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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第五話 その宗教の誕生を彼女は知りたくなかった
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その勇者たちが齎すモノを国民は知らない

 僕らが洞窟最奥の転送装置から洞窟入り口へと戻った時、既に国には黒死が蔓延していた。

 ヘンリーとカインが既に街に向ったと聞いた僕らは、とりあえず魔物図鑑で皆を見てみたのだ。

 すると案の定、彼らは既に黒死に掛かってしまっていた。


 アルセに見せると仕方無いなぁ。と彼ら全員に血を振るまう。

 いきなり血を飲ませようとしてくるアルセに戸惑う面々だったが、アカネたちから理由を聞いて仕方無く舐めていた。

 アルセの手首を舐めるのじゃ姫がちょっとエロかったので激写したのは僕だけの秘密で……あ、アレンさんも普通に撮ってやがる。


 全員の黒死を治して街中へと向かう、どうやらアルセの血を摂取すると黒死無効も得られるようなのだけど、アカネさん曰く付加スキルらしいので少ししたら効果が無くなるらしい。

 アカネが空気に蔓延する黒死を風魔法で集め、フレイムベアーが焼却処分していたが、元のヘンリーをなんとかしないと意味がない。


 今回は蔓延した空気に乗って別のどこかに黒死が降り注ぐのを防ぐ意味合いが強い。

 同じように通り道の空気を浄化しながら皆で祭り会場へと向かう。

 最悪な状況がそこにあった。


 ヘンリーは一番人が多い場所でカインと闘っていた。

 そのせいで黒死が風に乗り、周囲を感染させている。

 初期段階では黒死が空気に乗ることはないが、末期症状のヘンリーのせいで黒死持ちが大量に出現しているのだ。


「これ、凄くマズいわね」


 臍を噛みながらアカネが告げる。

 しかし、理由も知らない国民に、いきなり魔物の血を舐めろと告げるのは無理だ。全員舐めることは不可能だろう。


「とにかく、今はカインさんたちの周りを熱風で囲んでこれ以上被害が出ないようにした方がいいんじゃないでしょうか?」


 モーネットさんが告げる。アカネも異論は無いらしく、フレアトーネードという魔法を唱え、闘う二人の周囲を熱風で覆い隠した。

 突然の熱風に驚く人々だが、僕らに気付いて押し黙る。

 図らずも、アルセ姫護衛騎士団のメンバーが有名過ぎてこれくらいなら普通に行えると思われたらしい。

 むしろ祭りの一環みたいに思われたようだ。


 早朝にも関わらず熱狂の声が響き渡る。

 酒の入った男達は賭けを始めて盛り上がり、女たちはそれぞれ気に入った男の名を呼び歓声を上げる。

 意外にもヘンリーへの応援もかなりあった。

 やはり勇者としての資質はそれなりにあるのだろう。


「カイィンッ!!」

「ヘンリィィィ!!」


 互いに名を叫びながら剣撃を繰り出しそれを受け止める。

 数人の女性が見惚れた顔で愚腐腐とか気持ち悪い声を出していたけど、普通に応援してるんだよね? 変なこと考えてないよね?


「億閃貫牙斬! うおおおおおおおおっ!!」


「自動迎撃・激! とれぇとれぇっ。ひゃはは!」


 カインの強烈な連撃を、同じように目に止まらない程の剣捌きで受け止めるヘンリー。カインに余裕がないのにくらべ、ヘンリーの表情は未だ相手を見下したような顔になっている。

 アイツのスキルが問題なんだろうね。あの自動なんとかっていうのが曲者で、どうやら相手の剣技全てに自動で迎撃して潰すスキルらしい。


 つまり、ヘンリーがわざわざカインの攻撃を考えて予測してソレを潰すという方法を取る必要は無く、何も考えていなくても自動で身体が迎撃するというスキルなのだろう。

 それはつまり、その間ヘンリーが次の手を考える隙を作れるという事に他ならず、カインにとってはそれこそが相手との力量差になってしまう。


 この闘い、魔法の使えないカインには不利だ。

 他の皆も気付いたらしい。マズいな。と顔を顰めている。

 さらに……


 剣撃と喧騒を聞き付けた王侯貴族がバルコニーから顔を出す。

 城前で繰り広げられる二人の闘いに気付きざわめき始めた。

 その一部は、なぜ捕まったはずのヘンリーが外に出ているのかという疑問の声も出てきている。

 国王陛下は顔面蒼白だ。捕まえたはずのヘンリーがいつの間にか脱走していてその知らせが自分に届いていないのだから。


「カインッ!」


 ビクリ。ネッテの声に反応したカインが思わず飛び退いた。

 体勢を整え、ヘンリーを睨んだまま背後のネッテの声を聞く。


「おぉおぉ。御姫様もお気付きのようだぜぇカイィン。そろそろテメェを地面に這いつくばらせてやるぜぇ」


「お願いカイン……勝って!!」


「……心得た」


 ネッテの叫びに、ヘンリーとカイン、双方がそれぞれ殺意を極限にまで高める。

 カインの視線が揺れた。一瞬にしてトランスモードへと入ったカインに、ヘンリーは不敵な顔で呪文を唱える。


「デッドランドハーヴェスト」


 刹那、周辺で作業中だったアンデッドの群れが突如崩れ去る。

 ヘンリーの周辺にその全ての魔力が集まって行く。


「ぐぅ……っ」


 効果はルグスにも及んだようだ。

 片膝付いて地面に降りた彼は、無いはずの心臓に手をやり苦しそうに呻く。

 クーフが慌てて駆け寄りルグスに肩を貸した。


「やられた……まさかあのような技を使おうとは。奴はカインを殺す気だぞ」


「ルグス? 大丈夫なのか?」


「アンデッドとして持つ魔力を根こそぎ奪う魔法だ。フレッシュゾンビであるお前達には気にならんかもしれんが、アンデッドである我が片膝付く程の魔力を一気に吸い上げられるのだ。並みのアンデッドは耐えきれず土に還っただろうな。その分の魔力を、全て吸い取りおった。カインが危険だ……」


 お、おおぅさすが勇者か。やっぱり奥の手使うと手に負えない程の強さになるらしい。

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