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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第五話 その宗教の誕生を彼女は知りたくなかった
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その勇者の暴走を彼女は知りたくない

 ゾクリ。

 ヘンリーは初めて恐れを抱いてしまった。

 顔が強張るのが分かる。

 目の前に居るのは血だらけで、もう抗う術もないはずの男だった。

 自分の方が強い。何度も分からせてやった。

 相手のスキルも既に潰しまくり、得意の一手だろう一撃も、賭けに勝って撃破した。


 あとはネッテを凌辱するラッキーイベントのはずだった。

 カインの目の前で寝取ってやるのだ。壊れるまで遊んでやるのだ。

 そのつもりだったのだ。


 だが、目の前にはカインが立っていた。

 自分の力では敵わないと思い知らせた男が立ちはだかっていた。

 カインは静かに光の剣を握り込む。


 貴女の為エインヘルト・の英雄譚フューァイーレ。聞いたことのないスキルだ。

 だが、その剣は自分の扱う剣に似ていた。だからヘンリーはその効果を、威力を知っている。

 それは勇者の奥の手だ。闇と光の差はあれど、全ての武器をなくしたときにのみ使う命を使った最後の剣。その剣が折れるときは、己の命潰える時だという決意の剣。

 何者にも折られない剣と成る代わり、それが消える時、己の命もまた消える、まさに自分自身を掛けた最後の武器だ。


 その攻撃ですらも、迎撃し、跳ね返し、封じてやったというのに、カインは性懲りもなく剣を手に立ちあがっている。

 そして、次に来る何かが、ヘンリーに勇者の勘を告げさせる。

 下手に傲慢にしていると、死ぬ。本気でそう思った。


「じ、自動迎撃・激!」


邪魔な全てヒンダァニス・ヒンを貫いて・ドゥルヒ・ボーレン


 刹那、カインを見失った。

 次に気付いたのは、自分に叩き込まれるカインの剣。

 心臓を目掛けた一撃は、自動迎撃を貫き、それでも足らずとヘンリーを貫く。

 咄嗟のバックステップで心臓の真下に逸らせはしたが、完全に貫かれたのが理解できた。


 何が起こったのか理解できない。

 ただ、カインが自分との戦いで更なる進化をしたことだけは、理解できてしまった。

 一瞬だけ、カインが居た世界に連れ去られた。音も動きも何も無い静寂なる世界。それに意識を向けた瞬間、カインの一撃を喰らっていた。

 涅槃寂静。おそらくこの世界でカインだけが到達した至高の頂だ。


「があッ? ごぶっ? あ……バカ、な……」


 ヘンリーは思わず目を見開く。

 彼の目の前にはカインの顔。ひっつく程の接近で、必死のカインを信じられない顔で見る。

 自分が突き刺されたのが信じられない。呆然としたまま、カインに押されるままに地面に伏した。


 ヘンリーの身体を刺し貫いたまま、彼を押し倒したカインはしばらく、そのまま彼を見つめていた。

 怒りのままに剣を引き抜き、更なる一撃を加えようと振り被る。

 確実にここで殺す。

 呆然とするギャラリーなど誰もいないとばかりに、カインは咆え猛りながらヘンリーへのトドメを……


「カインッ!!」


 熱風吹き荒れる場所へと走り寄って来たネッテが叫ぶ。

 振り上げたまま、カインの動きが止まった。

 ふっと光の剣が消え去る。


 立ちあがったカインは動かないヘンリーを警戒しつつ距離を取る。

 ネッテの傍までよろめきながら下がるが、熱風の壁を隔てたまま立ち止まった。

 そんなカインに、涙目のネッテがありがとうと呟く。

 きっと、止まってくれてありがとう。ってことなんだろう。

 アカネが魔法を変化させて空気中の黒死を焼却していく。


 炎嵐が消えた瞬間、カインに抱きつくネッテ。

 アルセがどうしよう? って顔をしてたけど、とりあえずアルセ、カインより先に病原体を壊しとこう。

 僕とアルセは二人で倒れたままのヘンリーに近寄る。

 未だ呆然とした顔のヘンリーの口に、アルセは血を垂らした。

 皆の見ている前で、ヘンリーの身体から黒色が消え去る。

 さらにカインに開けられた胸元の穴が一瞬で修復される。


 そういえばアルセって相手を回復させる血なんだっけ?

 呆然としたままのヘンリーはまだ気付いてないみたいだけど、ごめんねヘンリー。

 僕さ、君を許すつもりはないのだよ。

 僕ごときがこういうことするのおこがましいとか間違ってるとか言われるかもしれないけど。一歩間違えれば君はアルセを拉致して、フリアールたちの居る場所に連れていってたよね。


 それにリエラたち。アルセが黒死に対抗できる状態じゃなかったら、この国は滅んでた。

 君がやったことは、僕の知り合いたちを危険に晒す事だけだった。

 きっとこれからも、君が居れば僕らは君の脅威に怯えなきゃいけないんだと思う。だから。


 僕は右手に力を集める。

 アルセは気付いたのだろうか、僕の右手に視線を向けている。

 それ、どうするの? そんな顔をしているアルセより前に出て、僕はヘンリーに力を注ぎこんだ。

 特濃のバグ・・という名のお薬を。


 バグが入り込んだせいだろうか。こっちが驚くほどにびぐんっとヘンリーの身体が跳ねた。

 本気でビビッった。何今の拒絶反応みたいな……あ、やべ、なんかやり過ぎた。

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