ちょっと凹む。
存在無効って……泣いていいかな?
「アルセイデスの過保護な保護者と書かれてますね。過保護ってところがなんとも気になりますが」
「なんとなく、わかる気はしますね……」
今までを思い出してリエラは遠い目をしていた。
なんだよ。僕はアルセを危ない目に遭わないようにしてるだけだぞ。
決して過保護じゃないからな。殆どの世話はリエラ達に任せてるし!
でも、そうか。結局僕の正体を知ることはできないのか。
種族辺りだけでもわかればよかったんだけどな。
どうもそっちも日本語らしくて彼らには理解できないようだった。
結局、わかったのは僕がこの世界にとってはイレギュラーだということとアルセの過保護過ぎる保護者になっていたということだけだった。
あと、僕の存在が公になると大討伐大会が開かれかねないってところかな。恐っ。




