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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第四話 その黒死の暴威を彼らは知りたくなかった
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その脱走を僕らは知りたくなかった

「あ、アルセ……?」


「皆無事か! 助けに来た!」


 皆を代表するように突出したカインが炎の床を走る。

 遅れて同じように走りだすクーフとアルベルト。

 フリアクイーン向け走る三人に、遠くから魔銃で援護するのはミルクティ。

 炎で焼かれる三人を絶え間なく回復魔弾で回復させる。


 炎の床へと気にせず入ってくるフレイムベアー。

 少し遅れて遅参メンバーを魔法で浮遊させるルグス。

 そして……


「ブヒッ!?」


「ワンッ!」


「あ、アナタ?」


「ワンバーちゃん!?」


 姿を見せただけで特定の人物を強化させる二人と一匹。

 そう、二人と一匹だ。


「FUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOっ!!」


 真っ黒になってたエロ侯爵が復活した。

 アルセ姫が見ている。見ているだとっ!?

 そんな感じに立ちあがった彼は空を駆け抜け一気にフリアクイーンへと走り出す。

 遅れてなるかとプリカとエンリカまで走りだした。


 空走ってるんだけど、アレも魔法かな?

 アルセをルグスが持ち上げ、ルグスの肩でアルセが座ったまま踊る。それオタ踊り?

 パルティと辰真、そしてフレイムベアーが走った場所は外道勇者ヘンリーの方角。フリアクイーンは皆に任せればいいということらしい。


「オルァ!」


 気合い一撃防壁に拳を打ち込む辰真。

 ビキリと防壁がひび割れた。


「お、おいおい。物理も魔法も受け止めるこの結界を拳で破るのかよ!? 化け物かこいつっ」


「ヘンリーさん。そのアルセイデスはアルセじゃないです。大人しく返してください!」


「は? アルセじゃない? はっ。別にこんな雑魚どうでもいいんだよ。大物が釣れたみたいだしなぁ」


 辰真の更なる一撃で防壁が粉砕される。

 同時に飛び出しアルセイデスを投げつけるヘンリー。

 パルティが受け止めようとしたアルセイデスを、フレイムベアーが代わりに受け止める。

 アルセイデスに付いていたフリアールたちが炎に焼かれて死滅していった。


「オルァ!?」


「ハッ、カインをここでぶっ殺してやるつもりだったが、どうやらこの状態異常を何とかするのが先みたいだな。じゃあなカイン。テメェも黒死に染まりやがれ。ひゃははっ」


 ホーキンスを放置したまま炎の床を駆け抜けるヘンリー。

 ルグスがアルセに近づいて来るのに気付いて慌ててヘンリーから距離を取る。

 が、ヘンリーは気にせず横を駆け抜けワンバーカイザーを蹴りつけバズを体当たりで吹き飛ばす。

 ミルクティの腹を蹴りつけ飛び上がると、ボス部屋から脱出した。


「皆ッ!? ヘンリィィィッ!!」


「テメェはそいつと遊んでやがれカイィン! ひゃーっはっはっは!!」


 走り去るヘンリーに慌てて追い始めるカイン。

 しかしこちらも気になるようでミルクティを起こしたところで皆を見る。


「行きなさいカインさん。フレイムベアーだっけ、道中のフリアール対策にカインに付いて行って! アルセイデスは黒死に侵されてる。こっちで預かるわ」


 アカネの言葉に済まない。と答えてカインが走り去る。

 少し遅れてフレイムベアーが後を追いかけて行った。

 残った僕らはフリアクイーンとの対戦が残っている。


 クーフの柩がフリアクイーンの側頭部を穿つ。

 悲鳴をあげるフリアクイーンにエンリカの右フック。

 さらに崩れた身体にプリカ渾身の蹴りが襲いかかる。

 回復の暇など与えないとばかりに、水晶剣が水平に走り、切り裂くと同時に水晶粉を周囲に散らす。


 煌めく戦場に、真上から水晶剣が襲いかかった。

 舞うように次々水晶剣がフリアクイーンの身体に刻み込まれては周囲を彩る水晶粉へと変わっていく。

 さながらスターダストの中を踊るように、勇者アルベルトの連撃が、一気にフリアクイーンの体力を削り取った。


 そして、トドメと恨みを込めたロリコーン侯爵が突撃する。

 全身を穿つ連撃を、フリアクイーンは動くことすらできずにハチの巣になっていた。

 過剰戦力。もはや誰も本領発揮すらしてません。

 殆ど一撃入れたら倒せちゃった状態だよ。

 一番ダメージ叩き込んだのはアルベルトさんだ。ロリコーン侯爵なんかHP1の敵に必殺技使ったようなもんだし、完全なオーバーキルでした。


「終わった……?」


「フリアール消えました! 向こうのドアも開きましたよ!」


「地上に出れる魔法陣はある? あるならそちらから出ましょう、先回りできるかもしれないわ!」


「待ってくださいアカネさん。これ、黒死なのでしょう。私達の世界じゃ特効薬はあるけど、この世界にはあるの?」


 慌てて次の部屋に向おうとしたアカネをチグサが止める。

 既に彼女も所々黒死に犯されていた。

 苦しそうに呻きながらアカネを止める。


「分かってるわよ。だから急いで黒死の特効薬を……」


「違う。そうじゃない。黒死の恐ろしいところ。分かるでしょ」


 チグサが言いたいことを、アカネは直ぐに理解した。


「飛沫、感染?」


 その言葉に、この場の誰もが息を飲む。

 そう、黒死病。別名、ペストという病名が僕ら異世界人には馴染みある病気として存在する。それはネズミに寄生した蚤が人の血を吸血することで蔓延した飛沫感染型の悪夢である。

 昔の外国で発生したこの病気で、幾つもの村や街が滅んだと言われているのだ。


 つまり、黒死に感染した僕らが地上に出てしまうと、街の人たちにまで被害が及ぶ。

 それでこの世界にまだ特効薬がなかったら?

 簡単だ。マイネフランを中心にして各国に飛散した黒死によりこの星が滅びかねない。


 自分たちだけじゃない。世界がヤバいのだ。特に、この街には今、かなり多くの王族が泊っている。そこに黒死が蔓延するのだ。特効薬がなければマイネフランが周囲の国の王族を皆殺しにしたとさえ思われる悪夢が起こってしまう。


 そして、状態異常回復魔弾でも回復出来ないものだという。

 果たしてそんな特効薬が、地上に出回っているのだろうか?

 僕は仲間たちを見る。

 リエラの肌がまだらに黒くなりつつある。

 チグサはさらに酷い。

 ヘンリーに掴まっていたアルセイデスやホーキンスはさらにほぼ全身が真っ黒になっている。

 これはもう末期と言ってもいいだろう。


 数日は猶予があるはずなのに、何故こんなに一気に浸食しているんだろう?

 やはり別世界だから特性が違うのだろうか?

 炎の消えた床に寝かされたリエラ達が苦しそうに悶える。

 神様、あんたなんでこんな病気をこの世界に持ちこんだんだ……?

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