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その彼の名を誰も知らない  作者: 龍華ぷろじぇくと
第四話 その黒死の暴威を彼らは知りたくなかった
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AE(アナザー・エピソード)その救世主がどうして来てくれたのかを彼女は知らなかった

「このバカ勇者どもっ! なぜ焼かれないのよ!」


「無茶言ってんじゃねぇこの変態女! テメェに焼き殺されるような趣味はねぇんだよ!」


「違うわよっ! あんたがシールド張ったせいであんたの周りに付いてるフリアールが殺せないっつてんの!」


 自分たちの周囲の分は別の魔法で対処した。

 風魔法で一気に巻き上げ炎の渦に変えてフリアクイーンに打ち出した。

 通ったダメージはかなり強力で、しかも回復速度が格段に鈍っている。


「やっぱり。私たちから奪った吸血の能力でHPを集めてたのね。カラクリさえ分かれば負ける気がしないわ」


 アカネはニヤリと笑みを浮かべた。

 更なる追撃を。と魔法を唱え、気付く。

 ホーキンスの身体が黒く変色していた。


 目に見えて分かる程にまだらに色づいた黒。本人は気付いていないようだが、慌てて図鑑で確認すると、重度のステ異常に陥っている。

 背後の仲間を見る。まだ中度までの症状の仲間はフリアールに吸血されなくなったおかげかこれ以上重症化する可能性は低そうだ。


 だが、未だに吸血され続けているヘンリーたちは彼らしか吸血相手が居ないからだろう、フリアクイーンも近くで吸血できる彼らのもとへ新たに生成したフリアールたちを向わせ、アカネたちへと攻撃を再開する。


「お、おいホーキンス? お前、なんだその肌の色?」


「肌? うわ、何だこれ、ぐっ、なんか身体の調子がおかしいと思ったら……」


 我慢できなくなったとでもいうようにその場に崩れ落ちるホーキンス。

 そのうちヘンリーの側に居たアルセイデスも黒く身体が変色し始める。


「こいつらかフリアールッ!? ふっざけんな! キュアラオール!」


 慌てて状態異常回復魔法を掛けるがホーキンスに代わりはない。

 徐々に肌が黒く染まっている。


「ど、どうなってやがる!? キュアラオールは全状態異常回復だろ?」


「はっ。外道な勇者様でも仲間が危険だと動揺するのね」


「黙れ変態ッ!」


 イラッと来たアカネがヘンリーに魔法を向けようとした時だ。肩を掴んだエンリカが引きとめる。


「今はそっちに構ってる暇はないでしょ。アレを何とかするのが先決、違う?」


「炎の床は解くわけにはいかないわ。面倒だけどフロートで浮かんでいる私達は遠距離で倒すしかない。できる?」


「仕方無いわね。プリカ、弓貸してくれる? 矢は一つでいいわ」


「我も手伝おう。魔法なら得意だ」


 炎の熱で汗が流れる。床全てを舐めつくす炎に焼かれ、継続ダメージを受けるフリアクイーンだが、ヘンリーたちから手に入れるHPがダメージと拮抗しているようだ。

 その分ヘンリー達の症状が悪化していく。


「マズいですね。皆さんっ、ロリコーン侯爵さんが重度になってます!」


 チグサの言葉でこちらも次第悪化していることに嫌でも気付かされる。

 最後の一矢スキルでエンリカがフリアクイーンを打ち抜く。

 回復される前にデヌの暗黒魔法がフリアクイーンを吹き飛ばす。


 その瞬間、行動パターンが変化した。

 炎の床に出現するフリアルーラの群れ。

 アカネはさらに舌打ちする。

 炎を物ともせずに近づく人型大の蚤。一瞬で眼前まで近づかれて驚くアカネの横でチグサの剣閃が煌めいた。

 真っ二つにされたフリアルーラの背後から、更なる群れが迫る。


「エンリカさんとデヌさんはフリアクイーンを、私とプリカさんは接近した巨大フリアールを迎撃します!」


「了解。役に立つよエンリカ!」


「頼むわよプリカ。あんたに頼るのは癪な気もするけど、実力は分かってるもの、でも、食べちゃダメよ?」


「自ら黒死っていうの取り込む気はないよ!? 失敬な」


 解体用ナイフで迎撃を始めるプリカ。本来は飛びかかり引き裂き血肉を喰らうのが彼女のスタイル化しているのだが、今回ソレが封じられているのが痛い。

 代わりに、リエラの頭に乗った葛餅が触手を無数に伸ばしフリアルーラを切り裂いている。

 さらに背後に回り込んだフリアルーラはネフティアが無言で切り裂いて行く。


「マズいわね。この黒死、徐々にだけど進行してる。リエラが中度になったわ」


「今はとにかくフリアクイーンの撃破よアカネさん! あいつを何とかしないとさらに被害……が……」


 不意に、エンリカがぐらりと揺れた。

 咄嗟にプリカが倒れるエンリカを受け止める。


「え、エンリカ!? ど、どうしよう、これ、多分重度の症状だよ!?」


「クソッ、おい、ネフティアの奴も限界だ。チェーンソウ振りまわしながらぶっ倒れたぞ!?」


「あと少しだってのに……」


 思わず爪を噛むアカネ。

 そんな彼女の鬼気迫る顔を見て、リエラは思わず神に祈った。


「お願いします。神様、皆を助けて。誰でもいい。こんな絶望いらない。誰か、誰でもいいから……助けて……」


 それは、一人の少女の小さな祈りだった。

 本来ならば取るに足らない願いのはずで、神がその願いを叶える義理など一つもなかった。

 けれど、神が叶えずとも、その願いは……


「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」


 グァンッ、突如、閉じられたはずのボス部屋のドアが軋みをあげた。

 突然の異音にフリアルーラたちも動きを止める。

 バゴンッ、ドアが不自然にへこみを作る。強烈な一撃が外側から加えられているようだ。


「どけ颯太ッ! 俺がやる!」


 気合いの咆哮と共に更なる一撃が扉に加えられた。×字に切り裂かれたドアが、次の一撃で粉々に砕け散る。

 水晶と粉塵が舞い散るドアを蹴破り、水晶勇者アルベルトがボス部屋へと踏み行った。


「我が愛しき妹よ! もう安心だ! この水晶勇者アル……」


「おーっ!!」

「あ、こら、俺様の活躍の場をっ!?」

「ほげぇ~~~~~~~~~~~~~っ!!」


 そんなアルベルトを押しのけ、宙に浮いたアルセが飛び込んで来る。

 アルセの頭の花が大きく息を吸い込み奇妙な叫びをあげる。

 その声を聞いた時、リエラはなぜか絶望感が安堵感に塗り替えられていくのが分かった。

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